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春は出会い……
秘密会議と乗組員
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翌日、私と柚月は解体屋さんにいた。
優子は、免許センターの試験に行ったため、部の用事のついで、という名目で行ったんだ。
取り敢えず、必要なのは、エンジンと燃料タンク、タイヤとホイール、それにコンピューター……かぁ、結構多いね。
「取り敢えず、だからね~。もしかすると、もっと必要になるかも~だよ」
柚月、脅すなよぉ。
え? 本気で言ってるって?
エンジンは確定としても、R32はGT-R以外の燃料タンクは鉄製で、あれだけの放置だと、中が錆びきっている可能性大だから、これもマストで交換、それと、あんなタイヤだと、ジャッキアップすらできないから、取り敢えず、履かせられるものを用意しないと、そして、あのエンジンを制御していたコンピューターだと、ノーマルのエンジンが動かない可能性があるから、純正のコンピューターがいるって事ね。
あ、柚月、ちょっと待って、兄貴からLINEだ。
どうやら、優子の伯父さんのR32について、分かった事があったみたいだよ。
あの車を作った店が、まだ残ってて、ライター時代の知り合いだったから、訊いてくれたんだって。
仕様が書いてあるね。これによると、柚月の読み通り、メッチャ神経質なエンジンの仕様だから、あれだけの期間、放置してたら、1回全バラシして、オーバーホールしないとダメだってさ。
で、コンピューターはサブコンだから、サブコンだけを外せば純正になるんだね。じゃぁ、コンピューターはナシでOKっと。
あと、柚月、ブレーキのところに妙な事が書いてあるんだけどさ、これってどういう事?
え? 助かったって? そうなんだ、助かったんなら、態度で示して欲しいね、柚月、痛っ! 何するんだ! このぉ~、私と闘って、勝てると思ってるのかぁ~。
どうだ! 参ったか、参ったって言え!
「ゴメンなさい~、参りました~!」
だから、謝るくらいなら、最初から、人にちょっかいなんて出すんじゃないよ。
それで、今日のところは、持って帰れるものは無いんでしょ? 物の確保だけだよね。
RB20DEは、結構ゴロゴロあったね。フィラーキャップから覗いてみて、オイル管理の良さそうだった上、走行距離も短めだった後期型の4ドアのAT車のにしよっかぁ。
一緒に燃料タンクもその車ので良いよね? 解体屋のおじさんの話だと、70代の夫婦が新車の頃から乗ってた車だから、いつも満タンにしてたって話だし。
あとは、トラックの手配だよね。クレーン付きじゃないと、きついよね。水野にでも頼もうか、でもって、優子が、私たち2人以外には、まだ内緒にしてて欲しい、って言うから、まだみんなには伏せていたいって? 困ったなぁ……。
あ、解体屋のおじさんだ。何か困った事かって?
