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第4章 欲望の悪魔と煌めきのカーニバル
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「別に構わねぇけど……」
俺が答えると、メレクはニヤリと笑って荷物を下ろした。中には沢山の布が入っているようだ。
彼がミシンに向かって歩いて行きながら指先を立てると、袋から布巾が一枚飛んで行ってミシンをぴかぴかに磨き上げる。
(……やっぱりサマエルと同じように、物も自在に操れるんだな)
「これ、かなり良いミシンだよー。こんなに埃被っちゃって可哀想に」
俺がぼーっとメレクの魔法を見ていると、彼の腰に巻かれた道具ベルトのようなものから、白く細長い物が飛び出して、俺に巻き付いてきた。
「うわ、なんだ? おい、何してんだこれ? やめさせてくれ!」
その紐のようなものは、俺の腕やら腰周りやらに巻き付いては解けてを繰り返している。
「ちょっと、あんまり暴れないで! 顔に似合わず案外ビビリだね~、何も危険はないって……はい、採寸終わり!」
「採寸?」
顔の事は余計なお世話だと思いつつ、俺はメレクの意外な言葉をそのまま繰り返した。
すると、続けて彼の袋から黒い布が飛び出して、ベルトのポケットからは大きなハサミが現れた。持ち手の装飾が禍々しく、凶悪なデザインをしている。
(なんつー危なっかしいもんを持ち歩いてるんだ……)
それは何の躊躇いもなく黒い布を裁断していく。いつの間にかミシンには黒い糸がセットされており、カットされた布は自らミシンの針の下に滑り込んで行った。
やがて踏版が勝手に上下を始め、はずみ車が回り始める。俺が息を呑んでいる間に、ただの黒い布は服の形に生まれ変わっていった。
「はい、出来た! 着てみて!」
メレクは完成したらしい黒い服を俺に手渡した。
「え、マオの服作ってたんじゃねぇの?」
「はー? さっき君の採寸したでしょ? もー、早く早く!」
俺は促されるまま、渡された服に着替えた。シンプルなカットソーだが、ちょっとオーバーサイズな気もする。
すぐに廊下の脇に立て掛けてあった姿見の布を外して前に立ち、俺は自分の状態を確認した。
「あ……いい感じかも……」
「でしょー?」
全体的にダボっとしているものの、形がキレイなので野暮ったさは無く、立ち姿がまるでアーティストのようにサマになって見える。裾のカットも段がついていて、一点もののこだわりと特別感を感じさせた。
「上がゆったりしてるから、パンツはタイトめなのを履いてね。んー、どうせなら靴とかも買いに行きたいなー」
顎に手を当てて想像を広げているメレクに、俺はある不安を覚えて確認した。
「……あのさ、作ってくれたのは嬉しいんだけど、これの代わりに俺は何を捧げなきゃならないんだ?」
メレクは俺に話しかけられて我に返ると、あっけらかんと回答する。
「ああ、このミシンのレンタル料って事でいいよ。クラースの服を作るのにしばらく借りるからね」
それを聞いて安堵した俺は、ふと昼間の話を思い出した。
「お前さ、もしかしてカーニバルとかも好き?」
「え!? 派手に着飾って音楽に合わせて踊ったりしながら行進するアレでしょ? 何、やるの? 見たい見たい!」
案の定、メレクは凄い勢いで食い付いてきた。
「浅草では毎年夏の終わりに、街中でカーニバルイベントをやるんだよ。今月末もやるからさ、お前興味有るんじゃないかと思って……」
「うんうん! あるよ! ……でも何で今そんな話をする訳?」
さすがは悪魔、察しが良い。
「……お前さ、他に何か欲しい物とかある?」
一か八か、俺はこの欲望の悪魔に取り引きを持ちかけてみる事にした。
俺が答えると、メレクはニヤリと笑って荷物を下ろした。中には沢山の布が入っているようだ。
彼がミシンに向かって歩いて行きながら指先を立てると、袋から布巾が一枚飛んで行ってミシンをぴかぴかに磨き上げる。
(……やっぱりサマエルと同じように、物も自在に操れるんだな)
「これ、かなり良いミシンだよー。こんなに埃被っちゃって可哀想に」
俺がぼーっとメレクの魔法を見ていると、彼の腰に巻かれた道具ベルトのようなものから、白く細長い物が飛び出して、俺に巻き付いてきた。
「うわ、なんだ? おい、何してんだこれ? やめさせてくれ!」
その紐のようなものは、俺の腕やら腰周りやらに巻き付いては解けてを繰り返している。
「ちょっと、あんまり暴れないで! 顔に似合わず案外ビビリだね~、何も危険はないって……はい、採寸終わり!」
「採寸?」
顔の事は余計なお世話だと思いつつ、俺はメレクの意外な言葉をそのまま繰り返した。
すると、続けて彼の袋から黒い布が飛び出して、ベルトのポケットからは大きなハサミが現れた。持ち手の装飾が禍々しく、凶悪なデザインをしている。
(なんつー危なっかしいもんを持ち歩いてるんだ……)
それは何の躊躇いもなく黒い布を裁断していく。いつの間にかミシンには黒い糸がセットされており、カットされた布は自らミシンの針の下に滑り込んで行った。
やがて踏版が勝手に上下を始め、はずみ車が回り始める。俺が息を呑んでいる間に、ただの黒い布は服の形に生まれ変わっていった。
「はい、出来た! 着てみて!」
メレクは完成したらしい黒い服を俺に手渡した。
「え、マオの服作ってたんじゃねぇの?」
「はー? さっき君の採寸したでしょ? もー、早く早く!」
俺は促されるまま、渡された服に着替えた。シンプルなカットソーだが、ちょっとオーバーサイズな気もする。
すぐに廊下の脇に立て掛けてあった姿見の布を外して前に立ち、俺は自分の状態を確認した。
「あ……いい感じかも……」
「でしょー?」
全体的にダボっとしているものの、形がキレイなので野暮ったさは無く、立ち姿がまるでアーティストのようにサマになって見える。裾のカットも段がついていて、一点もののこだわりと特別感を感じさせた。
「上がゆったりしてるから、パンツはタイトめなのを履いてね。んー、どうせなら靴とかも買いに行きたいなー」
顎に手を当てて想像を広げているメレクに、俺はある不安を覚えて確認した。
「……あのさ、作ってくれたのは嬉しいんだけど、これの代わりに俺は何を捧げなきゃならないんだ?」
メレクは俺に話しかけられて我に返ると、あっけらかんと回答する。
「ああ、このミシンのレンタル料って事でいいよ。クラースの服を作るのにしばらく借りるからね」
それを聞いて安堵した俺は、ふと昼間の話を思い出した。
「お前さ、もしかしてカーニバルとかも好き?」
「え!? 派手に着飾って音楽に合わせて踊ったりしながら行進するアレでしょ? 何、やるの? 見たい見たい!」
案の定、メレクは凄い勢いで食い付いてきた。
「浅草では毎年夏の終わりに、街中でカーニバルイベントをやるんだよ。今月末もやるからさ、お前興味有るんじゃないかと思って……」
「うんうん! あるよ! ……でも何で今そんな話をする訳?」
さすがは悪魔、察しが良い。
「……お前さ、他に何か欲しい物とかある?」
一か八か、俺はこの欲望の悪魔に取り引きを持ちかけてみる事にした。
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