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第5章 愉悦する道化師

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「お疲れ! 最高だったなー!」

「今までで一番盛り上がったんじゃね?」

「なー幸也、また演ろうぜ!」

「……ああ」

 控室に戻ると、俺達は機材を片付けながらお互いの演奏を褒めて労った。
 俺は彼等と話をしつつも、目では月斗の姿を探していた。

(……やっぱり居ない。さっきのアイツ、明らかにどこかおかしかったが……)

 俺達はその後、ドリンクを買いに会場奥のバーに寄ってからステージ前に戻った。トリ前のバンドの演奏がもう始まっている。

「お疲れさん。君達のバンド良かったよ!」

 前の方に向かって行くと、横からメレクが顔を覗かせて、俺のカップに乾杯した。マオもその後ろから姿を現す。

「ああ、さっきはありがとな」

「無事で良かった。しかし……」

 マオはそう言って少し表情を曇らせる。

「偶然という訳では無さそうだ……」

「うん、なんだかこの会場、妙な魔力を感じるんだよね……」

「え?」

 魔力とは、一体どういう意味なのだろうか。さっきの照明は整備不良等ではなく、魔力によって操作されたという意味なのか。

(つまり、この会場にマオとメレクの他に別の悪魔が居るって事か……?)

 サマエルはうちで双子と留守番してくれているはずだ。俺はこの三人の悪魔しか知らないが、人間界には他にも悪魔が侵入して来ているのだろうか。

 そんな事を考えている内に、あっという間にトリ前のバンドが演奏を終えていた。

(いけね、結構カッコ良さそうだったのに、もっとちゃんと聞いておけば良かった……)

 ステージの明かりが暗転し、幕の代わりにスクリーンが降りてくる。
 スクリーンの端から、交代で舞台に上がって来るトリバンのメンバーが見えた。

(さっきの照明……まさか月斗が関わってたりしねーよな?)

 アイツがいくらイケ好かない嫌味な奴だったとしても、人の命を危険に晒すような悪戯をする奴ではない。
 しかし、さっきの月斗の様子はいつもとはまるで異なっていた。

 やがてスクリーンが上がり、青白い照明の中、前奏が始まる。フロントポジションは空いている。歌入りでボーカルが登場する演出なのだろう。

(来た!)

 上手かみてにスポットライトが当たり、月斗が現れた。アホみたいな衣装は変わらないが、いつものテンションは封印され、俯向いたままマイクの前までやってくると、月斗はゆっくり顔を上げた。

「目が……?」

 歌い出し、月斗の目が赤く光ったように見えた。次の瞬間、なんとも言えない不気味な音が月斗の口から放たれる。デスボイスとかいう話でも、ヘタクソな訳でもない。
 もっと異様で、気味の悪い音だった。俺は思わず耳を塞いだが、観客達は一斉に歓声を上げ出した。

「幸也……!」

 マオが突然俺の腕を掴んで引き寄せる。自分の周りに幕のような光が現れ、月斗の声が遮断されて耳が楽になった。防衛魔法だろうか。

「何が起きてるんだ?」

「分からないが……恐らく魔法だ。洗脳系の厄介なものだな……」

「魔法!? 月斗は人間だぜ?」

「かなり不味いものに取り憑かれているな」

「取り憑かれてる……?」

「あそこに何か居るね。僕、見てくるよ」

 俺達が話していると、メレクがそう言って舞台袖へ向かった。
 その先を目で追うと、上手の奥に人影が見えた。一瞬ライトが当たって浮かび上がったのは、

「……仮面?」
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