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番外編
俺のヒーロー
しおりを挟む「昴、俺、最近よく見る夢があるんだ。」
琥珀は屋上の暖かい陽だまりに包まれながら、昴の膝枕を堪能していた。心地よい春風が頬を撫で、目を閉じればうとうとしてしまいそうなほど快適な時間だった。
昴はそんな琥珀の髪を優しく撫でながら、穏やかな声で問いかける。
「へえ、それは気になりますね。どんな夢ですか?」
昴が頭を撫でる手を止めると、琥珀はわずかに目を開け、名残惜しそうに昴の手を掴んだ。そして、自分の頬へとその手を引き寄せる。
「ん…続けて。撫でてほしい…。」
甘えるような仕草に、昴は微笑ましさを覚えながら、再び琥珀の頬を撫でた。彼の肌はほんのりと温かく、指先に伝わる感触が愛おしい。琥珀はまるで猫のように昴の手のひらに頬を擦り寄せ、満足げに目を閉じる。
「琥珀くん、夢の話の続きを聞かせてもらってもいいですか?」
「ん…夢?」
再び昴の手の温もりに包まれ、琥珀の意識は少しぼんやりとしていた。それでも彼はゆっくりと口を開く。
「俺のヒーローの夢。」
「ヒーロー?」
昴が片眉をあげて問い返すと、琥珀は小さく頷く。
「うん。俺のヒーロー。昔、俺のことを助けてくれた人。」
「助けてくれた人…ですか?」
昴がもう一度問いかけると、琥珀は少しだけ目を開き、遠い記憶をたどるように呟いた。
「実は昔、誘拐未遂事件に遭いかけたんだ。」
その言葉に、昴は息をのんだ。心臓が強く跳ねる。
この出来事が、こうして琥珀の記憶の中にまだ残っていたとは思わなかった。その出来事がまだ琥珀を苦しめる記憶として残っていたらどうしようという不安が募った。
動揺を悟られないように、昴はそっと琥珀の頬を撫で続ける。
「びっくりだろ? でも、今俺がここにいるのは、そのヒーローのおかげなんだ。あの人が助けてくれなかったら、俺はきっと……昴にも出会えなかった。」
琥珀は微笑みながらそう言った。その表情は穏やかで、まるで過去の出来事すらも感謝の気持ちに変えているようだった。
「…そうなんですね。」
昴は優しく微笑むが、内心では言葉にできない感情が渦巻いていた。
「ほんの短い時間しか一緒にいられなかったし、申し訳ないけど……顔もうっすらとしか覚えていないんだ。名前も……。俺、最低だよな。助けてもらったのに、忘れちゃうなんて。」
琥珀は少し落ち込んだように呟いた。
昴は静かに彼の髪を撫でる。
「いえ、その人はきっと、琥珀くんを助けたいと思ったから、咄嗟に行動に出たんだと思いますよ。」
「助けたい……? なんで?」
「その人も琥珀くんに助けられたのかもしれませんね。」
琥珀は少し驚いたように昴を見上げた。
「俺が……助けた?」
「ええ。たとえば、琥珀くんの存在そのものが、その人の心を救っていたのかもしれません。だから、命をかけてでも守りたかったのではないでしょうか。」
その言葉を聞いて、琥珀はふっと微笑んだ。
「なんか……昴が俺を助けてくれたヒーローみたいだな。」
「……そうだったら嬉しいですね。」
昴は琥珀の額にそっと口づける。その温もりに、琥珀は幸せそうに目を閉じた。
「いつか、また会えたら……ちゃんとお礼を言いたいな。その人が助けてくれたおかげで、俺は昴と出会えたんだから。」
そう言って、琥珀は昴の手を取り、その甲に優しく唇を押し当てた。
「琥珀くんは、本当に優しいですね。」
昴は愛しさを抑えきれず、琥珀の顎をそっと持ち上げる。そして、迷うことなく唇を重ねた。
「……もう、お礼以上のものをもらってますよ。」
「え?」
「なんでもありません。」
昴は微笑みながら、琥珀の髪を優しく撫でる。その指先の感触を確かめるように、愛おしそうに。
「琥珀くん、愛してます。」
「……何、突然?」
琥珀は驚いたように目を瞬かせたが、次の瞬間、頬を赤らめながら笑みを浮かべた。
「でも、嬉しい。俺も……昴のこと、愛してる。」
その言葉を聞いて、昴は幸福に満ちた笑顔を浮かべる。
そして、もう一度、深く口づけを落とした。
琥珀は昴の腕の中で、穏やかに目を閉じる。
暖かな陽だまりの中、二人の心は静かに重なり合っていた。
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