モブの俺には構わないでくれ。

競争

"次は借り物競走です"

体育祭のプログラムを見てみると、いつのまに競技は終盤に近づいている。
そして、俺の気づかない間に他校の女の子たちがグラウンドの周りに蔓延っていた。

手作りだろうか。それぞれの"推し"のうちわや横断幕が飾られている。いつからうちの学校はアイドルのライブ会場のようになったんだ。
その中には樹の名前や女子に不人気そうな大和名前まであったが、あいにくあいつは体育祭やらの面倒臭いイベントには参加をしない。

この前、たまたま会った時も体育祭に出るのかと聞いたら出るわけがねえという冷めた返事が返ってきた。体育祭にでるより親父の仕事に付き合う方が楽なようだ。

借り物競争が始まり、スタートラインに並ぶ奴らを眺めていると、眉間に皺を寄せた早乙女が待機していた。
あいつが走ったり飛んだりするという想像がつかない。興味深く観察していると、自分の番が近づくにつれて早乙女の顔はさらに強張っていく。

いつもあんなでかい態度なくせして、借り物競走くらいで緊張してるのか？？まさかそんなことはないよな？？

そして、いよいよ早乙女の番が来た。
走り出す前も運動に慣れていないのが丸わかりのような構えだ。
ピストルが鳴ると同時にやる気がなさそうに走り出す。

コース上に置かれているテーブルの前で立ち止まり、複数置いてある四つ折りの紙の中から一つだけ選ぶ。借り物競走の醍醐味、お題が書かれている紙だ。お題によってはメガネや帽子といった簡単そうなものから、好きな人という羞恥を煽るお題まである。

早乙女は四つ折りの紙を開いて中身をみると、眉間に深ーーい皺がよった。
あんな怖い顔をしているやつに持っているものを貸せなんて言われたら断りようがない。

早乙女はお題のものを見つけるためにあたりをキョロキョロしだした。
中々見つからないようで、グラウンドをぐるぐると走り回っている。

男子校で美人で有名な早乙女と関係を持ちたいという男たちが早乙女が近くを通るたびに騒ぎ出す。そんな様子を気の毒だなといって眺めていると、遠くにいるはずなのに早乙女と目があった。

その途端、こっちに向かって猪のように勢いよく走り出してくる。
こ、怖い……！お願いだから俺ではありませんように…。心の中でそう願い続ける。

だが、その願いも虚しく終わった。

「おい！！！！ブス！！！」

あいつがブスと呼ぶのはこの俺ただ1人だ。