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夏は休み

地下とマメ知識

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 中に入ると、売店と受付があった。
 あれ? 見た感じ、上にフロアは無いような感じに見えたんだけど、まさか、売店だけしかないの? もしかして、おもちゃのミュージアム?

 くそぅ、結衣め、私らを騙したなぁ……オイ、柚月、作戦変更! 結衣を木に縛り付けて帰るよ!

 「え~、でも、まだ中見てないよ~」

 何言ってるのさ、もうぐるっと見回して、これだけしかないのが確認できたじゃないさ、今更、何を見るものがあるんだよ。
 え? なに優子? 地下だって? ここのメインは地下なんだって?

 コホン、じゃぁ、まず受付で、割引が受けられるクーポンを用意してきたんだ。なので、まずはそれを出して、中に入るよ。

 階段を降りると、大きなおじさんのパネルがある。誰コレ? 日産の社長?
 2代目から7代目までのスカイラインの設計に関わって、取りまとめをした、スカイラインの父と呼ばれる人だって? そして、このミュージアムの初代館長だって?
 ちなみに、プリンスに転職する前に勤めていたゼネコン時代に、ミキサー車を考えたのも、この人なんだって?
 へぇー、そうなんだぁ、でも、7代目だと、R31だから、R32には関係ないんだね。

 なんだよ結衣、なに? 今の私の発言は、スカイラインファンからしたら、不敬罪で死刑ものだって?
 なんで、死刑にならなきゃならないのさ! 私は事実に対する感想を言ってるだけだよ。

 今度は、村山工場ってパネルだ。下には『中島飛行機、富士精密、プリンス自動車、日産自動車の歩み』って、書いてあるよ。
 中島飛行機ってのは、戦前、戦中の飛行機メーカーで、プリンスの源流の1つ、今のスバルと同じだって? その縁もあって、スバルは、日産の経営が悪化するまで、長年提携をしていたんだって。
 で、富士精密工業っていうのが、後のプリンス自動車なのか、そして、プリンス自動車から日産自動車って訳ね。それで、この村山工場ってのは、東京都下の村山の工場なんだね。
 え? 2004年に閉鎖されてるって? つい最近まで存在したんだね。スカイライン、ローレルや、マーチ、キューブなんかも生産されてたんだ。

 なるほど、なるほどねぇ。
 なに優子、スバルと日産の関係性の豆知識を教えてあげるって?

 その1、スバルで最初に作った4WD車である、スバル1300バンの4WDには、当時スバルで持っていた部品だけでなく、ノウハウの少ない後輪駆動の部位は、日産から出してもらった部品も使って成立させていたから、ブルーバードと共通部品があるって?
 その2、スバル復活の立役者と言われる社長は、経営支援のため日産から送られた社長で、前任は日産ディーゼル工業の社長だったって?
 その3、スバルが経営が苦しくて、工場の稼働率が下がっていた時、工場を支援するために、日産から、パルサーというコンパクトカーの生産を委託されていたため、パルサーの一部はスバル工場製があるって?
 その4、2代目のマーチと、スバルのコンパクトカーのジャスティは、マーチのOEM供給が前提となっていたため、当時スバルが、ほぼ独占的に持っていたCVTが、日産側に供給されたけど、寸前になって4WDの設定を巡って話が頓挫し、OEM供給の話は立ち消えとなって、日産側へのCVT供給だけが残ったって?

 その5……って、もういいよ。
 この辺で切っておかないと、優子のこの手のカルトな話は、終わりの見えないトンネルのごとく続くからね。

 これがプリンスの車だね。
 この黒くてずんぐりしてるのが、初代グロリアか。
 ちなみに、初代グロリアは、初代スカイラインのボディを一部変更したものなんだよね。だから、そう、初代のスカイラインは、実は高級車として登場したんだよ。

 隣に3台並んでるのが、2代目グロリアだね。
 凄いねぇ、見た目がシャークだねぇ、サメっぽいねぇ。
 この端っこにあるオープングロリアは、パレード用の特別製なんだね。普通は、4ドアセダンとバンなんだ。高級車にもバンがあったんだねぇ。

 え? 昔は、クラウンやセドリックでも、ライトバン仕様は当たり前にあったって? 自営業の人なんかは、車が贅沢品の頃は、そうやって上級車のライトバンを買って、自家兼用にしてたんだって? なるほど、さすが優子の家は、商売をやってるだけあるね。

 端っこのトラックは、ホーマーって、いうんだね。
 日産合併後も続いたけど、1976年に終了か。
 
 なに優子? そのホーマー終了後に、ワンボックス版だったホーミーが、日産キャラバンの姉妹車として、モデルチェンジして残ったって?
 ちなみにホーミーの名前の由来は『私のホーマー』っていう、造語だって? ふーん、更に、ホーミーっていう名前は、沖縄の方言で女性器を表す言葉と似てるから、沖縄のプリンス販売店では販売されずに、プリンス店でも、キャラバンが販売されてたんだって?

