東京浅草、居候は魔王様!

栗槙ひので

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第4章 欲望の悪魔と煌めきのカーニバル

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 魔王でも恐れる悪魔を相手に、生身の人間に一体どうしろと言うのだろうか。

 俺は双子達を寝かしつけると、ハードケースに仕舞いっぱなしにしていたエレキギターを取り出してみた。

「やっぱ錆びてんなー」

 ギターの弦はざりざりに鉄臭くなっている。確か替えの弦もあったはずだが。

 真っ白いストラトキャスター。ギターを抱えていると、楽しかった高校時代を思い出す。仲間と集まって練習して、ふざけあって、ライブで暴れて。

「それがお前の楽器か?」

 振り返ると、闇の中にマオが立っていた。

「……ああ」

「音色を聞かせてくれないか?」

「や、双子起こしちまうし、弦が錆びてっから弾けねーよ」

「そうか……友人達の誘いはどうするんだ?」

 マオは俺の隣に腰を下ろした。

「……本番まで一ヶ月もねーし、ブランクもバイトもあるからやっぱ厳しいかな。無理して引き受けても逆に迷惑掛けちまう」

「働かなくて良ければ……今のような暮らしでなければ、続けたかったのではないか?」

 今日のマオは、なんだか人の気持ちにずかずかと入り込んで来る。

「どーだろうな。ただの趣味だし、大学行ってても小遣い稼ぎたくて結局バイトしてたかもだし」

 俺はギターをケースに戻すと蓋を閉めた。

「そりゃ親がいなくなったのはショックだけど、別に今の生活もそんなに悪いとは思ってないよ」

 俺は笑って見せたが、マオは無表情のままだ。

「お前は本当にそれを望んでいるのか?」

「え……?」

「我々悪魔は人間の欲望を喰らう。それ故に人を堕落に誘い、より多くの欲望を貪るのだ。つまり我々は欲望の香りにはとても敏感だ。ラーメン屋で彼等と話していた時も、今それを抱えていたお前からも、欲望の香りが燻っている気がする……」

(欲望の香り……?)

 音楽は好きだが、バンドを続ける事に夢や野望なんて大それた気持ちは持っていない。

 高い金払って大学行ってまで、絶対バンドサークルに入りたかったなんて事もないし、音楽学校入ったりメン募してプロ目指したりしたい訳でも無い。

(今のような暮らしでなければ……)

 マオの言葉が脳裏を過ぎる。

 別に今も出来ないんじゃない。俺がしたいと思わないだけだ。
 環境は関係ない。俺が何かを目指せないのを、親や双子のせいにしたく無かった。

(夢を追いかけて無いのは誰のせいでもねえ。俺に夢が無いだけだ)

 しつこいマオとモヤモヤした気持ちとで、少しイラついてしまった俺は、反動でつい聞き返してしまった。

「……別に、俺は今のままで満足してる。お前こそどーなんだよ? なんだか魔界には帰りたくなさそうだし、弟の話になると黙っちまうし、お前は魔王を続けたいのか? もし魔王じゃなかったら、本当はどんな事がしたいって思ってるんだ?」

「私が魔王じゃなかったら……?」

 マオは不意を突かれて驚いている。

「そーだよ。環境や立場に縛られてるってんなら、お前の方がそうなんじゃねぇのか? 執務室出入りする時はいつも死にそうな顔してるしよ。本当は魔王なんかやりたくねーんだろ?」

 俺が意地悪く問い質すと、マオは俯向いてしまった。どうやら図星だったらしい。
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