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夏は休み
不協和音 その2
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緊急に3年のみで行われた夏合宿も、無事に終了したよ。
隣の県にある小さめのコースを借り切って、1泊2日の日程で、水野が用意した、ボロボロのアルトで、とにかく走り回った。
このアルトさ、凄い低いグレードみたいで、窓が、ハンドルをくるくる回して開けるやつだし、ナンバーの地名の隣が『480』だったり、後ろの席が極端に狭くて、人がギリギリ乗れるようなやつなんだよ。
柚月に訊いたら
「軽商用《軽ボンネットバン》だよ~」
って、言ってたんだ。
それだと税金が安い代わりに、客室が荷室より広くなっちゃいけないから、後席が極端に狭くなるんだって。
そして、パワーが鬼のようになくてさ、まるで、最近まで私らの足を務めてた、原付に乗ってるみたいだったんだよね。
上り坂では失速するし、広い直線道路に入っても、失速しちゃうんだもん……でもって、それは錯覚によるもので、上りは別としても、直線路は、自分で期待してるスピードと差が大きいから、失速してるように感じちゃうんだって。
この車に乗る事によって、パワーを使い切る走りってやつを、覚えると共に、コース内で、ポイントを掴んで、その中で、どうやったら失速を最小限に喰い止めつつ、必要な減速をするか、とか、を考えて走るようになったよね。
これで走り込んでいって、最終日の最後にタイム計測をした結果、私、柚月、悠梨、優子、結衣の順でのタイムになったんだ。
私が一番だってのは、正直、意外だったんだけど、水野曰く『メリハリと、繋ぎがしっかりしていた』からだって言うんだ。
柚月に関しては『もう少し、減速のポイントを早められれば、逆転も可能だ』だって、でも、見てて私も思った。柚月は直線とかで、あと一呼吸、ブレーキ早められれば、次の曲がりで、もう少し内側狙えるのに……って、思ってた。
意外に健闘したのは悠梨で、水野曰く『メリハリはいいから、もう少し、内側に飛び込んで欲しい』とのことだった。
恐らくだけど、R33で8の字の特訓をやっていたのが大きいのかな……と、そして、R33の挙動の癖で、内側に苦手意識が強いのかもね……でも、見ていてもバランスが良かったよ。
優子は、正確さは良いし、走っているラインって、言うの? 通ってる場所は凄くいい所行ってるんだけど、もう少しスピードを上げて欲しいかな。
そして、一番残念なのが結衣なんだよね。
なんか、一番ムラがあるというか、一言言うと『飛ばし過ぎ』だよね。
スピードの出し過ぎで、カーブの前で速度が落ち切らない、だから曲がるタイミングが遅れる、そして、曲がりで遅れた分を、スピードで取り返そうとする……って、いう悪循環なんだよね。
どうなんだろ? 前にジムカーナの選手決める時のタイム計測では、そこまで酷いものじゃなかった気がするんだけどな……と思っていると、水野から
「本人の素質、その……前へ前へという、性格的なところから来るものというのもあるが、それと同時に、精神の乱れというものも大きいと思う」
と言われて、思い当たるのは、やっぱり優子との一件だった。
すると、それを訊いていた柚月も私に
「やっぱりぃ、この間の事があるのかな~?」
と、耳打ちしてきた。
でもさ、こればっかりは、私らで、どうにかできる事じゃないじゃん。
本人が、どうするかだよね。
しかも、今回は、全員参加の耐久レースだからさ、結衣だけ抜きにするって、訳にいかないんだよね。
今日は、その結果を踏まえた編成会議的なものが、水野と役員、つまりは私と柚月の3人で行われたんだ。
それにしても、やっぱり部室が微妙にぬか臭いな。優子め、一体いつからぬか床、作ってたんだ?