 しまった! こういうところでの優子は、とにかくマシンガントークが止まらないんだった。
 このままだと、落ち着いて展示が見られないよ。すっかり忘れてたけど、正直邪魔だなぁ……入る前に、結衣と一緒に、木に縛り付けてくれば良かったなぁ……。

 オイ、柚月、なんで逃げるんだよぉ。

 「マイと一緒にいると、優子がついてくるからだよ~」

 ふざけるなよぉ! 私を露払いにして、優子のお守りを任せるんじゃないよ! なんで、さっき優子を、木に縛り付けてこなかったんだよぉ!

 「マイがユイと、暴れてたからだよ~」

 あ、優子と結衣が話し始めたぞ。
 今のうちに離れた展示を見に行こう。

 ここからがスカイラインだね。
 初代はセダンとバンだ。初代のバンは、スカイラインじゃなくて、スカイウェイって、いったんだね。
 最初は1500ccでスタートしたけど、法改正の影響で1900ccにまで、拡大したんだって。
 これとは全く別に、スカイライン・スポーツっていう車もあったらしいね。2ドアクーペとオープンがあったんだけど、スポーツというより、優雅なクーペみたいな趣の車だったらしいよ。

 これが2代目だね。
 グロリアが登場したことから、ファミリーカーに転身して、最初は、1500ccでスタートして、第2回の日本グランプリでの必勝を狙って、グロリアの6気筒2000ccを無理矢理搭載して、レース出場用に100台だけ作ったのが、スカイラインGTの始まりだったんだって。
 その際に、送り込まれてきたポルシェのエボリューションマシンに対し、ほんの一瞬だけ、トップを走ったという事実が、後のスカイライン伝説へと繋がったんだって。

 その後、スカイラインGTが欲しいっていう声が上がって、メーカーを突き動かして9ヶ月後に量産を開始したんだって。
 その後に、キャブレターを社外品の3連から通常品に替えたマイルドなGTが発売されて、それを機に、マイルドなGTをGT-A、ハイパワー版をGT-Bとしたんだって。
 この2代目の途中で、日産と合併したので『ニッサン・プリンススカイライン』ってなったらしいよ。

 うん、確かに1500cc版と、GTを見比べると、結構、無理矢理で伸ばしたのが分かるよね。GTの方が間延びしててバランス悪いもん。

 これが3代目だね。
 最初は、1500ccの4ドアと、ライトバンと、ステーションワゴンで登場して、2ヶ月後に2000GT、半年後にDOHCエンジン搭載のGT-Rがデビューしてるんだね。
 2年後のマイナーチェンジで、スカイライン初の2ドアモデルが登場してるんだ。この3代目の2ドアが、10代目までで唯一、2ドアと4ドアのホイールベースが違って、2ドアが7センチ短くて、旋回性に優れるらしいよ。

 このGT-Rに搭載されているS20エンジンは、GTに搭載されているL20エンジンをベースにしたのではなく、レースマシンのR380のエンジンを公道向けにデチューンしたエンジンだってのが、凄いところなんだって。

 ここにあるのが、4ドアのGT-Rと2ドアGT-Rのレース仕様か。R30型まで、2ドアはハードトップだから、センターの柱が無くて、前後とも窓が開けられるようになっていて、全開すると、開放感が抜群だったらしいよ。

 柚月、このライトバンなんだろうね? 赤白青の3色で塗り分けられていて、『ニッサンサービス』って書いてあるよ。
 え? 昔の日産の販売店の看板や店舗は、全てこの赤白青で塗り分けられていて、日産トリコロールカラーと言われていたんだって?
 そして、ディーラーや、部品販売なんかでは、このカラーに塗り分けられたライトバンやトラックが、サービスカーとして使われていたんだって?

 「父さんが言ってたよ~。私やマイのよく行くディーラーでも、R30のバンが、その色であって~、同じ色のアベニールのバンに切り替わって、そのアベニールが、サービスカーのラストだったって~」

 そうなのか、昔はよく見た光景の車なのか。
 今度ディーラーで訊いてみよう。

 そして、3代目スカイラインは、通称が『箱スカ』というらしいよ。
 箱型スカイラインで、ハコスカなのかな?
 ちなみに、GT系も含めて、このハコスカは、丸いテールランプじゃない、珍しい代なんだよ。
 
 この3代目スカイラインは『愛のスカイライン』というキャッチフレーズで広告展開を行って、販売的にも成功を収め、後のスカイライン伝説の礎《いしずえ》を築いたんだって。
 

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