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しおりを挟む自分が足音を聴き逃しているのではないかと思い、何度か部屋を出て蒴の部屋のドアから漏れる光を確認しようとすると電気はついていない。
音を聞き逃さないように、玄関の前に三角座りをして待って2時間ほど待つも全く音沙汰がない。
その間に先日初めて高級ブランド店に入店をして店員に相談しながら購入したネクタイと手袋が入った紙袋を用意する。
給料が全て吸い取られるような額だったけど、蒴の喜ぶ姿を想像したらそんなことは気にならない。
作った料理もすっかり冷めてしまっていて、サラダだけは冷蔵庫へと保存をしておいた。
爆弾唐揚げについては蒴がきたらまた温め直せばいい。
まるで、旦那の帰りを健気に待つ新妻のようだと感じて菫はふふっと笑みを浮かべる。
あまりにも暇だったためタブレットを持ってきて、動画サイトに繋ぎ字幕付きの無音で映画を見る。蒴の足音を聞き逃すわけにはいかない。扉の向こう側からコツコツと革靴で歩く足音が聞こえてきた。
その中にはもう一つハイヒールで歩くような足音が紛れ込んでいる。きっと近所の住人が同時に帰ってきたのだろう。
扉の覗き穴から確認すると、愛しの蒴の姿が見えた。
菫は扉から勢いよく飛び出した。
すると、キャッ女性の驚いたような声が聞こえた。
蒴の部屋は角部屋でありその隣には菫が住んでいるため、こっちの方に他の部屋に住む住人が来ることはないはずだ。
目の前では蒴も驚いた顔をして、心配そうに菫の後ろを見ている。
菫はそんなことお構いなしに愛しの蒴へと腰に腕を回し抱きついた。
今日の髪型はいつもとは違いワックスで軽く後ろに流しているようで、蒴の美しい線を描いた輪郭がはっきりと見える。
「蒴ちゃん、おかえり!」
その瞬間、菫はある違和感を覚えた。胸元からいつもとは違う花のような香りがする。蒴の香りはこんな香りはしないはずだ。もっと爽やかさを感じる香りであったはず。
「美香、大丈夫??」
美香……???いったい誰だ。
一瞬、聞き間違いかとも思ったが、自分の名前に一文字もかすっていないため聞き間違いではないよう。
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