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夏は休み

変態さんと文化祭準備

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 学校に帰った私は、柚月と一緒に水野を訪ねて、明日の燈梨の学校見学の依頼をした。
 水野は、私からの唐突な依頼に、少し驚いていた様子だったが

 「なに、パンフレット配布の効果があって、早速、見学希望者が来たと言って、思い切り学校側にアピールしておくさ。向こうの県の学校が、車両通学の検討をしている話に、かなり焦りを感じているからね」

 と言って、OKしてくれた。
 やっぱりそうだろうね。ウチの学校は、部活での失敗が相次いだけど、バイク通学のメリットで、年々、越境受験する受験者数が、右肩上がりになっていて、それが生命線になっていたんだよね。
 だから、そこに、向こうの学校がバイクや車を解禁しちゃうと、ただでさえ、少子化で生徒数が減少している中で、更に減少しちゃうからね。ここは、必死にもなるよね。

 ただ、私が今日行ってみた感じは、何のかんの言っても、向こうの学校でバイクや車の通学が、定着するには、長い時間がかかるかもね。
 バイク置き場や、駐車場の確保が難しそうだったし、許可のハードルを高くして、人数を少なく抑えようという狙いが見えちゃって、それだと、生徒からの理解は得られないかもね……。

◇◆◇◆◇

 今日の午後は、早速燈梨の学校案内だ。
 部の緊急合宿の準備なんかがあったので、急遽、午前中から部活をやって、午後の部は、自由参加にしたら、午前終了後、結衣は帰っちゃったんだよ。
 ……なーんか、結衣の感じがおかしいんだよね。明らかに今日も、『優子がいるから帰る』みたいな雰囲気出してるしさ。
 嫌だな、そういうバチバチした雰囲気、しかも友達同士でしょ? なんで仲良くできないかな?

 それで、午後からの燈梨の案内は、私と柚月で良い?

 「良いと思うよ、私は、1、2年生と、文化祭に向けて、ムーヴとプレミオの素案をまとめたいんだ」
 「私も良いと思うよ。燈梨ちゃんと一番触れてるのはマイとユズなんだから、私は練習走行の同乗に回ってるよ」

 悠梨と優子からも言われた。
 うん、最近、合宿とか、耐久レースの話題に隠れちゃってるんだけど、文化祭に向けても、我が自動車部は、しっかり活動することになっるんだよ。
 できる事って言っても、車両の展示なんだけど、そこに向けて各車をドレスアップして、人目を惹きたいよね。

 もう、外装の出来上がっているノートとエッセは、校門前の特設ステージに展示するんだけど、その他の車も、これを機に、ドレスアップしちゃおうって事になったんだよ。
 当日、メインになるのは、このガレージと、練習場にある車たちだからさ。

 実は、もうタイプMは、夏休みの活動で、塗装ブースに入って、悠梨の手によって、元の白と、紺色のメタリックのツートンカラーの、カッコ良い仕様になったんだよね。前半分が白で、ドアの途中くらいから、斜めに青が上がってきて、後ろ半分が青でさ。

 やっぱり悠梨は、こういうところでセンスが光るよね。 
 それで、GTEは、敢えてノーマルの渋いお爺ちゃん仕様にして、レースのシートカバーと、リアの窓にレースのカーテンをつけておきながら、車高は下げて、っていう、ミスマッチ仕様にすることは決めてるんだよ。
 そこで、ウチの部の中で、どうにもならない、あの冴えない2台のグラウンド整備車も、この機会に外装をカッコ良く決めれば、面白いんじゃないって、いう発案で、悠梨の仕切りでやってるんだ。

 やっぱり外装は悠梨の独壇場だよね。頼りにしてるからね!

 「へっへ~ん、もっと言ってくれて良いよ~!」
 「よっ! 日本一!」
 「オイ、適当だな!」

 ははははっ!
 そうだ、みんなでお昼に行かない? 今日は、学食が開いてるハズなんだよね。
 ホラ、普段私らって、お弁当だからさ、学食使う機会も、そうそうないんだよね。

◇◆◇◆◇

 げぷって、柚月さ、いくらおかわり無料だからって、3杯もおかわりしないんだよ、みっともないじゃん!

 「なんで、マイがみっともないんだよ~」

 当たり前だ! こんなのと、ツレだと思われるだけで、私のセレブ度合いが4段階くらい下がるんだよ。いいか? 5段階中の、4段階だからな!

 「『こんなの』って、なんだよ! 『こんなの』って、大体、マイがセレブな訳ないだろ~、ムチムチおデブのマイのくせに」

 なんだと! 柚月、この野郎! 『こんなの』だから『こんなの』って言って、何が悪いんだよ。大体、ムチムチデブは、柚月の方だろーが、あんなに無駄飯、喰らいやがって、柚月の辞書にはダイエットって、言葉はないのかよ?