実は、友達の優子から、亡くなった伯父さんの乗ってたR32に乗りたいって言われたんです。ただ、もう10年くらい動かしてなくて、エンジンを、ここにある廃車のエンジンと積み替えようとしてるんですけど、どうやって運ぼうかと思ってて。
「そんなんだったら、その車を、ここに持って来て、作業した方が、手っ取り早いよ。場所も、設備も使っていいからさ」
いや、でも、エンジンがかからないし、タイヤも蒲鉾みたいな形になっちゃってて、走れる状態じゃなくて。
「じゃぁ、ウチのレッカーで引っ張って来てやるよ。6気筒エンジンの積み下ろしを、エンジンクレーンも無しでやるなんて、自殺行為だよ! いいから、いいから、ウチも、若い娘が来てくれた方が、オジサンも仕事が捗るからよ!」
「ありがとうございまーす!」
私と柚月は、無意識に同時に言っていた。
◇◆◇◆◇
翌日の学校には、優子が、見た事のない車に乗ってやって来ていた。
グレーのセダンで、セダンとは言っても、よく見るセダンよりも、なんと言うんだろうか、タクシー臭がするというか、なんか垢抜けない感じがするセダンだった。
当然、やってきた優子に、待っていたかのように、みんなで訊いた。
「どうしたの? あの車」
こう訊いた私と柚月を、悠梨と結衣が、訝し気な表情で見ていた。
あっ! 悠梨と結衣は、優子が伯父さんのR32を直して乗ろうとしている事を知らないから、当然、今日乗ってきた車を、優子の車だと思っているんだ。
「えっ? アレ、優子の車じゃないの?」
悠梨が訊くと、優子は
「うん、まだ車が決まらないし、お爺ちゃんが、もう施設に入っちゃったから、使ってるんだ」
と、へらっとした笑いを浮かべながら言った。
すると結衣が言った。
「さすがに、優子がアレを買うとは思えないからさ、ちょっとビックリしちゃったよ」
「でも、アレも一応エンジンはRBだからね」
「ええーーっ!」
何故か、私以外の3人が驚いた。
その様子を見た柚月が、私に訊いた。
「マイは、あの車、知ってるの~?」
「うん、昔兄貴が、アレにGT-RのRB26DETTってのを積んで乗ってたよ。日産クルーっていう、タクシーに使う車でしょ」
実は、私も今まで忘れてたんだけど、優子が、エンジンがRBって、言った瞬間に思い出したんだよね。
兄貴は、オプションの自動ドア付きのやつに乗ってたから、強烈に覚えてたんだよ。小学生の頃、あの車に乗る時は、わざわざ、自動ドアのある、左後ろのドアから乗るようにしてたんだもん。
GT-Rが事故った後、エンジンと部品だけが残って、余った部品を、有効活用して作ったって、当時兄貴が自慢してたのを覚えてるよ。
「マイは、知ってたんだね」
優子も、私が絶対に知らないと思っていたようで、驚いてたけど、兄貴の乗ってた車は、大抵覚えてるよ。
え? いちいち、兄貴の乗ってた車を、全部は覚えてないって? 優子、ダメだなぁ~、それじゃぁ兄貴のシンパは名乗れないよぉ……って、なんか悔しそうだな。
昼食が終わると、柚月と一緒に、優子をガレージに連れて行った。
あの2人がいる前では、伏せておかなければならない話題なので、人のいない場所を探してここに来たんだ。
まぁ、ドラマじゃないからさ、普通は、学校の屋上なんて入れるわけないし、自動車部の特権を使って、人払いができる場所と言えば、ここしかない訳よね。
柚月を見張りに立たせた。
悠梨と結衣は、結構勘が鋭いから、もしかしたら、朝のやり取りだけで、勘づいているかもしれないからね。用心に越したことはないよ。
私は、優子に向かい合うと、静かに言った。
「優子、兄貴から連絡があった。あのGTSの仕様が分かったんだ」
「えっ!?」
「あの車を作った人、兄貴がライター時代に取材したことあるから、訊いてくれたんだよ」
「それで」
「物凄く精密で、ちょっとした環境変化にも敏感なんだって、だから、その放置期間だと、かかったとしても、すぐに壊れるって」
「そうなんだ……」
「組んだ人が言ってたって、『まずはノーマルの状態を乗りこなせ』って」
「……」
優子は、俯いて黙り込んでしまった。
そうだと思うよ。目の前に凄いエンジンを組んだ、凄い車があるのに、お預けを喰らっちゃってるんだもんね。
