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第1章
私とシーマとリオン
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「ねっ」
私が振り返り、リオンを見るとリオンの顔が固まっていた。目が妖精に釘付けになっている。
「リオン?」
私が声をかけても、微動だにしない。
「おーい」
私がリオンの前で手のひら振ってみる。あれ。動かないや。さすがにびっくりするよね……。
私がグッと身を乗り出すように、リオンの顔を覗き込む。
あ、ちょっと動いた。そして、少しだけ目が見開いて私と目が合った。だんだんと頬が紅く染まって行く。
「…………どわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あ、やっと動いた」
って、そんな化け物を見たみたいに大声を出すのは失礼じゃない? リオンが目をぱちぱちさせる。……何?私の目をじっと見つめてくる。
「はぁ、ルリは変わらないな」
リオンが肩を落としてはっきりとしないくぐもった声で喋りだす。
「……えっと、妖精でいいんだよな?」
「うん」
「そうよ」
私とシーマが同時に反応する。
「……なんで妖精を使い魔にしたんだ、っていうかなぜできたんだ?」
それは…………正直言って、
「えっと……………わかんない」
に尽きる。
「えっと、シーマ? はそれでいいのか?」
? 今の質問はリオンらしくない感じがする。聞いても、この状況を覆すことはできないのに。
確認? それとも…………何か別の理由があるの?
「……いいわよ、もう契約しちゃったもの。それに私にはできないもの」
「………そうなのか」
リオンが沈黙して、考えごとをしているのか顎に手を当てている。
「どういうこと?」
今の話についていけない私は聞いてみた。
「……ん、ルリは覚えてるか?」
「何を?」
「ルクリア様の使い魔」
…………お母さんの?!
私のお母さんの使い魔ぐらい、当然……覚えてるに決まって…………ってあれ、ない?!
私の記憶にいるお母さんには使い魔がいない……?!
「どういうこと? お母さんは使い魔がいない……?」
だって、そんなわけ……ない。私達は今さっき授業で使役した。授業で使役するなら、お母さんが使役してないはずがない! …………ん?
「待って、リオン。さっき覚えてるかって聞いたよね?」
つまり、リオンは知ってるってこと!? なんで??
私の記憶にはいないのに……、お母さんからきいたのかな?
「ルクリア様に使い魔はいる」
一切の淀みもなく、リオンがはっきりと断言する。
「俺は会ったことがある、ルクリア様の使い魔は―――」
固唾を飲んで待つ。私が知らないお母さん。お母さんの行方の手がかかりになるかもしれない……! リオンの口がゆっくりと動いた。
「ルリと同じ妖精だ」
……!!
「え……!!」
私と同じ? 確かに、妖精なら、姿を消せることができる。私が記憶にないのも、妖精がずっと姿を見せなかったという説明がつく。でも、なんで教えてくれなかったの?
「…………ルリが知らなかったのは初めて知った。知っていたのかと思ってた。実際、ルリが使役したのも妖精だったからな」
リオンはチラリとシーマを見る。私はリオンの話を聞くことに集中していた。
「……ルクリア様が妖精といるとき、俺に話をしたんだ。これは、このときのルリに伝えるべき内容だった。というより、俺を通したルクリア様からの伝言なんだろうなぁ」
今思えばと言ってリオンが少し笑った。お母さんと話していたときのことを思い起こしているのだろうか。
「俺がルリに伝えるのを見越してたんだ」
やっぱり、お母さんだなぁ。少し、先を見て動いている感じが懐かしい。わざわざ伝言していたってことは、いなくなるのはわかってたんだ…………。私には知らせてくれなかったのはちょっぴり寂しい。
「そんで、俺が聞いたのは“妖精は使い魔っていうより友達や自分の相棒みたいな存在。だから、契約の効果は薄くて、縛りとかはできないから友好の証、みたいな感じかな”って言ってた」
相棒として……! それが私の理想の関係だ。決して無理強いはしたくない。
「ああ、あとこうも言ってた。“契約しても、妖精が嫌だって思えば妖精側から契約を破棄できる”ってな」
あ…………! だから、リオンはシーマに確認を取ったんだ。あくまで、友好の証だから。シーマが嫌だと思えば解消ができるということなんだ。
「……でも、シーマはその契約破棄はできないの?」
私がシーマの方へと振り返りながら尋ねる。
シーマはさっきこう言ってた。
『……いいわよ、もう契約しちゃったもの。それに私にはできないもの』
「…………」
シーマはあれっきり黙ってしまった。私達の方は見ずにスッと風と共に消えてしまった。答えたくない様子だったから無理には聞かないでおく。
「あ、行っちゃったな」
シーマもシーマでいろいろと事情がありそうだ。今は自由にさせておこう。それがいいはず。
「リオン! 行こ! リオンの精霊も紹介してよ」
リオンの手を引っ張って行く。
「あ、おい!」
急に引っ張ったことでリオンが慌てて付いてくる。
「…………ったく」
リオンがなんかつぶやいたけど聞こえない!リオンの顔を見なくても呆れたような顔をしているのは目に見えている。
少し開けた場所まで2人で並んで歩く。ここは森という名称だけあって木々が生い茂っているので、鳥は飛びにくい。なので街側の木々が少ない場所に行く。いつも、ロロから降りているあたりだといい感じに開けているのでそこまで行く予定だ。
「信頼関係って言ったって、ルリたちは前から顔見知りだったからできてるんじゃないのか?」
「確かに、そうかも。シーマが言うには前々から私の使い魔だったみたいだし……」
もうできてるかもねって言う前に隣から不穏な気配がする!