「海から帰って来た週は、無かったからぁ、ミュージアムのあたりからじゃないかな~?」
まったく優子め、罰として、アイツのあだ名はしばらく『ぬか床ババァ』だ。これは優子の友達にも徹底しよう。特に、あの綾香って娘にはね。
燈梨を助けたくば、優子のあだ名は『ぬか床ババァ』だってね。きっと、燈梨を人質に取られれば、綾香って娘はこっちの味方でしょー。
「人質を取ってる時点でぇ、味方も何もないと思うよ~。それにぃ、マイは燈梨ちゃんを汚すんだね~」
私は、燈梨を汚してるんじゃないやい、正義のために聖なる人質になってもらうだけだい。それに、優子のぬか床には、燈梨だって被害を受けてたからね。きっと進んで協力してくれるよ。
さて、本題の耐久レースの走行順なんだけど、水野が言うには、私と柚月は、1時間半ずつの走行で、どちらかが最初で、どちらかがラストという風にしたいとのことだった。
あとの3人は1時間ずつで、計6時間というものなんだけど、水野は言葉を濁しながら、缶コーヒーを一口飲んで、言った。
「ただ……だ、伊藤君の状況いかんによっては、その時間配分も若干調整するかもしれない。例えば、その……だ、彼女を30分にして、あとの2人に配分するとかだ」
うわっ! 露骨だなぁ……結衣の性格だと、とっても気を悪くするかもなぁ……と、口にすると、水野は言った。
「耐久レースという性格を考えると、こういう精神面に問題を抱えたドライバーがいるのは問題なんだ。なにせ、1台の車を、最後までもたせつつ、より速く走るのが、目的なのだからな」
うん、分かるよ。
5台の車でレースに出て、6時間走る分には、1人がリタイアしても、全体としては大きな問題にはならないけど、1台の車を5人でシェアしてレースを走り切る今回の場合は、1人がリタイアしてしまうと、全体が失格になってしまうって事だよね。
それに、今回の走りを外から見て判断するに、結衣をこのまま走らせたら、車が壊れるかもしれないんだよね。
「その通りだ。今回の試験車両には、データロガーをつけていて、各人の走りが、どの程度、車に負担をかけているのかを、測らせてもらった」
それによると、一番負担が少なかったのは、優子だけど、アレは、遅すぎるので、データとして役立たずで却下、次に負担が少ないのは、僅差で、私と柚月と悠梨だったそうだ。
そして、圧倒的に負担が大きいのは結衣で、それは2位以下をダブルスコア以上、引き離しているそうだ。
特に、エンジンとタイヤへの負担が桁違いで、ここは、上手く調整しながら走れないと、もたないだろうとのことだった。
水野曰く、軽自動車のノンターボの場合、長時間を走る耐久レースでは、後半でパワーダウンをしたり、エンジンがブローしたりする車が、ノーマルでも結構見られるそうだよ。
どうも、排気量に余裕がないために、回転数が高めになる傾向が否めず、そうなると、水温も上がりやすくなるし、なにより、エンジン本体への深刻な影響に繋がりやすいみたいなんだよね。
「マイ~、結衣はさ、エンジンを回し過ぎる傾向があるから、小排気量は向かないんだよね~、原付もそうだし~」
柚月が言ったので、そうなの? と、訊いた。
柚月曰く、結衣のビーノが廃車になった理由は、エンジンの回し過ぎによるブロックの疲労が原因だったらしい。
「私ね~、結衣にはバイクいじりは勧めなかったんだぁ、結衣がボアアップなんかしたら、すぐにエンジンをヤッちゃうからね~」
そうなんだ。
でも、それを踏まえると、結衣には、なるべく早いうちに走って貰った方が良いのかな?
