好きな人の好きな人

ぽぽ

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それからさらに1か月ほどが経った。

赤の他人同士でも隣に住んでいれば時々、顔を合わすことくらいあるはずなのにそれすらもない。それは菫が蒴たちと顔を合わせないように意識しているのも理由にあった。

何をするにもやる気が起こらず、食欲も湧かないため体重は少しずつ減っていく。
大学にもなんとか通っているが、講義なんて全くと言っていいほど頭に入ってこない。

蒴と一緒にいる時は食事も食べて、さらにはデザートも食べてなんて無限に沸き立つ食欲に悩んでいたくらいだったのに。なんなら勉強も蒴に褒めてもらえるから頑張っていた。見た目も蒴が可愛いと思ってくれることが嬉しくて磨いていた。蒴中心で動く生活。

恋愛に依存しすぎて生活が乱れるなんて他人事だと思っていたのに。

蒴に依存しすぎていた自分に驚いたと同時に、そんな自分が蒴に依存をして束縛するなんて、嫌気が指して当たり前だという考えにいきついて涙をこぼすということが繰り返された。

夜になり暗い部屋の中で映画を見ていると、突然インターホンが鳴ってビクンと体を震わせる。
部屋の明かりをつけてインターホンを確認すると、蒴の彼女の姿があった。

なぜこの家に来たのか分からず困惑しながらも、インターホン越しに話した。


「…はい」

「あ!どうも、こんばんわ
突然すいません!この前お会いしたあの…蒴くんと付き合わせてもらってる…」


恥ずかしそうにしながらも口元には笑みを浮かべる彼女。その幸せそうな顔が菫をイラつかせる。


「あ、はい…」


蒴の彼女、菫が一番欲しかった肩書きだ。
彼女を見た途端、顔が引き攣っていくのが自分でもわかった。


「あのケーキ作ったのでよかったらお裾分けに」


蒴の彼女が作ったケーキなんていらないと断りたかったけど、蒴から彼女にはひどいことを言わないでと言われた。

そんな約束を忠実に守る必要もないのに追い返すこともできず、菫は扉を開ける。


「こんばんは、突然きてすいません
この前は挨拶もあまりできなかったので」


彼女の口角をあげて綺麗な微笑みを浮かべる。


「気にしてないです」

「あ…ならよかったです」
 

菫のあまりに無愛想な対応に彼女は戸惑った様子で菫を見ると、手元にあった紙袋を菫に差し出す。


「これよかったらどうぞ」

「…ありがとうございます」


素直にその紙袋を受け取り中を覗き込むと、パウンドケーキが入っていた。
店で並べられている商品のように綺麗なラッピングがほどこされていて、見た目も美味しそうだ。本当に手作りかと疑ってしまいたくなる。


「すいません、手作りなんかで…買ったものの方がよかったですよね??」

「いえ、綺麗すぎて売り物かと思いました」

「本当ですか?ありがとうございます」


菫はできるだけ感情を込めずに言ったが、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。

その顔を見て素直に綺麗だなと感じてしまう。

人間は人の顔を見て数秒で性格が判断できるなんて言うけれど、ふわっとした空気を纏った優しそうな女性だった。
小柄な体で守ってあげたくなるような女性。
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