君に不幸あれ

嫉妬

「卒業アルバム
今度、静のも見てみたい」

「…実家に置いてきちゃったら今はないんだ」

「そっか残念
今とは違う静を見てみたかったな」


静は嘘をついた。
中学時代もいじめられていた静はアルバムを見ることさえも嫌で、自分の顔をマジックで黒く塗りつぶし捨ててしまっていた。そのため実家にも卒業アルバムなんてものは置いていない。


「でも、俺は静が傍にいてくれるこの瞬間があればいい」


その言葉が嘘だとわかっているからこそなんていう言葉を返したらいいのかわからない。

宗介はいつものように平然とそんな言葉を言ってのける。
これも本当の愛情がないからこそできるものだと静は考えていた。
本当に好きな人に対してだったらそんなことをきっと簡単に言えない。自分だったら恥ずかしくなってしまう。


「静、好きだよ」

「うん、俺もそうくんが好き」


宗介は静の顔を覗き込むようにして頬はまぶたに口づけをする。


「でも、そろそろおしまい」

「何が？あ、もう帰ったほうがいい？」

静はテーブルにのっていたデジタル時計で時間を確認するが、まだ家に来て1時間も経っていない。
だが、宗介は人脈もあり、今後は有名大学に行くと言われているほどの秀才だ。このあとも忙しいのかもしれない。


「違うよ、卒業アルバムみるのがもうおしまい」


宗介は卒業アルバムに片手をのはずとアルバムのページを閉じてしまった。


「あっ」

（まだ見ていたかったのに…）


静が無意識に唇を尖らせると、宗介がフッと笑い、静の顎に置いていた指先で後ろに振り向かせる。すると唇が重なった。


「な、なに…」


静が動揺して顔を赤らめると、宗介は愛おしそうに顔を覗き込もうとする。
しかし、静は顔を背けて片腕に顔を埋めて隠した。すると、宗介が静の首元に両腕を回して包み込むように優しく抱きしめる。


「アルバムの中の俺に嫉妬しそうだった」

「え？どういうこと？」


静が腕から少しだけ顔を上げると、宗介は困ったように眉を曲げる。


「俺、こんなキャラじゃないんだけどなあ…」


宗介は前髪をくしゃっと握ったあと呆れたような笑みを浮かべる。


「写真を見つめる静の視線があまりにも熱心だから、その視線を俺に向けて欲しいと思いました。はい。」


宗介がほんの少しだけ顔を赤らめ、静から目を逸らしていう。
いつも感情をはっきりと示すことが少ない宗介が静の前で初めて見せる表情。

静はその可愛さに胸を躍らせる。