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ちょい長編

ある妙な街の話......ニャン

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「最近では詐欺に遭う人が多いですね」
「はい、そうなんです。ネットで巧みに騙すことが多くなっています」
「特に、絶対に自分は騙されないと思っている人が引っかかりやすいとも言いますね」
「皆さんもぜひ、気をつけてください」
ニュースキャスターの人とコメンテーターの人が詐欺について注意を促す、何気ない日常だ。
「もうこんな時間、学校に行かなくっちゃ」
慌てて朝食を片付け、カバンを持って外に出る。
詐欺……か、どういう人が引っかかるのかなぁ。
ネットだと、やっぱコミュニケーションが上手な人とかだよね。思わず信じちゃうような……人とか。相手が話しやすい話題にもっていったり、やたらと優しいことや言葉をかけてくる人?
んー、難しいな……。でも、大体そうだよね。コミュニケーション下手くそ、無口な人、すぐ思ったことが顔に出る人……あと、頼りなさそうな子とかは逆に信頼できるかも。
「そういう人と友達になりたいなー」
今日からクラス替えだし、探してみようかな。
今日はいい天気! 今日はいい1日になりそうだ。




 ――――――――



 
学校についてクラス表の名前を見る。私は2組か。
自分の座席に腰を下ろしてクラスを眺める。もうすでにグループを作っておしゃべりをしている子達やまだ慣れずにキョロキョロしている子。我関せずと読書をしている子達がいる。そこでふと目に止まった子がいた。その子は廊下にいた。キョロキョロと見回していて廊下をふらふらと歩いている。前を見て歩いていないから前から来た人とぶつかっている。
「あ……ごめん、なさい……」
ボソボソと喋ってからすぐに俯く。消え入りそうな声で話しているせいで彼女とぶつかった人が舌打ちをした。うん、この子と友達になろう。そう決意した私は声をかけた。
「えと、何組?」
教室から廊下に出て歩みよるが聞こえてないのか、俯いたままだった。この子は……信頼できそうだ。って学校に騙そうとしている人自体いないのは知っているが、せっかくなら信頼できそうと思える子と友達になりたい。
「あの! 何組の子かな?」
「え……」
やっと顔を上げて私の顔を見てくれた。
「2組……」
「じゃあ、私と一緒だ! よろしくね!」
彼女の手を引いてさっきいた新しい教室に戻る。
「名前は?」
「…………鈴木……ね……ねこ」
下の名前までちゃんと聞いてから返事を返す。
「ねねこちゃんね。私の名前は、須藤明香里。改めてよろしくね」
そういえば、私の後ろの席がそんな名前の子だったような。私の席に辿り着くとちょうど後ろの席だった。
「あ。私の後ろの席だね」
机の角に名前シールが貼ってあり、そこには漢字が書いてあった。
―――鈴木音猫子
なんか、すごい字!初めて見た。これキラキラネームとかってやつかな。
「猫の字が入っててかわいいね」
できるだけ明るく声をかける。思わず、初めて見る字!
とかどんな由来? とか聞きそうになる。なんか聞いてはいけない雰囲気を感じたのだ。ねねこは私が名前について一言声をかけただけで、肩がビクッと上がったからだ。
「わ……私のお母さんが猫が好きで…………それで」
「かわいいよねー、猫。私も好きだよ。そうだ、犬派? 猫派?」
動物が好きならこういう話題が好きだろうと思って始めたが、また肩を震わした。
「あ、えと…………」
ちょっと緊張しているのか、顔がこわばっている。こういう対立を生むような話題は嫌いだったのかもしれない。
「私は猫も犬も好きなんだけど、やっぱりどっちかって言われたら猫なんだよね」
こわばっていた顔が緩んだと思ったらすぐに顔が綻ぶ。
「そうなんだ!よかった、猫が好きで!どの子を見てもかわいくて……!どの子も優しい!」
おお! 猫がすごい好きみたい。私が猫寄りな発言をしたからかな。すごい嬉しそうに語ってくれた。
「あ、猫が好きで猫にも好かれるタイプ? 私よく引っかかれちゃうんだよ」
「あ……!そうなの……」
一瞬ハッとした顔をしてすぐに、苦笑いを浮かべた。
「えー、いいなぁ」
ちょうど会話が済んだところで先生が入ってくる。
自己紹介をして今日の学校の1日が終わった。


