モブの俺には構わないでくれ。

ぽぽ

文字の大きさ
上 下
64 / 69

コイバナ

しおりを挟む


久しぶりの飲み会。そして、明日は休みときたら心は踊ってしまい、いつもよりハイペースに酒をあおる。それは伊藤先生も同じだったようでどんどんと体の中に酒が吸い込まれていった。
ほろ酔い気分になったのをいいことに俺は伊藤先生に質問した。


「伊藤先生、そう言えば」


俺が話しかけると、酒で赤くなった顔をこちらに向ける。思わずその顔を見て笑ってしまった。普段はこんなことで笑ったりしないはずなのに。ほろ酔いと思っていた体はだいぶ酔っぱらっているようだ。


「なんですか?」


伊藤先生は俺が笑う姿をみても動じることなく、目を細めるとメガネの柄を指先でくいっとあげた。


「伊藤先生は彼女いるんですか?彼女!」

「彼女?」

「そうですよ、かーのーじょ」

「人に聞く前に山科先生が答えてください」


身を寄せる俺から少しだけ身体を遠ざけて、伊藤先生は訝しげに俺をみてくる。


「俺ですか?いそうに見えます?
いるわけないっつうの!」


俺は自分の顔を指さして大きく笑う。
伊藤先生もその姿をみて俺を小馬鹿にするような笑みを浮かべた。


「でしょうね
いなさそうに見えました」


普段だったらその言葉に怒りを爆発させているところだが、伊藤先生にならなぜかそこまでムカつかない。
それは伊藤先生もどうせ恋人なんていないと思っているからだ。樹や大和に言われたとしたらいくら生徒だろうと容赦なく殴りかかっていたかもしれない。



「はい、そうです!俺は答えました!
伊藤先生はどうなんですか!ここはフェアに行きましょう!」


俺は手をマイクに見立てて、伊藤先生の方へと向ける。すると、伊藤先生はゆっくりとカサついた唇を開く。

「推しとやらならいますよ」

「はあ??」


俺は推しのことなんて聞いた覚えはない。推しと恋人は全く別物だ。なのに、伊藤先生は赤く染まった頰をさらに上気させて酒を片手にカウンターテーブルに肩肘をつき、夢うつつな表情をした。


「先生、俺が聞いてるのわね、推しじゃなくて恋人だよ、恋人。恋愛の恋って書いて、人間の人って書いて恋人。なにをどうやって推しと間違えてんすか。
もしかして、推しのことを恋人とか思っちゃう痛い人??」


俺は未だに夢うつつな表情をする伊藤先生の肩を軽くペチペチと叩く。失礼なことは承知だけど流石に目を覚ましてあげないと可哀想だ。


「山科先生は推しはいますか?
人生を支えてくれる推しは恋人よりも心の栄養になりますよ」

「んー?てことは恋人はいないってこと?」


首を傾げると伊藤先生は俺の方を見て唇を横に引き伸ばして笑う。その様子はなんだか不気味だ。


「はい、恋人はいません
でも、推しならいます」

「あー、そういう感じなんですね」


俺の期待していた答えではなく自分でもわかるくらい、極端に声のトーンが落ちた。よくわからないけど、とりあえず相槌を打つ。

俺には特別推している芸能人などはいないから気持ちがイマイチ理解できないのだ。


「僕の推しは天使のようなんです」

「はい?」


突然、伊藤先生の推しの話が始まり、俺は思わず聞き返してしまう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

処理中です...