そりゃぁ、私だって同じ立場なら不服だろうよ。だから、組んだ人の言葉を伝えておくかな。
「優子の伯父さんはね、ノーマルを20万キロ乗りこなしてから、初めてエンジンに手を入れたんだって、前に乗ってた紺色のR32は、足回りだけで、エンジンは、マフラーすら替えてない、ノーマルだったって」
「ええっ!」
優子は驚いてるよね。そりゃそうだ。
優子の伯父さんの前に乗ってたR32が、紺色だったなんて、ウチの兄貴ですら知らなかった情報だもん。
恐らく、優子は、家に伯父さんの古い写真とかがあって、それに写ってるR32を見ているから、知ってるんだろうね。
それを伝えると、優子の目から、迷いの色が消えた様に見えたよ。そこからは落ち着いて話を訊いてくれたんだ。
「優子、だから、あのエンジンは、降ろしたら東京にある、そのお店に送るよ」
「なんで?」
「伯父さんと、お店の人との約束だったみたいだよ『10万キロ乗るか、車を降りる時に、エンジンを1度返す』って、お店の人は、伯父さんが亡くなったことは知らなかったから」
優子は、下を向いて考えていたが、思い直すように上を向くと、私の方を見て言った。
「分かった」
「それでね……」
「えっ!?」
「優子が、ノーマルで乗って、どうしても、今送った件に該当するようになったら……」
私は言うと同時に、優子にLINEを送った。
そして、続けた。
「その時は、1度訪ねて来いって。預かってるエンジンをどうするかは、その時、相談しよう……って」
優子は、その場に座り込むと、ボロボロと涙を流し始めた。
珍しいんだよ、優子が泣くのって、柚月は、すぐ泣くけど、優子は、私らの中で、一番生まれが遅いのに、昔からお姉さんぶりたくて、気丈に振舞ってたから、私らのいる前では滅多に泣いたりしないんだよ。
よっぽど、伯父さんと、あのR32に思い入れがあったんだねぇ……。
私は、優子の肩を抱いて、立ち上がらせると、近くにあったノートのシートに座らせて、落ち着くのを待った。
すっかり、泣き止んだ優子を連れて
「さぁ、そろそろ昼休みも終わるから、戻ろう」
と言って、ガレージの通用口へと向かって歩いたところ、私らの目の前に、何かが倒れ込んだ。
「うううーー!!」
見ると、後ろ手に縛られて、口にハンカチで猿轡をされた柚月だった。
「柚月、どうしたの?」
「むむーー!」
柚月の元へと、歩み寄ろうとした私たちの目の前に現れたのは、予想通りの人物だった。
優子は、免許センターの試験に行ったため、部の用事のついで、という名目で行ったんだ。
取り敢えず、必要なのは、エンジンと燃料タンク、タイヤとホイール、それにコンピューター……かぁ、結構多いね。
「取り敢えず、だからね~。もしかすると、もっと必要になるかも~だよ」
柚月、脅すなよぉ。
え? 本気で言ってるって?
エンジンは確定としても、R32はGT-R以外の燃料タンクは鉄製で、あれだけの放置だと、中が錆びきっている可能性大だから、これもマストで交換、それと、あんなタイヤだと、ジャッキアップすらできないから、取り敢えず、履かせられるものを用意しないと、そして、あのエンジンを制御していたコンピューターだと、ノーマルのエンジンが動かない可能性があるから、純正のコンピューターがいるって事ね。
あ、柚月、ちょっと待って、兄貴からLINEだ。
どうやら、優子の伯父さんのR32について、分かった事があったみたいだよ。
あの車を作った店が、まだ残ってて、ライター時代の知り合いだったから、訊いてくれたんだって。
仕様が書いてあるね。これによると、柚月の読み通り、メッチャ神経質なエンジンの仕様だから、あれだけの期間、放置してたら、1回全バラシして、オーバーホールしないとダメだってさ。
で、コンピューターはサブコンだから、サブコンだけを外せば純正になるんだね。じゃぁ、コンピューターはナシでOKっと。
あと、柚月、ブレーキのところに妙な事が書いてあるんだけどさ、これってどういう事?
え? 助かったって? そうなんだ、助かったんなら、態度で示して欲しいね、柚月、痛っ! 何するんだ! このぉ~、私と闘って、勝てると思ってるのかぁ~。
どうだ! 参ったか、参ったって言え!
