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偽の優しさ
しおりを挟むだが、宗介は真剣な顔で静の目を見つめた。
「大袈裟じゃない
この血の量はおかしいよ…
制服のワイシャツにまで垂れてる
俺、今家からバイク持ってくるからそれで病院に行こう」
「大丈夫だっていってるじゃん」
静は腕を振り、宗介の腕を払う。
宗介は少し驚いた顔をしながらもすぐに真剣な表情に戻る。
「静、ちょっと待ってて
絶対に家から出ないでね
家から出たら許さないよ」
宗介は静の額に口づけをすると、家から出ていく。
しばらくすると、宗介の乗るバイクのエンジン音が聞こえてきた。
いっそのこと鍵を締め切って無視でもすればいいのにそれができない。
宗介が家に入ってきて、静の腕を引く。
「静、いくよ」
「そうくん、本当に大丈夫だって
それに俺金欠だから診療代なんて払えない」
「俺が払うからいい」
「……なんでそこまで心配してくれるの」
静は恐る恐る聞いた。
「静のことが大切だから」
宗介の後ろを歩く静から宗介の表情は見えないが、すぐに返事が返ってくる。
嘘だとわかっていたとしてもその言葉が静の心を温かく包み込み、胸の奥から何かが押し上げてくる。
アパートの駐輪場行き、宗介が18歳で免許を取得し、バイク好きの父親から譲り受けたという大型バイクがあった。
静は宗介がそのバイクでよくアパートに来ることはしっていたが乗ったことはない。
宗介がメットインからヘルメットを取り出し、静にわたした。
これは恋人や誰かが使ったものなのだろうか、それとも父親から譲り受けたものなのだろうか。
そんなくだらないことを考えてしまう。
自分がそんなことを気にするような立場でもないのに。
手元のヘルメットを見つめていると、宗介は静の手元からヘルメットを取り上げ強引に被せた。
「行かないとか言うのはなし
早く乗って」
初めて乗るバイクに少し緊張しつつも、後部座席に座る。
「怖かったら腰に腕回して大丈夫だから」
静と同じくヘルメットを被った宗介がエンジンをかけながら振り返る。
「……うん」
静が返事をした後、バイクがゆっくりと発進した。
スピードが出たらバイクから転げ落ちてしまうのではないかという恐怖心で、そのつもりはなかったのに宗介の腰に腕を強く回してしまった。
宗介のこのバイクに乗ることは最初で最後になる。
バイクに跨る後ろ姿を見ることも最後になる。切ない気持ちが押し寄せて、静は宗介の背中を見つめがら涙を流した。
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