「だったみたいだってことはいつのまにか使役してたってことだよなぁ?」
リオンが足を止める。
これは見なくてもわかる怒ってる! 絶対怒ってる! って言うか注意されてたのにこれ話したら怒るってわかってたのになぜ話した私!! リオンの最後の質問形のとこが低音ボイス!
「…………はい、その通りです」
私がリオンの隣で縮こまりながら素直に白状する。リオンの方を向けない。
「俺、前から言ってたはずなんだけどな、精霊と距離が近くなるのは危ないって」
淡々と冷え冷えとする声で話が続く。うぅ、ごめんなさい!! 聞いてました。ちゃんと言ってくれていました。
「ごめん! 次気をつける……ね」
私がリオンに向かって勢いよく頭を下げる。恐る恐る顔を見るとリオンが怒っていなかった。正確に言うと、リオンの表情が柔らかかった。私は少し驚いて一瞬言葉を失う。
「……これでわかったか?」
口調がいつものリオンに戻っている。
「あれ、リオン怒って……?」
「ルリは何度言っても聞かないってもう知ってるからな」
リオンが再び歩きながら話す。その口調も表情も穏やかそのものだ。
「ルリは、俺の助言は聞いてくれないけど自分が一度体験した過ちは繰り返さないからな」
「でも」そう言いながら少し先を歩いていたリオンが止まって振り返る。
「ルリは一度失敗したら同じこと繰り返さないけど、そのたった一度で何かを失うこともあるってことをわかってて欲しい」
リオンが真剣な顔をして私にまっすぐ視線を送る。これは、リオンが本気で私のことを想って話していることだとすぐにわかった。
「……わかった。次からはリオンの助言をちゃんと聞くようにする」
私もリオンの目を見て答える。リオンは私の返答が意外だったのか目を見開いて驚いた。その後すぐに、ほっとしたような表情になった。……心配かけてたんだな。今更になって気づく。私が小さい頃は、リオンにお手本を見せようと思っていろいろ連れ回していいことも悪いこともたくさんやってきた。その度にリオンが心配そうな表情をしていた気がする。その度に大丈夫だよってリオンに笑いかけて、自分で自分を励ましていた。お母さんがいなくても大丈夫って思いたくて……。
私が今こうしているのも、リオンのおかげなのかもしれない。
「……いつもありがと」
さすがに恥ずかしいので本人には言わないがいつか絶対言おうと思う。私の呟きは空気中に溶けこんで終わった。
「おーい! 置いてくぞー!」
「ちょっと待って! 今行く!」
私がリオンの背中を追いかける。それから少しすると開けた場所に出た。
「ここなら、良さそうだな。で、ルリ確認するけど2体の使役は大丈夫なのか? たぶんルリだから大丈夫だと思うけど」
「大丈夫だよ。特には異常もないし、魔力が枯渇することもなかったし……」
2体の使役は私にとっては特になんの問題もない。もともとクローバー学園に通っている生徒は魔力が多いと判断された人の学園だから、すぐに魔力が枯渇するようなことはない。私でなくてもクローバー学園の生徒ならば2体の使役は可能だろう。
「リオンの使役した子はなんて言う名前なの?」
「ジャックだよ」
上からずっと追いかけていたジャックがリオンの腕に止まる。リオンがジャックの顎を撫でると気持ちよさそうに目を閉じている。ちょっと羨ましい。
私もロロを呼ぼうと思い、指笛で「ピー」とならして呼ぶ。
「使役した精霊は魔法で呼べるのにそっちで呼ぶのか?」
「だって、こっちの方が私たちらしいでしょ?」
「ルリらしいな」
確かに私は魔法が好きだから魔法を使うことが多いけれど、いつも呼んでたのがこっちだから、こっちの方がしっくりとくる。精霊とは信頼関係が大事だから、森にいる間はこの方法で呼ぶようにしたい。私たちは今まで、使役という関係だけではなかったのだから。少なくとも私は友達として接してきたからこっちの方が愛着がある。
「主様、お呼びでしょうか?」
「ロロ!」
私が呼んですぐに駆けつけてくれたロロに近づく。ロロはけっこう大きいけど、汽車に乗れたりするのかな?でも、必要な時は召喚術で呼ぶからいいのかな。そういえば精霊も属性があったような?