――――――



 
 結構ねねこちゃんと打ち解けた気がする。
ねねこちゃんからも声をかけてくれるようになった。
「一緒に帰ろー」
「もちろん!」
ねねこちゃんも笑顔で返事をしてくれた。ただ、気になったのは、私以外の誰とも話していない点だ。私だけと話していていいのだろうか。まだ、初日だし話せてないだけなのだろうが、不安になる。……そういえば、休み時間にねねこちゃんが視線を何度か送っていた子がいた。ただ、その子は気づいても話しかけることもなく素知らぬ顔をしていた。
ねねこちゃんは授業の間の休み時間にその席の子に近づいて声をかけた様子だったが、その子はグループの1人の子に呼ばれると一瞥するだけで行ってしまった。
んー、なんかヤな感じだ。
ねねこちゃんの足取りが重く、とぼとぼと帰ってくる。
あんまりこういうのは触れない方がいいのかもしれないが何かあったのなら協力したい。
「なんかあった??」
「あ……ううん。なんでもないの」
それ以上は語らずに机に突っ伏してしまった。
これは…………なんかあったな。彼女は、とても控えめな性格でオドオドしさを感じるが、奥ゆかしい人だ。
一緒に帰ろーと誘った私だが、その時にもねねこは例の子をチラ見していた。
とりあえずは何も聞かないで校門を出てから話しかける。
「やっぱり、なんかあったんでしょ? 言いたくないなら、もちろん無理には聞かないけど……でも協力できることがあったら言ってよ」
「うん………」
やっぱり浮かない顔で俯いている。
「なんなら、一発、二発殴ろうか?」
私が前に拳を勢いよく出す。ガチトーンで言ってみる。
「えぇ! いいって! 元は私が悪いんだし……」
ねねこがブンブンと顔を左右に振る。
「…………冗談だよ」
ねねこが嫌がるならやるわけには行かない。
「え……? 冗談?」
「そ。冗談」
「冗談には聞こえなかったけど……」
「ん? じゃ、本気で殴る?」
思わず顔がニヤついてしまった。おっと、危ない。からかっていたのがバレちゃう。まあ、言葉にしたのは本気だったりするけどね。
「やっぱり、本気じゃん! やめてやめて、もういいから~……」
「あっははは!」
「もう……」
ねねこは一息ついてからゆっくりと話し出した。
「実は、1年生の時にグループに入れてもらってたんだけど。ほら、私って鈍臭いでしょ? だから、あの子達をイラつかせちゃったみたいで……」
「で、今仲間外れになっちゃったんだ」
ねねこは人より丁寧なだけだ。人それぞれ自分のペースがある。それを許容しないなんて心が狭いんじゃないかと思ってしまう。
「それだけ、だから……その、気にしないで」
ねねこが無理に笑おうとしているのが伝わった。確かに、私ができるのも限られている。あの子達にねねこが困ってると言ったところで聞く耳を持つとも思えない。
「じゃ、どっか気晴らしにでも行かない? カラオケとか」
「うん! 行く!」
私たちはカラオケに行った。最初ねねこは初めて来たからと言って歌わなかったが、一緒に歌おうと言ったら歌ってくれた。時間もあっという間に過ぎて行って、学校が昼に終わったはずなのにもう暗くなっていた。
「もう黄昏時だね」
ねねこに言われて空を見上げれば、確かに空がオレンジ色に染まっていた。
帰りが駅方向で一緒ということで、駅方向に歩き出す。
「あ! 私ここまでだから、またね!」
そう言ってかけ出す音が聞こえた。ちょうど、電車の時間を調べていて目線がスマホに向いていた。すぐに視線を上げたが、もうそこには誰もいなかった。
「え………? 帰るの早いな」
声をかけられてすぐに顔を上げたのだが。忽然と消えたみたいだ。
「ニャア」
「ん?」
私が少し目線を落とすと1匹の猫がいた。
「猫か……おいでおいで」
私はしゃがみ込む。なんか猫が食べれるものあったかな。
カバンの中を漁ってみる。
猫はすぐに私から視線を外して離れて行った。
「今、おいしいもの上げる……から」
って行っちゃったか。
「さてと、私も帰りますか」
私は立ち上がって背筋を伸ばす。

――――明香里は知らない。この猫がそのまま走って行って空気中に溶けるように消えていったことを。
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