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しおりを挟む昼休みが終わるチャイムが鳴り響いたが、凪は動かなかった。
目の前の地面をじっと見つめ、指先で土を軽くかき分ける。しゃがみ込んでは小石を拾い、違うとわかると投げ捨てる。
沢木が投げたブレスレットの石。
午後の授業が始まり、校舎の窓から教師の声や生徒の笑い声が聞こえてきた。それでも凪は授業にでることなく探し続けた。
今まで授業サボったことがなかったため、それなりの罪悪感を感じるが、そんなことを気にしている場合ではない。
小石が手のひらの上でころりと転がる。形も色も、記憶の中のものとは違っていた。
放課後になり、帰宅する生徒たちが校庭を横切る。凪を見て、ひそひそと囁き合い、冷ややかな視線を向ける者もいた。だが、そんなことに構っている余裕はなかった。
空が暗くなり始め、遠くの校舎が夕焼けに染まる頃、ようやく諦めた。探し続けても見つからない。仕方がない。
重たい足を引きずるようにして、校門を出た。帰宅するため家へ向かう道を歩きながら、凪はうつむいていた。
街灯がぽつぽつと灯る暗い道。靴の先を見つめながら歩くたびに、疲れがどっと押し寄せる。
ようやく家の扉を開けると、リビングから母の志保が顔を覗かせた。
「なーちゃん! おかえりっ!」
不安げな瞳が揺れ、志保はすぐに駆け寄ってきた。
「帰りが遅いから、何かあったんじゃないかって、ママすごく心配したの!」
「……ただいま、母さん」
志保は何も言わずに、凪を強く抱きしめる。
少し大げさだと思いながらも、凪は苦笑して母の背中に腕を回し、ぽんぽんと軽く叩いた。
志保は昔から、凪を溺愛していた。
美味しそうにご飯を食べる凪の姿が愛おしくて、食べたいものを好きなだけ与えてきた。
もちろん、それだけが原因ではない。凪自身の意思の弱さや、日々のストレスによる暴飲暴食もあった。だが、大元の原因は志保の過剰な愛にあった。
それは父も同じだった。
両親はそろって、凪を「可愛い」「最高の息子」と誉めそやす。
「なーちゃん、可愛いから、誰かに攫われちゃったんじゃないかって、ママすごく心配だったんだから!」
「……ごめんね、母さん」
可愛くないけど。
そう言ったところで、どうせ全力で否定される。だから、凪は口には出さない。
志保は涙を浮かべながら、頬をぷくっと膨らませた。普通、子供にそんな顔を見せたらいい年してぶりっ子するなと言われるところだ。
けれど、志保は童顔で整った顔立ちをしていた。よく食べるのにスタイルも崩れていない。そのせいで、周囲からは「中学生の子供がいるように見えない」と驚かれることが多い。そのため、その表情にも違和感がなかった。
「凪、おかえり」
志保と玄関で話していると、階段から父が降りてきた。
「あれ? 父さん、今日は帰り早かったんだね」
そう言った途端、父は困ったように眉を寄せ、苦笑した。
は長身で細身の体をしており、柔和な雰囲気を持つ人だ。仕事が忙しく、普段は夜遅くまで帰ってこない。22時を過ぎることも珍しくないのに、今はまだ19時だった。
「凪、落ち着いてからでいいから、あとでちょっと話があるんだ」
「話? それって大事な話?」
「ああ、大事な話だ。先にお風呂でも入ってきなさい。その後に話すから」
「……うん?わかった」
何の話なのか、全く見当がつかない。
まさか、学校から連絡が入ったのか?
けれど、あの場にいた誰かが、わざわざ教師に報告するとは思えなかった。
じゃあ、成績のことか? 進学の話? それとも、まさか両親の離婚――?
様々な可能性が頭をよぎったが、今日は色々なことがありすぎて、もう考える気力もなかった。
「怒られるなら怒られるで、素直に受け止めよう。」
そう決めて、凪は浴室へと向かった。
風呂を出て、リビングへ向かうと、両親がテーブルの椅子に座っていた。
両親が隣り合って椅子に座る向かいの席だけがぽつんと空いている。
凪は仕方なくそこに腰を下ろした。
両親の表情を見て、思わず喉が詰まる。
険しい面持ち。張り詰めた空気。
やっぱり、何か悪い話だ。
凪は手をぎゅっと握りしめ、うっすらと汗ばむのを感じた。
「あの……話って、何?」
「なーちゃん……絶対、悲しむわ……」
志保は瞳いっぱいに涙をため、両手で顔を覆った。
肩が小さく震えている。
父がそっと志保の肩に手を置き、優しく声をかけた。
「悲しいのは、凪なんだから……」
嫌な予感がする。
やっぱり、離婚なのか?
両親が別れる?あんなに仲のいい夫婦なのに別れることなんてあるのかなんて頭で考え込む。
「凪、実は……」
父が言葉を切る。
「……実は?」
凪はごくりと唾を飲み込んだ。
そして、父は静かに告げた。
「ここから遠く離れたところに、転勤することになったんだ。」
凪は目を大きく見開いた。
「――え?」
時間が止まったように感じた。
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