「……リオンは自分の使い魔の属性って把握してる?」
「そういえば……そうだな」
リオンが思案している顔だ。私たちは精霊を捕まえるまでは精霊は薄い水色をしていたので、属性の見分けはできなかった。でも、使役したらわかるようになるはず。
「これも、先生からの課題なのかもな。自分が契約した精霊と信頼関係を築くにも精霊のこと俺たちがわかってないとだからな」
シーマを呼べば一発でわかるはずなのだが、さっき呼び出してまた呼び出すのもな……。今はそっとしておいてあげたい。
「まだ、これから1週間あるしその間に君たちのこと教えてね!」
私たちは精霊の紹介をしあって帰ることにした。使役をしたり、妖精の件をはなしたりしてお互い疲れているだろうということで解散になったのだ。
「リオンまた明日!」
「また明日!」
私がリオンに手を振って家がある方へロロと一緒に歩き出す。シーマはどこかに行っているだろうと思い、声はかけなかった。
リオンも手を振り返して、精霊のジャックと一緒に歩き出していた。
リオンは歩き出していた足を止め、ルリが家の方向に向かって歩いているのかを確認してから呼ぶ。
「……シーマいるのか?」
リオンが空気中に視線をさまよわせる。
「なんでわかったの?」
シーマがリオンの周りをぐるっと一周してみせる。
「来るって思ったんだ。消える前に俺と一瞬目があった気がしたから話がしたいのかもって思ったんだよ」
……それに、こっちからも聞きたいことあったしな。そう続けようとしたけどやめた。早く本題に入らないといけない。ルリが気づかないうちに。
「単刀直入に聞く、おまえはルリのどこまで知っている?」
リオンの顔が険しくなり、つい睨むようにシーマを見てしまう。ルリが隠したい情報を俺たちが気づかないうちに妖精、シーマに聞かれている可能性がある。現に姿を現したり消したりできるのだから。
「ふーん、あんたも私に用があったから呼びかけたわけね」
顔の前にいたシーマがリオンと少し距離をとる。
「いいけど、その代わり私の質問にも答えてちょうだい」
「ああ、わかった」
リオンはすぐに頷くとシーマの方を見て質問の答えを待つ。
「妖精は私以外にももちろんいるわ。でも、妖精は人間には興味もないし、関わりたがらないわよ。私も含めて、ね。だから、あんたが心配するように妖精がいちいち人の会話に聞き耳を立てたりはしていないわ。…………でも、そうね、ルリは異質ね。なんであんな人間の小娘にって最初は思ったけど今ならわかるわ」
シーマは神妙に話す。
異質か…………。俺の幼馴染を、妖精でさえも異質と見るんだな。俺の幼馴染は普通じゃない。確かに、みんなにとっては……な。俺にとっては、普通じゃない幼馴染が当たり前でルリと並ぶのが俺の目標で、超えるべき存在でもある。そう考えてる俺も異質なのかもしれない。
「っ…………いいえ、なんでもないわ」
さらに言葉を紡ごうと口を開きかけたがチラリとリオンを見ると躊躇った末に続きを話すのをやめた。このときのシーマが暗い表情をしていたのが気になったが、シーマの返答でルリのことが知られていないことを知り、ホッと息を吐き出した。
……とりあえずは、バレてないようだな。
「じゃ、次は私の質問に答えてもらうわ」
シーマはゆっくりと深呼吸をする。そして、その質問内容はリオンにとって衝撃的だった。
「それは――――――――」
「は?!」
私が振り返り、リオンを見るとリオンの顔が固まっていた。目が妖精に釘付けになっている。
「リオン?」
私が声をかけても、微動だにしない。
「おーい」
私がリオンの前で手のひら振ってみる。あれ。動かないや。さすがにびっくりするよね……。
私がグッと身を乗り出すように、リオンの顔を覗き込む。
あ、ちょっと動いた。そして、少しだけ目が見開いて私と目が合った。だんだんと頬が紅く染まって行く。
「…………どわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あ、やっと動いた」
って、そんな化け物を見たみたいに大声を出すのは失礼じゃない? リオンが目をぱちぱちさせる。……何?私の目をじっと見つめてくる。
「はぁ、ルリは変わらないな」
リオンが肩を落としてはっきりとしないくぐもった声で喋りだす。
「……えっと、妖精でいいんだよな?」
「うん」
「そうよ」
私とシーマが同時に反応する。
「……なんで妖精を使い魔にしたんだ、っていうかなぜできたんだ?」
それは…………正直言って、
「えっと……………わかんない」
に尽きる。
「えっと、シーマ? はそれでいいのか?」
? 今の質問はリオンらしくない感じがする。聞いても、この状況を覆すことはできないのに。
確認? それとも…………何か別の理由があるの?