「なんで~?」
その理論でいくとさ、疲労が蓄積した状態の車に乗せると、結衣の番で壊れてリタイアって、事になるよね。終了寸前でリタイアって、事になると、みんなのガッカリ感は、凄いことになると思うんだよね。
すると、柚月は、ポッキーを食べながら言った。
「でもさぁ、逆に2番手で壊れてリタイアした方が、乗れない人数が増えるからぁ、ガッカリしない~?」
そういう考えもあるんだけど、私的には、ダメになるなら、早目にダメになっちゃって、片付けとか済ませて、なるはやで撤退できるようにしたいかなぁ……って、思うんだよね。
私と柚月の意見が割れてしまって、膠着状態になってしまったのを見た水野が
「両人の考えは、どちらも至極もっともだと思う。それを踏まえてこの件は、私に預けるという事でどうだろう? そして、私の素案はこうなのだが、これに対する意見が欲しい」
と言って、紙を出してきたので、見ると、出走順だった。
それによると、『柚月→優子→悠梨→私』という順番で、柚月と悠梨の後ろにそれぞれ、丸印が付けられていて、結衣の名前が下にあった。
要は、結衣は現在のところ、保留にしておいて、その他の順序を決めたいというところだろう。
最初に柚月を持ってきたのは、前半で、ある程度の順位に上がっておきたい、というのと、柚月のタイム計測時に、やや走りにムラが認められたので、ラストで車の疲労度や、現在の順位とのバランスなどの判断の面で、やや譲るものがあるという判断だろう。
優子の2番手も妥当かなぁ。……これから本番までに、もう少し練習して、底上げするけども、だからと言って、どの程度まで速くなるかは未知数なので、最初の柚月でリードを作るだけ作って、優子での落ち込みのダメージを少なくするって考えだね。
それを補完するって意味での、3番手の悠梨だね。
これに出てくる、他の人たちのレベルが分からないんだけど、それでも、私らの中では、総合バランスではかなりいい線、いってるからね。
優子が落とした分を少しでも取り返しての、ラストの私へ繋ぐって言う戦略だろう。
これ自体には何の異存もなくて、良いとは思うけど、問題は、これのどこに結衣が入ってきて、当人が、本番のレースまでに、どこまで精神面を克服するかって事なんだよ。
今のままだと、ぶっちゃけ、どっちに入ってきても、次のドライバーが貧乏くじだからね……。
取り敢えず、第1回の編成会議は終わり、私と柚月は、水野から言われて、部車に乗って解体屋さんへと行った。
そう言われてみれば、前に、グリニッシュ・ブルーのS14の解体車が入ってきたって言ってたもんね。バタバタしてて、なかなか行けなかったんだ。
部車で解体屋さんの入口に差し掛かった時、解体屋さんからレッカー車に乗ったおじさんが出てくるところだった。
おじさんは、私たちを見ると、レッカー車を止めて運転席の窓を開けると
「大変なんだ! ちょっと一緒に来てよ!」
と言って、窓から親指を立てて、手を振って、ついてくるようにジャスチャーした。
私たちも、まさか、そんな事になっているとは、その時は思いもよらなかった。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『解体屋さんの慌てっぷりの理由が知りたい』『結衣の走行順が気になるっ』と、少しでも思われたら【★、♥評価】、ブックマーク頂けますと、創作の励みになります。
隣の県にある小さめのコースを借り切って、1泊2日の日程で、水野が用意した、ボロボロのアルトで、とにかく走り回った。
このアルトさ、凄い低いグレードみたいで、窓が、ハンドルをくるくる回して開けるやつだし、ナンバーの地名の隣が『480』だったり、後ろの席が極端に狭くて、人がギリギリ乗れるようなやつなんだよ。
柚月に訊いたら
「軽商用《軽ボンネットバン》だよ~」
って、言ってたんだ。
それだと税金が安い代わりに、客室が荷室より広くなっちゃいけないから、後席が極端に狭くなるんだって。
そして、パワーが鬼のようになくてさ、まるで、最近まで私らの足を務めてた、原付に乗ってるみたいだったんだよね。
上り坂では失速するし、広い直線道路に入っても、失速しちゃうんだもん……でもって、それは錯覚によるもので、上りは別としても、直線路は、自分で期待してるスピードと差が大きいから、失速してるように感じちゃうんだって。
この車に乗る事によって、パワーを使い切る走りってやつを、覚えると共に、コース内で、ポイントを掴んで、その中で、どうやったら失速を最小限に喰い止めつつ、必要な減速をするか、とか、を考えて走るようになったよね。
これで走り込んでいって、最終日の最後にタイム計測をした結果、私、柚月、悠梨、優子、結衣の順でのタイムになったんだ。
私が一番だってのは、正直、意外だったんだけど、水野曰く『メリハリと、繋ぎがしっかりしていた』からだって言うんだ。
柚月に関しては『もう少し、減速のポイントを早められれば、逆転も可能だ』だって、でも、見てて私も思った。柚月は直線とかで、あと一呼吸、ブレーキ早められれば、次の曲がりで、もう少し内側狙えるのに……って、思ってた。
意外に健闘したのは悠梨で、水野曰く『メリハリはいいから、もう少し、内側に飛び込んで欲しい』とのことだった。
