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唯一の家族
しおりを挟む恵麻は生まれてから実の母を亡くし、それからというもの恵麻を守ってくれる者はいなくなり、家の中では阻害されてきた。
そんな時、父が再婚した妻との間に生まれた子供が苑だった。
出来損ないの恵麻と優秀に育っていく苑。
いつも2人は比較の対象とされ、周りから恵麻に対する当たりも強くなり、死んだ恵麻の母にまで批難の言葉を浴びせた。
そんな状況下であるため、継母は苑にだけ愛情を注ぎできるだけ苑と恵麻は近づけないようにした。
生まれた瞬間から一歩たりともコースから外れないように育てようとする継母は苑に自由を与えようとせず、苦しい日々を送っていた
苑に休息というものを与えたのが恵麻だ。
優秀である余り、毎日のように厳しい躾、習い事が行われ、そんな生活が嫌になり逃げ出したくなると恵麻がバレないように苑を連れ出し、物置部屋で2人で1日を過ごしたこともあった。その次の日は恵麻は食事も与えられず1日中狭い部屋に閉じ込められた。
苑が叱られた時には自分のことのように涙を浮かべ、苑が嬉しいことがあると自分のことのように喜ぶ。
いつも恵麻の跡にくっついて歩き、1日中行動を共にする。
母親が仲良くしてはいけないと、2人を引き離そうとしても、苑は断固として離れず"姉さんとずっと一緒にいる"という言葉を投げかけ、恵麻も苑との時間を共にするごとに家族という存在を改めて確認することができた。
産みの母親がいなくなった今、恵麻にとって唯一心の開ける存在だ。
「苑は今彼女はいるの?」
コーヒーを飲んでいる途中にされた姉の突然の質問に苑はむせてしまう。
「ゲホッ!!ゴホッ!!」
「あら!苑!大丈夫?!」
恵麻は慌ててカバンからハンカチを取り出し、苑の口元に当てようとするも苑はその手を避ける。
年頃の男が同い年くらいの女に口を拭われることがどんなに恥ずかしいことか恵麻は知らない。
「いきなり何?」
「あの、今彼女がいないなら家に泊まらしてくれたら嬉しいなんて思ってるんだけど…」
恵麻の声は徐々に小さくなり、上目遣いをしながら苑をチラチラと見る
金のない恵麻には実家を出て、1人暮らしをしている苑しか頼れる人がいなかった。
「……別にいいけど」
苑は声を詰まらせながら、恥ずかしそうに恵麻から目を逸らす。
「本当に?!ありがとう!!苑!
大好き」
恵麻はテーブルに置かれた苑の両手をとるとギュッと強く握り、金剛家では見せることのなかった満面の笑みを苑へと向ける。
無邪気に喜ぶ恵麻の姿を見ながら苑はため息をついた。
このため息は義姉が泊まることが嫌で出たものじゃない。
この姉を前にして自分の本能が勝つか、理性が勝つのかわからないのだ。
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