「……いいわよ、もう契約しちゃったもの。それに私にはできないもの」
「………そうなのか」
リオンが沈黙して、考えごとをしているのか顎に手を当てている。
「どういうこと?」
今の話についていけない私は聞いてみた。
「……ん、ルリは覚えてるか?」
「何を?」
「ルクリア様の使い魔」
…………お母さんの?!
私のお母さんの使い魔ぐらい、当然……覚えてるに決まって…………ってあれ、ない?!
私の記憶にいるお母さんには使い魔がいない……?!
「どういうこと? お母さんは使い魔がいない……?」
だって、そんなわけ……ない。私達は今さっき授業で使役した。授業で使役するなら、お母さんが使役してないはずがない! …………ん?
「待って、リオン。さっき覚えてるかって聞いたよね?」
つまり、リオンは知ってるってこと!? なんで??
私の記憶にはいないのに……、お母さんからきいたのかな?
「ルクリア様に使い魔はいる」
一切の淀みもなく、リオンがはっきりと断言する。
「俺は会ったことがある、ルクリア様の使い魔は―――」
固唾を飲んで待つ。私が知らないお母さん。お母さんの行方の手がかかりになるかもしれない……! リオンの口がゆっくりと動いた。
「ルリと同じ妖精だ」
……!!
「え……!!」
私と同じ? 確かに、妖精なら、姿を消せることができる。私が記憶にないのも、妖精がずっと姿を見せなかったという説明がつく。でも、なんで教えてくれなかったの?
「…………ルリが知らなかったのは初めて知った。知っていたのかと思ってた。実際、ルリが使役したのも妖精だったからな」
リオンはチラリとシーマを見る。私はリオンの話を聞くことに集中していた。
「……ルクリア様が妖精といるとき、俺に話をしたんだ。これは、このときのルリに伝えるべき内容だった。というより、俺を通したルクリア様からの伝言なんだろうなぁ」
今思えばと言ってリオンが少し笑った。お母さんと話していたときのことを思い起こしているのだろうか。
「俺がルリに伝えるのを見越してたんだ」
やっぱり、お母さんだなぁ。少し、先を見て動いている感じが懐かしい。わざわざ伝言していたってことは、いなくなるのはわかってたんだ…………。私には知らせてくれなかったのはちょっぴり寂しい。
「そんで、俺が聞いたのは“妖精は使い魔っていうより友達や自分の相棒みたいな存在。だから、契約の効果は薄くて、縛りとかはできないから友好の証、みたいな感じかな”って言ってた」
相棒として……! それが私の理想の関係だ。決して無理強いはしたくない。
「ああ、あとこうも言ってた。“契約しても、妖精が嫌だって思えば妖精側から契約を破棄できる”ってな」
あ…………! だから、リオンはシーマに確認を取ったんだ。あくまで、友好の証だから。シーマが嫌だと思えば解消ができるということなんだ。
「……でも、シーマはその契約破棄はできないの?」
私がシーマの方へと振り返りながら尋ねる。
シーマはさっきこう言ってた。
『……いいわよ、もう契約しちゃったもの。それに私にはできないもの』
「…………」
シーマはあれっきり黙ってしまった。私達の方は見ずにスッと風と共に消えてしまった。答えたくない様子だったから無理には聞かないでおく。
「あ、行っちゃったな」
シーマもシーマでいろいろと事情がありそうだ。今は自由にさせておこう。それがいいはず。
「リオン! 行こ! リオンの精霊も紹介してよ」
リオンの手を引っ張って行く。
「あ、おい!」
急に引っ張ったことでリオンが慌てて付いてくる。
「…………ったく」
リオンがなんかつぶやいたけど聞こえない!リオンの顔を見なくても呆れたような顔をしているのは目に見えている。
少し開けた場所まで2人で並んで歩く。ここは森という名称だけあって木々が生い茂っているので、鳥は飛びにくい。なので街側の木々が少ない場所に行く。いつも、ロロから降りているあたりだといい感じに開けているのでそこまで行く予定だ。
「信頼関係って言ったって、ルリたちは前から顔見知りだったからできてるんじゃないのか?」
「確かに、そうかも。シーマが言うには前々から私の使い魔だったみたいだし……」
もうできてるかもねって言う前に隣から不穏な気配がする!