恐らくだけど、R33で8の字の特訓をやっていたのが大きいのかな……と、そして、R33の挙動の癖で、内側に苦手意識が強いのかもね……でも、見ていてもバランスが良かったよ。
優子は、正確さは良いし、走っているラインって、言うの? 通ってる場所は凄くいい所行ってるんだけど、もう少しスピードを上げて欲しいかな。
そして、一番残念なのが結衣なんだよね。
なんか、一番ムラがあるというか、一言言うと『飛ばし過ぎ』だよね。
スピードの出し過ぎで、カーブの前で速度が落ち切らない、だから曲がるタイミングが遅れる、そして、曲がりで遅れた分を、スピードで取り返そうとする……って、いう悪循環なんだよね。
どうなんだろ? 前にジムカーナの選手決める時のタイム計測では、そこまで酷いものじゃなかった気がするんだけどな……と思っていると、水野から
「本人の素質、その……前へ前へという、性格的なところから来るものというのもあるが、それと同時に、精神の乱れというものも大きいと思う」
と言われて、思い当たるのは、やっぱり優子との一件だった。
すると、それを訊いていた柚月も私に
「やっぱりぃ、この間の事があるのかな~?」
と、耳打ちしてきた。
でもさ、こればっかりは、私らで、どうにかできる事じゃないじゃん。
本人が、どうするかだよね。
しかも、今回は、全員参加の耐久レースだからさ、結衣だけ抜きにするって、訳にいかないんだよね。
今日は、その結果を踏まえた編成会議的なものが、水野と役員、つまりは私と柚月の3人で行われたんだ。
それにしても、やっぱり部室が微妙にぬか臭いな。優子め、一体いつからぬか床、作ってたんだ?
「海から帰って来た週は、無かったからぁ、ミュージアムのあたりからじゃないかな~?」
まったく優子め、罰として、アイツのあだ名はしばらく『ぬか床ババァ』だ。これは優子の友達にも徹底しよう。特に、あの綾香って娘にはね。
燈梨を助けたくば、優子のあだ名は『ぬか床ババァ』だってね。きっと、燈梨を人質に取られれば、綾香って娘はこっちの味方でしょー。
「人質を取ってる時点でぇ、味方も何もないと思うよ~。それにぃ、マイは燈梨ちゃんを汚すんだね~」
私は、燈梨を汚してるんじゃないやい、正義のために聖なる人質になってもらうだけだい。それに、優子のぬか床には、燈梨だって被害を受けてたからね。きっと進んで協力してくれるよ。
さて、本題の耐久レースの走行順なんだけど、水野が言うには、私と柚月は、1時間半ずつの走行で、どちらかが最初で、どちらかがラストという風にしたいとのことだった。
あとの3人は1時間ずつで、計6時間というものなんだけど、水野は言葉を濁しながら、缶コーヒーを一口飲んで、言った。
「ただ……だ、伊藤君の状況いかんによっては、その時間配分も若干調整するかもしれない。例えば、その……だ、彼女を30分にして、あとの2人に配分するとかだ」
うわっ! 露骨だなぁ……結衣の性格だと、とっても気を悪くするかもなぁ……と、口にすると、水野は言った。
「耐久レースという性格を考えると、こういう精神面に問題を抱えたドライバーがいるのは問題なんだ。なにせ、1台の車を、最後までもたせつつ、より速く走るのが、目的なのだからな」
うん、分かるよ。
5台の車でレースに出て、6時間走る分には、1人がリタイアしても、全体としては大きな問題にはならないけど、1台の車を5人でシェアしてレースを走り切る今回の場合は、1人がリタイアしてしまうと、全体が失格になってしまうって事だよね。
それに、今回の走りを外から見て判断するに、結衣をこのまま走らせたら、車が壊れるかもしれないんだよね。
「その通りだ。今回の試験車両には、データロガーをつけていて、各人の走りが、どの程度、車に負担をかけているのかを、測らせてもらった」
それによると、一番負担が少なかったのは、優子だけど、アレは、遅すぎるので、データとして役立たずで却下、次に負担が少ないのは、僅差で、私と柚月と悠梨だったそうだ。
そして、圧倒的に負担が大きいのは結衣で、それは2位以下をダブルスコア以上、引き離しているそうだ。
特に、エンジンとタイヤへの負担が桁違いで、ここは、上手く調整しながら走れないと、もたないだろうとのことだった。
水野曰く、軽自動車のノンターボの場合、長時間を走る耐久レースでは、後半でパワーダウンをしたり、エンジンがブローしたりする車が、ノーマルでも結構見られるそうだよ。
どうも、排気量に余裕がないために、回転数が高めになる傾向が否めず、そうなると、水温も上がりやすくなるし、なにより、エンジン本体への深刻な影響に繋がりやすいみたいなんだよね。
「マイ~、結衣はさ、エンジンを回し過ぎる傾向があるから、小排気量は向かないんだよね~、原付もそうだし~」
柚月が言ったので、そうなの? と、訊いた。
柚月曰く、結衣のビーノが廃車になった理由は、エンジンの回し過ぎによるブロックの疲労が原因だったらしい。
「私ね~、結衣にはバイクいじりは勧めなかったんだぁ、結衣がボアアップなんかしたら、すぐにエンジンをヤッちゃうからね~」
そうなんだ。
でも、それを踏まえると、結衣には、なるべく早いうちに走って貰った方が良いのかな?