「ゴメンなさい~、参りました~!」
だから、謝るくらいなら、最初から、人にちょっかいなんて出すんじゃないよ。
それで、今日のところは、持って帰れるものは無いんでしょ? 物の確保だけだよね。
RB20DEは、結構ゴロゴロあったね。フィラーキャップから覗いてみて、オイル管理の良さそうだった上、走行距離も短めだった後期型の4ドアのAT車のにしよっかぁ。
一緒に燃料タンクもその車ので良いよね? 解体屋のおじさんの話だと、70代の夫婦が新車の頃から乗ってた車だから、いつも満タンにしてたって話だし。
あとは、トラックの手配だよね。クレーン付きじゃないと、きついよね。水野にでも頼もうか、でもって、優子が、私たち2人以外には、まだ内緒にしてて欲しい、って言うから、まだみんなには伏せていたいって? 困ったなぁ……。
あ、解体屋のおじさんだ。何か困った事かって?
実は、友達の優子から、亡くなった伯父さんの乗ってたR32に乗りたいって言われたんです。ただ、もう10年くらい動かしてなくて、エンジンを、ここにある廃車のエンジンと積み替えようとしてるんですけど、どうやって運ぼうかと思ってて。
「そんなんだったら、その車を、ここに持って来て、作業した方が、手っ取り早いよ。場所も、設備も使っていいからさ」
いや、でも、エンジンがかからないし、タイヤも蒲鉾みたいな形になっちゃってて、走れる状態じゃなくて。
「じゃぁ、ウチのレッカーで引っ張って来てやるよ。6気筒エンジンの積み下ろしを、エンジンクレーンも無しでやるなんて、自殺行為だよ! いいから、いいから、ウチも、若い娘が来てくれた方が、オジサンも仕事が捗るからよ!」
「ありがとうございまーす!」
私と柚月は、無意識に同時に言っていた。
◇◆◇◆◇
翌日の学校には、優子が、見た事のない車に乗ってやって来ていた。
グレーのセダンで、セダンとは言っても、よく見るセダンよりも、なんと言うんだろうか、タクシー臭がするというか、なんか垢抜けない感じがするセダンだった。
当然、やってきた優子に、待っていたかのように、みんなで訊いた。
「どうしたの? あの車」
こう訊いた私と柚月を、悠梨と結衣が、訝し気な表情で見ていた。
あっ! 悠梨と結衣は、優子が伯父さんのR32を直して乗ろうとしている事を知らないから、当然、今日乗ってきた車を、優子の車だと思っているんだ。
「えっ? アレ、優子の車じゃないの?」
悠梨が訊くと、優子は
「うん、まだ車が決まらないし、お爺ちゃんが、もう施設に入っちゃったから、使ってるんだ」
と、へらっとした笑いを浮かべながら言った。
すると結衣が言った。
「さすがに、優子がアレを買うとは思えないからさ、ちょっとビックリしちゃったよ」
「でも、アレも一応エンジンはRBだからね」
「ええーーっ!」
何故か、私以外の3人が驚いた。
その様子を見た柚月が、私に訊いた。
「マイは、あの車、知ってるの~?」
「うん、昔兄貴が、アレにGT-RのRB26DETTってのを積んで乗ってたよ。日産クルーっていう、タクシーに使う車でしょ」
実は、私も今まで忘れてたんだけど、優子が、エンジンがRBって、言った瞬間に思い出したんだよね。
兄貴は、オプションの自動ドア付きのやつに乗ってたから、強烈に覚えてたんだよ。小学生の頃、あの車に乗る時は、わざわざ、自動ドアのある、左後ろのドアから乗るようにしてたんだもん。
GT-Rが事故った後、エンジンと部品だけが残って、余った部品を、有効活用して作ったって、当時兄貴が自慢してたのを覚えてるよ。
「マイは、知ってたんだね」
優子も、私が絶対に知らないと思っていたようで、驚いてたけど、兄貴の乗ってた車は、大抵覚えてるよ。
え? いちいち、兄貴の乗ってた車を、全部は覚えてないって? 優子、ダメだなぁ~、それじゃぁ兄貴のシンパは名乗れないよぉ……って、なんか悔しそうだな。