「だったみたいだってことはいつのまにか使役してたってことだよなぁ?」
リオンが足を止める。
これは見なくてもわかる怒ってる! 絶対怒ってる! って言うか注意されてたのにこれ話したら怒るってわかってたのになぜ話した私!! リオンの最後の質問形のとこが低音ボイス!
「…………はい、その通りです」
私がリオンの隣で縮こまりながら素直に白状する。リオンの方を向けない。
「俺、前から言ってたはずなんだけどな、精霊と距離が近くなるのは危ないって」
淡々と冷え冷えとする声で話が続く。うぅ、ごめんなさい!! 聞いてました。ちゃんと言ってくれていました。
「ごめん! 次気をつける……ね」
私がリオンに向かって勢いよく頭を下げる。恐る恐る顔を見るとリオンが怒っていなかった。正確に言うと、リオンの表情が柔らかかった。私は少し驚いて一瞬言葉を失う。
「……これでわかったか?」
口調がいつものリオンに戻っている。
「あれ、リオン怒って……?」
「ルリは何度言っても聞かないってもう知ってるからな」
リオンが再び歩きながら話す。その口調も表情も穏やかそのものだ。
「ルリは、俺の助言は聞いてくれないけど自分が一度体験した過ちは繰り返さないからな」
「でも」そう言いながら少し先を歩いていたリオンが止まって振り返る。
「ルリは一度失敗したら同じこと繰り返さないけど、そのたった一度で何かを失うこともあるってことをわかってて欲しい」
リオンが真剣な顔をして私にまっすぐ視線を送る。これは、リオンが本気で私のことを想って話していることだとすぐにわかった。
「……わかった。次からはリオンの助言をちゃんと聞くようにする」
私もリオンの目を見て答える。リオンは私の返答が意外だったのか目を見開いて驚いた。その後すぐに、ほっとしたような表情になった。……心配かけてたんだな。今更になって気づく。私が小さい頃は、リオンにお手本を見せようと思っていろいろ連れ回していいことも悪いこともたくさんやってきた。その度にリオンが心配そうな表情をしていた気がする。その度に大丈夫だよってリオンに笑いかけて、自分で自分を励ましていた。お母さんがいなくても大丈夫って思いたくて……。
私が今こうしているのも、リオンのおかげなのかもしれない。
「……いつもありがと」
さすがに恥ずかしいので本人には言わないがいつか絶対言おうと思う。私の呟きは空気中に溶けこんで終わった。
「おーい! 置いてくぞー!」
「ちょっと待って! 今行く!」
私がリオンの背中を追いかける。それから少しすると開けた場所に出た。
「ここなら、良さそうだな。で、ルリ確認するけど2体の使役は大丈夫なのか? たぶんルリだから大丈夫だと思うけど」
「大丈夫だよ。特には異常もないし、魔力が枯渇することもなかったし……」
2体の使役は私にとっては特になんの問題もない。もともとクローバー学園に通っている生徒は魔力が多いと判断された人の学園だから、すぐに魔力が枯渇するようなことはない。私でなくてもクローバー学園の生徒ならば2体の使役は可能だろう。
「リオンの使役した子はなんて言う名前なの?」
「ジャックだよ」
上からずっと追いかけていたジャックがリオンの腕に止まる。リオンがジャックの顎を撫でると気持ちよさそうに目を閉じている。ちょっと羨ましい。
私もロロを呼ぼうと思い、指笛で「ピー」とならして呼ぶ。
「使役した精霊は魔法で呼べるのにそっちで呼ぶのか?」
「だって、こっちの方が私たちらしいでしょ?」
「ルリらしいな」
確かに私は魔法が好きだから魔法を使うことが多いけれど、いつも呼んでたのがこっちだから、こっちの方がしっくりとくる。精霊とは信頼関係が大事だから、森にいる間はこの方法で呼ぶようにしたい。私たちは今まで、使役という関係だけではなかったのだから。少なくとも私は友達として接してきたからこっちの方が愛着がある。
「主様、お呼びでしょうか?」
「ロロ!」
私が呼んですぐに駆けつけてくれたロロに近づく。ロロはけっこう大きいけど、汽車に乗れたりするのかな?でも、必要な時は召喚術で呼ぶからいいのかな。そういえば精霊も属性があったような?
