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コイバナ
しおりを挟む久しぶりの飲み会。そして、明日は休みときたら心は踊ってしまい、いつもよりハイペースに酒をあおる。それは伊藤先生も同じだったようでどんどんと体の中に酒が吸い込まれていった。
ほろ酔い気分になったのをいいことに俺は伊藤先生に質問した。
「伊藤先生、そう言えば」
俺が話しかけると、酒で赤くなった顔をこちらに向ける。思わずその顔を見て笑ってしまった。普段はこんなことで笑ったりしないはずなのに。ほろ酔いと思っていた体はだいぶ酔っぱらっているようだ。
「なんですか?」
伊藤先生は俺が笑う姿をみても動じることなく、目を細めるとメガネの柄を指先でくいっとあげた。
「伊藤先生は彼女いるんですか?彼女!」
「彼女?」
「そうですよ、かーのーじょ」
「人に聞く前に山科先生が答えてください」
身を寄せる俺から少しだけ身体を遠ざけて、伊藤先生は訝しげに俺をみてくる。
「俺ですか?いそうに見えます?
いるわけないっつうの!」
俺は自分の顔を指さして大きく笑う。
伊藤先生もその姿をみて俺を小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「でしょうね
いなさそうに見えました」
普段だったらその言葉に怒りを爆発させているところだが、伊藤先生にならなぜかそこまでムカつかない。
それは伊藤先生もどうせ恋人なんていないと思っているからだ。樹や大和に言われたとしたらいくら生徒だろうと容赦なく殴りかかっていたかもしれない。
「はい、そうです!俺は答えました!
伊藤先生はどうなんですか!ここはフェアに行きましょう!」
俺は手をマイクに見立てて、伊藤先生の方へと向ける。すると、伊藤先生はゆっくりとカサついた唇を開く。
「推しとやらならいますよ」
「はあ??」
俺は推しのことなんて聞いた覚えはない。推しと恋人は全く別物だ。なのに、伊藤先生は赤く染まった頰をさらに上気させて酒を片手にカウンターテーブルに肩肘をつき、夢うつつな表情をした。
「先生、俺が聞いてるのわね、推しじゃなくて恋人だよ、恋人。恋愛の恋って書いて、人間の人って書いて恋人。なにをどうやって推しと間違えてんすか。
もしかして、推しのことを恋人とか思っちゃう痛い人??」
俺は未だに夢うつつな表情をする伊藤先生の肩を軽くペチペチと叩く。失礼なことは承知だけど流石に目を覚ましてあげないと可哀想だ。
「山科先生は推しはいますか?
人生を支えてくれる推しは恋人よりも心の栄養になりますよ」
「んー?てことは恋人はいないってこと?」
首を傾げると伊藤先生は俺の方を見て唇を横に引き伸ばして笑う。その様子はなんだか不気味だ。
「はい、恋人はいません
でも、推しならいます」
「あー、そういう感じなんですね」
俺の期待していた答えではなく自分でもわかるくらい、極端に声のトーンが落ちた。よくわからないけど、とりあえず相槌を打つ。
俺には特別推している芸能人などはいないから気持ちがイマイチ理解できないのだ。
「僕の推しは天使のようなんです」
「はい?」
突然、伊藤先生の推しの話が始まり、俺は思わず聞き返してしまう。
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