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逃走

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「こいつが勝手に転んだのが悪かっただけでっ!」

「勝手に転んだ?蒼がけんちゃんを無理やり引きずったからじゃなくて??」

「…」


いつになく鋭い樹の声が女王、早乙女を黙らせる。
早乙女がバツの悪い顔で俯いた。
思わず、すげえという声が漏れそうになった。
ただし、早乙女にとっては学校にいる教員より自分の所属している部長の方が怖いのか。

それもそれで複雑な気持ちだ。


「あと、それなんて書いてあったのか見せてみな」


樹は早乙女の手の中に握られていた紙を指差す。お題が書いてあった紙だ。そうだ、俺もそれがみたいんだ。なんのためにここまで引きづられたのか納得のできる理由が欲しい。


「これはダメです!!!絶対に!
それにこの紙は一位になれば発表されなくてもいいっていう特別なやつで…
ほらここ見てください。」


早乙女は他の人とは違う赤い紙を樹の前に掲げる。
紙の表面には"※1位になればゴールした際、お題を発表されることはありません"とそんなふざけた言葉が書かれている。


要はそのお題が全校生徒の前で発表されたら恥ずかしい思いをするということだ。
俺は早乙女に引きづられるという、すでに恥ずかしい思いをしているんだ。同じくらいの対価を払って欲しいと生徒に対して容赦ないことを考えてしまう。


「樹、あれを奪え!」

「黙れ、ブス!」


早乙女は紙を持って、樹から逃げる。


「こら、蒼
逃げないよ、健ちゃんにも謝るまで許してあげない」


樹は逃げ出した早乙女の襟を掴むと、首元に腕を回して引き寄せた。いや、言い方が違う抱き寄せた。さらに、早乙女の頭を自分の方に抱き寄せて耳元で何か囁く。

こ、これは…!!!

俺はその姿を一時でも見逃してやるもんかと目をかっぴらいて2人の姿を目に焼き付ける。

樹、もっとやれ!!もっと!!

樹はそれでも逃げようとする早乙女の背後から腰に片腕を回して、体を持ち上げる。
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