 校門前で、柚月と掴み合っていると、見覚えのあるシルバーのS14が、やって来ているのが見えたので、柚月の頭を押さえつけた。

 「来たの?」

 私が頷くと、柚月も向こうを見て、その姿を認めると、すぐに校門の中へと素早くダッシュで向かって行った。
 私が校門で燈梨を迎え、柚月が中で誘導する段取りだ。

 燈梨のシルビアが、私の脇で止まって、運転席の窓が開いたので、私は

 ようこそ、燈梨。中に柚月がいるから、柚月の誘導に従ってね
 と言うと、燈梨を先に行かせて、柚月に引き継いだ。
 校門の中に入って行くと、正面の来客駐車場に、燈梨のシルビアは止まっており、柚月と中に入って行ったようだ。

 私は、生徒の昇降口から中へと入り、職員室へと先回りした。
 柚月とやって来た燈梨と合流すると、柚月を外で待たせて水野を訪ねた。

 「それでは、舞華君、今日はよろしく頼むよ」

 と、水野は言うと、案内を渡して、自分は、そのままデスクについてしまった。
 いつも通りながら、マイペースだなぁ……。
 私らは、水野はこういう人だって、分かってるから良いんだけどさ、初対面の燈梨は、自分に関心がないのかなぁ……って、ヘコんじゃうでしょーに。
 あ、そうだ、フォローしとかなくちゃ。

 あのね、燈梨。
 アイツは、水野って言って、自動車部の顧問で、化学の教師なんだけど、見ての通りの天然さんで、マイペースだからさ。
 決して興味がないとか、無関心とかじゃなくて、アレが普通だから、むしろ、感情を動かしているのを、見た事がないくらいだから、あんまり気にしなくて良いよ。
 
 「そう……なんだ」

 もう~! 水野が変態の天然さんなせいで、燈梨がまた暗い表情になっちゃったじゃん! 今の私の説明が、下手なフォローみたいに聞こえたに違いないよ。

 「追いついた、追いついた~!」

 柚月が、人数分のサイダーを持って追いついてきた。
 私は、職員室での水野の話をした。
 ねぇ、柚月からも説明してよ~、アイツは変態の天然さんだって。

 「マイ~、天然さんだって、ところは良いとして、なんで変態ってところまでの説明がいるの~?」

 だって、アイツがおかしくて、燈梨はおかしくないって、分からせてあげないと、燈梨は、きっと自分がいらない子扱いされてる、って思っちゃうよ!

 私たちのやり取りを、ぽかんとした表情で眺めていた燈梨は、やがてプッと吹き出して

 「大丈夫だよ、むしろ、2人の方が必死なのを見たら、私が考えるような事はなかったんだなぁって、分かったから」

 と、言った。
 さっきまで暗く沈んでいた燈梨が、笑顔になった事が嬉しくて、私は思わず燈梨の手を取ると

 「それじゃぁ、行こう!」

 と言って、ズンズンと歩き出していた。

◇◆◇◆◇

 学校と、設備や授業の説明と、部活の説明は、ほとんど終わった。
 事前に、柚月と、今日来ている部活をリストアップして、挨拶をしておいた事もあって、どこの部も快く、活動風景を見せてくれて、説明もしてくれた。

 やっぱり燈梨が美少女だから、どこの部でも注目を集めていて、色々な部から「入学したら、ぜひウチの部に入ってね!」って、言われてたよ。
 でもって、燈梨が1年遅れでも、2年生の秋からだから、入部しても、大会とかを諦めなきゃならない部が結構あるのは、残念なところかなぁ……。
 中学や高校って、部活が一番楽しい時じゃん! それを当人の意志と関係ないところで、できなかったなんてさ、ホントに、燈梨の親って、人間じゃないよね。

 なに柚月? また燈梨ちゃんの親に対する感情が、口からだだ洩れてたって?
 あ、ごめんね燈梨。

 「いいよ、むしろ、今までの私が、おかしかったんだなって、みんなや、綾香に会うまで分からなかったからさ、言われた方が実感できるよ」

 そう? 
 それじゃぁ、気を取り直して、あとは、私の所属する自動車部と、柚月の所属するマゾヒスト部を見て貰おうかなぁ。

 「マゾヒスト部なんて、無いから~!」


──────────────────────────────────────
 ■あとがき■

 ★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
 毎回、創作の励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。

 
 次回より、更新を1日1話に変更させて頂きます。
 ですので、明日のお昼頃にアップします。
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