昼食が終わると、柚月と一緒に、優子をガレージに連れて行った。
あの2人がいる前では、伏せておかなければならない話題なので、人のいない場所を探してここに来たんだ。
まぁ、ドラマじゃないからさ、普通は、学校の屋上なんて入れるわけないし、自動車部の特権を使って、人払いができる場所と言えば、ここしかない訳よね。
柚月を見張りに立たせた。
悠梨と結衣は、結構勘が鋭いから、もしかしたら、朝のやり取りだけで、勘づいているかもしれないからね。用心に越したことはないよ。
私は、優子に向かい合うと、静かに言った。
「優子、兄貴から連絡があった。あのGTSの仕様が分かったんだ」
「えっ!?」
「あの車を作った人、兄貴がライター時代に取材したことあるから、訊いてくれたんだよ」
「それで」
「物凄く精密で、ちょっとした環境変化にも敏感なんだって、だから、その放置期間だと、かかったとしても、すぐに壊れるって」
「そうなんだ……」
「組んだ人が言ってたって、『まずはノーマルの状態を乗りこなせ』って」
「……」
優子は、俯いて黙り込んでしまった。
そうだと思うよ。目の前に凄いエンジンを組んだ、凄い車があるのに、お預けを喰らっちゃってるんだもんね。
そりゃぁ、私だって同じ立場なら不服だろうよ。だから、組んだ人の言葉を伝えておくかな。
「優子の伯父さんはね、ノーマルを20万キロ乗りこなしてから、初めてエンジンに手を入れたんだって、前に乗ってた紺色のR32は、足回りだけで、エンジンは、マフラーすら替えてない、ノーマルだったって」
「ええっ!」
優子は驚いてるよね。そりゃそうだ。
優子の伯父さんの前に乗ってたR32が、紺色だったなんて、ウチの兄貴ですら知らなかった情報だもん。
恐らく、優子は、家に伯父さんの古い写真とかがあって、それに写ってるR32を見ているから、知ってるんだろうね。
それを伝えると、優子の目から、迷いの色が消えた様に見えたよ。そこからは落ち着いて話を訊いてくれたんだ。
「優子、だから、あのエンジンは、降ろしたら東京にある、そのお店に送るよ」
「なんで?」
「伯父さんと、お店の人との約束だったみたいだよ『10万キロ乗るか、車を降りる時に、エンジンを1度返す』って、お店の人は、伯父さんが亡くなったことは知らなかったから」
優子は、下を向いて考えていたが、思い直すように上を向くと、私の方を見て言った。
「分かった」
「それでね……」
「えっ!?」
「優子が、ノーマルで乗って、どうしても、今送った件に該当するようになったら……」
私は言うと同時に、優子にLINEを送った。
そして、続けた。
「その時は、1度訪ねて来いって。預かってるエンジンをどうするかは、その時、相談しよう……って」
優子は、その場に座り込むと、ボロボロと涙を流し始めた。
珍しいんだよ、優子が泣くのって、柚月は、すぐ泣くけど、優子は、私らの中で、一番生まれが遅いのに、昔からお姉さんぶりたくて、気丈に振舞ってたから、私らのいる前では滅多に泣いたりしないんだよ。
よっぽど、伯父さんと、あのR32に思い入れがあったんだねぇ……。
私は、優子の肩を抱いて、立ち上がらせると、近くにあったノートのシートに座らせて、落ち着くのを待った。
すっかり、泣き止んだ優子を連れて
「さぁ、そろそろ昼休みも終わるから、戻ろう」
と言って、ガレージの通用口へと向かって歩いたところ、私らの目の前に、何かが倒れ込んだ。
「うううーー!!」
見ると、後ろ手に縛られて、口にハンカチで猿轡をされた柚月だった。
「柚月、どうしたの?」
「むむーー!」
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