遊び人は真面目地味女に恋をする。

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麦は震える声を抑えようとするも、その声は余計に震えていた。
俊二の言葉に周りがクスクスと笑う声が聞こえてくる。


「前から思ってたんだけどさ…」


麦は次に放たれそうな言葉を、頭の中で何個も考えるがそのうちのどれもが、罵倒の言葉しか出てこない。
刑が確定する瞬間の囚人のような気分だった。

俊二に逆らった罪に対する刑が俊二の口から放たれそうになった時。


「俊二」


高校生にしては落ち着いていて、妙に大人ぽく冷めた声が教室に響く。


「なに？」

「それに構ってる時間もったいない
早く帰りたい」


"それ"とは麦を指した言葉で、既に彼らとは同等の扱いどころか、物としてみられていたことに気づく。


「ええ…？？ここでも女王様出してくる？？」

「女王じゃねえよ、ハゲ」


女と間違われても仕方ないと言えそうなくらい美しい容姿を持つ男から放たれる言葉は、その見た目と似つかわしくないくらい荒っぽい。

俊二の行動を止められるのも、そんな暴言を吐けるのもクラスの中で彼1人だろう。


「まあ、怜がそういうなら仕方ないかあ…
てか、俺らだけ抜ければ良くない？」

「それ賛成」


さっさまでの出来事は何だったのか、2人は片手に携帯と財布だけを持ち、教室をでていった。　　

嵐が過ぎ去り、麦の青ざめた顔に色が戻っていく。
隣にいた平塚が麦の顔を覗き込み、長い前髪をメガネの上に垂らしながら"大丈夫？"なんて声をかける。

麦はゆっくりと頷き、一旦自分の席へと戻っていく。
やっぱり橘俊二は恐ろしい、麦は改めてそう感じて、机の上に腕を広げてその上に顔を埋めた。

だが、その日から俊二が麦のことを気になり始め、執着し始めるのは少し先のこと。


（始まりは最悪）