「なんで~?」
その理論でいくとさ、疲労が蓄積した状態の車に乗せると、結衣の番で壊れてリタイアって、事になるよね。終了寸前でリタイアって、事になると、みんなのガッカリ感は、凄いことになると思うんだよね。
すると、柚月は、ポッキーを食べながら言った。
「でもさぁ、逆に2番手で壊れてリタイアした方が、乗れない人数が増えるからぁ、ガッカリしない~?」
そういう考えもあるんだけど、私的には、ダメになるなら、早目にダメになっちゃって、片付けとか済ませて、なるはやで撤退できるようにしたいかなぁ……って、思うんだよね。
私と柚月の意見が割れてしまって、膠着状態になってしまったのを見た水野が
「両人の考えは、どちらも至極もっともだと思う。それを踏まえてこの件は、私に預けるという事でどうだろう? そして、私の素案はこうなのだが、これに対する意見が欲しい」
と言って、紙を出してきたので、見ると、出走順だった。
それによると、『柚月→優子→悠梨→私』という順番で、柚月と悠梨の後ろにそれぞれ、丸印が付けられていて、結衣の名前が下にあった。
要は、結衣は現在のところ、保留にしておいて、その他の順序を決めたいというところだろう。
最初に柚月を持ってきたのは、前半で、ある程度の順位に上がっておきたい、というのと、柚月のタイム計測時に、やや走りにムラが認められたので、ラストで車の疲労度や、現在の順位とのバランスなどの判断の面で、やや譲るものがあるという判断だろう。
優子の2番手も妥当かなぁ。……これから本番までに、もう少し練習して、底上げするけども、だからと言って、どの程度まで速くなるかは未知数なので、最初の柚月でリードを作るだけ作って、優子での落ち込みのダメージを少なくするって考えだね。
それを補完するって意味での、3番手の悠梨だね。
これに出てくる、他の人たちのレベルが分からないんだけど、それでも、私らの中では、総合バランスではかなりいい線、いってるからね。
優子が落とした分を少しでも取り返しての、ラストの私へ繋ぐって言う戦略だろう。
これ自体には何の異存もなくて、良いとは思うけど、問題は、これのどこに結衣が入ってきて、当人が、本番のレースまでに、どこまで精神面を克服するかって事なんだよ。
今のままだと、ぶっちゃけ、どっちに入ってきても、次のドライバーが貧乏くじだからね……。
取り敢えず、第1回の編成会議は終わり、私と柚月は、水野から言われて、部車に乗って解体屋さんへと行った。
そう言われてみれば、前に、グリニッシュ・ブルーのS14の解体車が入ってきたって言ってたもんね。バタバタしてて、なかなか行けなかったんだ。
部車で解体屋さんの入口に差し掛かった時、解体屋さんからレッカー車に乗ったおじさんが出てくるところだった。
おじさんは、私たちを見ると、レッカー車を止めて運転席の窓を開けると
「大変なんだ! ちょっと一緒に来てよ!」
と言って、窓から親指を立てて、手を振って、ついてくるようにジャスチャーした。
私たちも、まさか、そんな事になっているとは、その時は思いもよらなかった。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『解体屋さんの慌てっぷりの理由が知りたい』『結衣の走行順が気になるっ』と、少しでも思われたら【★、♥評価】、ブックマーク頂けますと、創作の励みになります。
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