【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

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琥珀と昴は、昼休みの時間を屋上で二人きりで過ごしていた。時折、冷たい風が吹くが、昼間の太陽の光が心地よい暖かさをもたらしていた。
それに、この屋上には琥珀と昴しか来ないため、周りの目を気にする必要もない。

昴はワイシャツの上に厚手の紺色のカーディガンを羽織り、背筋を伸ばして座っていた。その端正な顔立ちと相まって、昴の雰囲気にはどこか品のある落ち着きがある。一方の琥珀は、ライトブラウンの少し大きめのカーディガンを身にまとい、袖から小さな手をちらりと覗かせていた。


「すーばーる」 


いつもなら昴が琥珀を構い倒してくるはずなのに、今日はやけに静かだった。手元の携帯に視線を落とし、何かに集中している。普段、琥珀といる時はあまり携帯を触らない昴が、こうして何かに没頭しているのは珍しかった。

琥珀は少し不満そうに眉を寄せると、四つん這いになって昴の前に移動し、彼の太ももに両手をついた。そして、昴の長い脚の間に無理やり体を滑り込ませるように座り込み、背中を昴に預けた。


「何やってんの?」


昴の視線は携帯に向かっていたはずなのに、琥珀のふわふわとした髪が視界いっぱいに広がる。思わず小さく笑みを浮かべ、琥珀の細い肩をそっと抱き込むように腕を回し、優しく包み込んだ。そして、そのまま琥珀の肩に顎を乗せる。


「すいません、イギリスにいる友人が荷物を送ってくれることになっているので、それに必要なものをピックアップしてます。代わりにこっちの国のうまいものをよこせと要求されているところですが。」


琥珀の視線は自然と昴の携帯へ向かう。しかし、画面には英語ばかりが映し出されており、意味を理解することはできなかった。

けれど、無意識にそこに女性の名前はないかと目で追ってしまっている自分がいた。なぜそんなことをするのか、琥珀自身でもよくわからなかった。

仕方ないとは思いつつも、琥珀の中には自分を優先してくれないことへの不服感と、昴は用事があるのに無理に自分に付き合っているのではないかという罪悪感が生まれる。


「俺、教室戻る…邪魔になるし…」

「邪魔…??琥珀くんがですか?」


昴は目を見開く。そんなこと1ミリたりとも思っていなかったという顔だ。


「ここは寒いですか?」

「いや…寒くないけど」

「それとも、俺といるのがつまらなかったですか?」


琥珀は小さく首を横に振る。そういう問題ではなかった。ただ、昴の携帯の向こうに自分の知らない世界があることが、少しだけ気になっただけだ。


「では、琥珀くんが嫌でなければ、そばにいてほしいです。わがままですが許してください。」


何が言葉を返さないとと思っていても出てこず、その間に昴はまるで琥珀が逃げないようにとでも言うように、回した腕の力を少し強めた。


携帯を覗き込む琥珀の表情を見た昴は、何を察したのか、画面に映る英文をゆっくりと読み上げ、それを日本語に訳して聞かせてくれる。その中にはイギリスらしい皮肉の効いたジョークも混じっており、琥珀は思わず吹き出した。


「昴の友達、面白いな。」

「はい。数少ない心を許せる友人です。」


昴は穏やかに笑みを浮かべながらそう答えた。しかし、その言葉を聞いた琥珀は、一瞬口ごもる。


「心を許せる友人」


琥珀は昴に対して十分心を許しているつもりだった。しかし、昴は果たして自分に対してもそう思ってくれているのだろうか。そんな不安が過った。




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