東京浅草、居候は魔王様！

第5章 愉悦する道化師

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　それは直ぐに舞台袖に引っ込んだ。メレクが近づいている事に気が付いたのだろうか。

　辺りを見回すと、会場は異様な熱気に包まれている。ステージ上の月斗もメンバーも、マオの言った通り何かに取り憑かれているかのようだ。

　焚かれたストロボによって映し出された彼等の影が、まるで大きな怪物のようにステージ奥の壁で蠢いていた。

「マジで何が起こってんだよ……」

「生身の人間がこれを聴き続けるのは良くない。悪い呪いが残らないよう、なるべく努力してみよう」

　マオはそう呟くと、目を閉じて集中し始めた。

「マオ……？」

　すると、マオを中心に柔らかく温かい光が辺りを包んでいった。
　マオの頬に、悪魔の紋様がうっすらと浮かび上がる。

　周囲の観客達は相変わらず興奮して叫んだり飛び跳ねたりしていたが、嫌な気配はだいぶ治まってきたように感じる。

「ダメだ逃げられちゃった……」

　しばらくすると、メレクがこちらに戻って来た。

「僕も加勢するよ！」

　メレクの身体からも光が溢れる。普通の状態なら、周りの人間はマオやメレクが怪しい光を放っていると感じるはずだが、俺達以外の会場の人間はステージに釘付けになり、こちらなど見向きもしない。

　マオとメレクに護られて、観客達にはこれといった被害は出ずにライブステージは進行していった。

「じゃあな、お前達！　今夜はここまでだ！　また会おうぜ！」

「キャー！」

　やがて最後の曲を終えて、月斗はメンバーと歓声と共にステージを降りて行く。

　興奮醒めやらぬ会場には、それから何度もアンコールの声が響いたが、彼等が再び現れる事は無かった。