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しおりを挟む宗介がいたことで手に入れたジュースを一人一本ずつ持ち、それぞれが軽く缶を掲げて「かんぱーい」と声を合わせた。凪の缶だけ、ほんの少し音が遅れた。
その瞬間だった。
「馨!」
友人を呼ぶにはあまりにもトゲのある、冷えた声だった。凪の肩が小さく跳ねた。その音で、一瞬にして中学生時代の記憶が押し寄せる。あの声、あの響き。耳に染みついて離れない声色。凪は咄嗟に耳を塞ぎたくなったが、動けなかった。
「なんでお前がここにいんの…?」
馨が低く、ぼそりと呟く。声には警戒と苛立ちが混じっていた。
テーブルへと歩いてきたのは桜だった。その後ろには、沢木の姿もあった。凪を見るなり、沢木はまるで汚いものでも見たかのような目で睨みつけてきた。目の奥に宿る悪意に、凪は喉がひゅっと狭まるのを感じた。
「かおるーん、誰?お友達?」
そう言ったりりに、馨は即座に「いや、友達でもなんでもない」と冷たく返す。
「へえ?でも随分仲良さそうじゃん?」
桜はまっすぐ凪を見つめ、口元にうっすらと笑みを浮かべた。その笑みには、毒があった。
「楽しそうにしてるね。ここの大学、学園祭有名だからさ。気になっちゃって、沢木と来ちゃった」
彼女の声は飾られているが、明らかに嘘だった。目的は“学園祭を楽しむ”ことではない。凪には、それが直感でわかった。
「馨、案内してよ?」
「まず、お前がここに来た理由をちゃんと話せよ」
馨の声に刺が混じる。
「だから馨に会いたかったって言ってんじゃん。だってさ、中学卒業してから、馨って私のこと避けてたよね?ひどくなーい?中学の頃はあんなに仲良しだったのに」
「俺に、もう関わらないでほしい」
一言一言が突き刺さるように冷たく、はっきりと。馨の言葉に、桜は一瞬だけ眉を寄せたが、すぐに表情を作り直す。
「ふうん。そんな言い方、傷つくなあ。でもまあ……そっか。そう言うならしょうがないよね」
そう言いつつ、彼女の視線は凪に移った。
「あれ、いたんだ。小鳥遊凪」
先ほど明らかにナギの姿を認識していたのにさくらがわざとらしく言った。
ぞわりとした空気が流れる。凪の心臓が、ドクンと跳ねた。
「何その顔?なんか隅っこでうつむいてる姿が似合ってるよね。あ、でも今日は随分オシャレしてるじゃん。誰かの気を引きたかったわけ?」
その言葉に、りりとルイが眉をひそめた。宗介の手がピクリと動く。
「…あんた、凪の知り合い?」
宗介の声は低く冷たく、まるで氷のようだった。彼の瞳は桜を真っ直ぐに射抜いていた。
凪は宗介に転校前に通っていた中学の人間関係について話したことはない。そのため、凪と桜と馨がどんな関係なのか知らなかった。
「昔、ね。ちょっと関係があっただけ。ね?凪くん。懐かしいよね」
そう言って桜は、あえて“凪くん”と馴れ馴れしく呼ぶ。その声に含まれる嘲笑と侮蔑に、凪の指先が震えた。
「やめろ」
馨が立ち上がる。凪と桜の間に入り、鋭く言い放つ。
「凪に近づくな。名前を呼ぶな。それに、ここに来る資格もない」
「なにそれ、ひどーい。そんなに怒るってことは……まさか、凪くんのこと、好きになっちゃったの?」
桜がニヤリと笑う。まるで何かを暴くように。
「でもおかしいなあ」と桜が呟く。
「ほら、覚えてるでしょ?中学の教室でさ“お前のことなんて好きになるわけない”って。あんとき、あんた泣きそうだったもんね?あの顔、忘れらんないなあ」
まるで宝物を語るように、桜は言った。
馨の椅子が大きな音を立てて引かれた。立ち上がった馨の眼差しは、完全に怒りに染まっていた。
「お前、それ以上口を開いたら本気で黙らせる」
「わ、こわ~い。そんなにムキになっちゃって。へえ、まさかとは思うけど、あの頃の豚が、今や“守られる存在”なんて思ってたらウケるよね?ねえ、ほんと、気持ち悪いんだけど?」
その言葉に、凪の心の糸がぷつんと切れた。視界が揺れ、呼吸が苦しくなる。耳の奥で脈が打つ音が大きくなっていく。
桜はなおも口を開こうとしたが、その瞬間。
「うるせえよ」
馨の声だった。低くて重く、確かな怒りを含んだ声音に、桜の足が一歩すくむ。
「あんたのせいで空気台無しなんだけど。」
ルイもそう呟き、冷たい目で睨みつける。普段は無関心を装う彼が、明らかに敵意を見せている。
桜の顔が引きつり、唇がわなわなと震えた。
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