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猫
しおりを挟む俺の日々は忙しない。
なんせやんちゃな男どもがこれでもかと集められた男子校だ。彼らの生傷が絶えない。
そう考えている間にも勢いよく扉が開かれた。
あまりにも綺麗な顔をした男が無表情で立っている。
「…どうした?怪我でもしたか?」
「…」
問いかけるも返事は返ってこない。
男は保健室の中に無言で入ってくると、何かを探し始める。
「おい、早乙女
なんか言えよ、心配になんだろ?
どっか怪我したのか??」
「…」
尚も無言は続き、しまいには常備薬などが入っているケースを漁り出す。
こう言う場合も広い心を持って接しなければ。
「さーおーとーめ
聞こえてんだろ」
「…」
よくよく見ると、早乙女の指からは血が流れていた。
「おい、調理自習で指でも切ったのか?
消毒するからここに座れよ?な?早乙女!」
俺の向かい側にある椅子をパンパンと手で叩いて合図するも近づいてこない。こいつ猫かよ。気高い猫様気取りか???そんなことを考えているとこいつの身につけている猫の可愛らしいアップリケのエプロンが目に入った。
「可愛いエプロンしてんな
お前によく似合ってるよ。その猫ちゃんのエプロン」
「…すぞ」
「え?なんて??」
「殺すぞ」
「……物騒なこというなって蒼
ぶっっ!!!」
奴の名前を呼んだ瞬間、俺の顔面に枕が吹っ飛んできた。
「名前で呼ぶな」
「悪かった、名前で呼ばれるの嫌だったもんな
いやあ、悪い悪い」
俺は枕を拾ってパンパンと手のひらで軽くホコリを払う。さっき枕カバー洗ったばっかなのによ…
早乙女蒼は男子校の女王ポジションにいるだけあってかなりの美人だ。
白っぽい金色のふわふわの猫毛、少し吊り上がった大きめの目元を髪と同じ色をした長いまつ毛で囲まれている。筋の通った高い鼻、淡いピンク色の小さい唇。全てのパーツが黄金比で配置されている。それに加えて透き通るように白くキメ細い肌
特に化粧なんてさせなくても、カツラを被せただけでほぼ全員が女と見間違えるはずだ。逆に化粧が邪魔になるほどだろう。
だけどこいつの性格はその美貌をプラマイゼロにするくらいの荒っぽさがある。
早乙女と同じクラスの奴らの話だと、クラス替え初日の自己紹介で可愛いとか美人とか言われるのは大嫌いで、言ったやつは殴る、俺に告白してきたやつは殺すと言ったらしい。
よっぽど嫌な思い出があるのだろうから、本人から話さない限りはあまり深く踏み込まないようにしている。ていうか踏み込ませてもくれねえ。
「ほら、診てやるからこっちこいよ」
「お前に触られたくない」
「じゃあ"最低限"触らないように診てやるから!!
あとその指は一旦水道で洗ってこい」
「声がでけえんだよ」
早乙女は顔を顰めると、廊下に向かって歩いていく。
俺はなぜかとんでもなくこいつに嫌われている。あまり記憶はないが初対面の時、俺はこいつに禁句ワードを言ってしまったのか。
いや、そんなことは言ってないはずだ。
初対面の時はこいつが体調悪くしたとか言って保健室に来た時だ。それに態度も今と違って普通だった。
おそらく別の出来事でめちゃくちゃ嫌われたのかもしれない。だが、俺には思い当たる節がないのだ。聞こうとしてこいつの拳が飛んできたことがあるため、それ以来怖くて聞けない。
10歳近く年下の男に対して情けないことこの上ないが、こいつは華奢な見た目をしているくせにまあまあ力が強いのだ。
だからといって雑な扱いをするわけにはいけないのでこうやって根気強く接してあげている。
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