「……リオンは自分の使い魔の属性って把握してる?」
「そういえば……そうだな」
リオンが思案している顔だ。私たちは精霊を捕まえるまでは精霊は薄い水色をしていたので、属性の見分けはできなかった。でも、使役したらわかるようになるはず。
「これも、先生からの課題なのかもな。自分が契約した精霊と信頼関係を築くにも精霊のこと俺たちがわかってないとだからな」
シーマを呼べば一発でわかるはずなのだが、さっき呼び出してまた呼び出すのもな……。今はそっとしておいてあげたい。
「まだ、これから1週間あるしその間に君たちのこと教えてね!」
私たちは精霊の紹介をしあって帰ることにした。使役をしたり、妖精の件をはなしたりしてお互い疲れているだろうということで解散になったのだ。
「リオンまた明日!」
「また明日!」
私がリオンに手を振って家がある方へロロと一緒に歩き出す。シーマはどこかに行っているだろうと思い、声はかけなかった。
リオンも手を振り返して、精霊のジャックと一緒に歩き出していた。
リオンは歩き出していた足を止め、ルリが家の方向に向かって歩いているのかを確認してから呼ぶ。
「……シーマいるのか?」
リオンが空気中に視線をさまよわせる。
「なんでわかったの?」
シーマがリオンの周りをぐるっと一周してみせる。
「来るって思ったんだ。消える前に俺と一瞬目があった気がしたから話がしたいのかもって思ったんだよ」
……それに、こっちからも聞きたいことあったしな。そう続けようとしたけどやめた。早く本題に入らないといけない。ルリが気づかないうちに。
「単刀直入に聞く、おまえはルリのどこまで知っている?」
リオンの顔が険しくなり、つい睨むようにシーマを見てしまう。ルリが隠したい情報を俺たちが気づかないうちに妖精、シーマに聞かれている可能性がある。現に姿を現したり消したりできるのだから。
「ふーん、あんたも私に用があったから呼びかけたわけね」
顔の前にいたシーマがリオンと少し距離をとる。
「いいけど、その代わり私の質問にも答えてちょうだい」
「ああ、わかった」
リオンはすぐに頷くとシーマの方を見て質問の答えを待つ。
「妖精は私以外にももちろんいるわ。でも、妖精は人間には興味もないし、関わりたがらないわよ。私も含めて、ね。だから、あんたが心配するように妖精がいちいち人の会話に聞き耳を立てたりはしていないわ。…………でも、そうね、ルリは異質ね。なんであんな人間の小娘にって最初は思ったけど今ならわかるわ」
シーマは神妙に話す。
異質か…………。俺の幼馴染を、妖精でさえも異質と見るんだな。俺の幼馴染は普通じゃない。確かに、みんなにとっては……な。俺にとっては、普通じゃない幼馴染が当たり前でルリと並ぶのが俺の目標で、超えるべき存在でもある。そう考えてる俺も異質なのかもしれない。
「っ…………いいえ、なんでもないわ」
さらに言葉を紡ごうと口を開きかけたがチラリとリオンを見ると躊躇った末に続きを話すのをやめた。このときのシーマが暗い表情をしていたのが気になったが、シーマの返答でルリのことが知られていないことを知り、ホッと息を吐き出した。
……とりあえずは、バレてないようだな。
「じゃ、次は私の質問に答えてもらうわ」
シーマはゆっくりと深呼吸をする。そして、その質問内容はリオンにとって衝撃的だった。
「それは――――――――」
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