60 / 92
第4章 欲望の悪魔と煌めきのカーニバル
58
しおりを挟む
魔王でも恐れる悪魔を相手に、生身の人間に一体どうしろと言うのだろうか。
俺は双子達を寝かしつけると、ハードケースに仕舞いっぱなしにしていたエレキギターを取り出してみた。
「やっぱ錆びてんなー」
ギターの弦はざりざりに鉄臭くなっている。確か替えの弦もあったはずだが。
真っ白いストラトキャスター。ギターを抱えていると、楽しかった高校時代を思い出す。仲間と集まって練習して、ふざけあって、ライブで暴れて。
「それがお前の楽器か?」
振り返ると、闇の中にマオが立っていた。
「……ああ」
「音色を聞かせてくれないか?」
「や、双子起こしちまうし、弦が錆びてっから弾けねーよ」
「そうか……友人達の誘いはどうするんだ?」
マオは俺の隣に腰を下ろした。
「……本番まで一ヶ月もねーし、ブランクもバイトもあるからやっぱ厳しいかな。無理して引き受けても逆に迷惑掛けちまう」
「働かなくて良ければ……今のような暮らしでなければ、続けたかったのではないか?」
今日のマオは、なんだか人の気持ちにずかずかと入り込んで来る。
「どーだろうな。ただの趣味だし、大学行ってても小遣い稼ぎたくて結局バイトしてたかもだし」
俺はギターをケースに戻すと蓋を閉めた。
「そりゃ親がいなくなったのはショックだけど、別に今の生活もそんなに悪いとは思ってないよ」
俺は笑って見せたが、マオは無表情のままだ。
「お前は本当にそれを望んでいるのか?」
「え……?」
「我々悪魔は人間の欲望を喰らう。それ故に人を堕落に誘い、より多くの欲望を貪るのだ。つまり我々は欲望の香りにはとても敏感だ。ラーメン屋で彼等と話していた時も、今それを抱えていたお前からも、欲望の香りが燻っている気がする……」
(欲望の香り……?)
音楽は好きだが、バンドを続ける事に夢や野望なんて大それた気持ちは持っていない。
高い金払って大学行ってまで、絶対バンドサークルに入りたかったなんて事もないし、音楽学校入ったりメン募してプロ目指したりしたい訳でも無い。
(今のような暮らしでなければ……)
マオの言葉が脳裏を過ぎる。
別に今も出来ないんじゃない。俺がしたいと思わないだけだ。
環境は関係ない。俺が何かを目指せないのを、親や双子のせいにしたく無かった。
(夢を追いかけて無いのは誰のせいでもねえ。俺に夢が無いだけだ)
しつこいマオとモヤモヤした気持ちとで、少しイラついてしまった俺は、反動でつい聞き返してしまった。
「……別に、俺は今のままで満足してる。お前こそどーなんだよ? なんだか魔界には帰りたくなさそうだし、弟の話になると黙っちまうし、お前は魔王を続けたいのか? もし魔王じゃなかったら、本当はどんな事がしたいって思ってるんだ?」
「私が魔王じゃなかったら……?」
マオは不意を突かれて驚いている。
「そーだよ。環境や立場に縛られてるってんなら、お前の方がそうなんじゃねぇのか? 執務室出入りする時はいつも死にそうな顔してるしよ。本当は魔王なんかやりたくねーんだろ?」
俺が意地悪く問い質すと、マオは俯向いてしまった。どうやら図星だったらしい。
俺は双子達を寝かしつけると、ハードケースに仕舞いっぱなしにしていたエレキギターを取り出してみた。
「やっぱ錆びてんなー」
ギターの弦はざりざりに鉄臭くなっている。確か替えの弦もあったはずだが。
真っ白いストラトキャスター。ギターを抱えていると、楽しかった高校時代を思い出す。仲間と集まって練習して、ふざけあって、ライブで暴れて。
「それがお前の楽器か?」
振り返ると、闇の中にマオが立っていた。
「……ああ」
「音色を聞かせてくれないか?」
「や、双子起こしちまうし、弦が錆びてっから弾けねーよ」
「そうか……友人達の誘いはどうするんだ?」
マオは俺の隣に腰を下ろした。
「……本番まで一ヶ月もねーし、ブランクもバイトもあるからやっぱ厳しいかな。無理して引き受けても逆に迷惑掛けちまう」
「働かなくて良ければ……今のような暮らしでなければ、続けたかったのではないか?」
今日のマオは、なんだか人の気持ちにずかずかと入り込んで来る。
「どーだろうな。ただの趣味だし、大学行ってても小遣い稼ぎたくて結局バイトしてたかもだし」
俺はギターをケースに戻すと蓋を閉めた。
「そりゃ親がいなくなったのはショックだけど、別に今の生活もそんなに悪いとは思ってないよ」
俺は笑って見せたが、マオは無表情のままだ。
「お前は本当にそれを望んでいるのか?」
「え……?」
「我々悪魔は人間の欲望を喰らう。それ故に人を堕落に誘い、より多くの欲望を貪るのだ。つまり我々は欲望の香りにはとても敏感だ。ラーメン屋で彼等と話していた時も、今それを抱えていたお前からも、欲望の香りが燻っている気がする……」
(欲望の香り……?)
音楽は好きだが、バンドを続ける事に夢や野望なんて大それた気持ちは持っていない。
高い金払って大学行ってまで、絶対バンドサークルに入りたかったなんて事もないし、音楽学校入ったりメン募してプロ目指したりしたい訳でも無い。
(今のような暮らしでなければ……)
マオの言葉が脳裏を過ぎる。
別に今も出来ないんじゃない。俺がしたいと思わないだけだ。
環境は関係ない。俺が何かを目指せないのを、親や双子のせいにしたく無かった。
(夢を追いかけて無いのは誰のせいでもねえ。俺に夢が無いだけだ)
しつこいマオとモヤモヤした気持ちとで、少しイラついてしまった俺は、反動でつい聞き返してしまった。
「……別に、俺は今のままで満足してる。お前こそどーなんだよ? なんだか魔界には帰りたくなさそうだし、弟の話になると黙っちまうし、お前は魔王を続けたいのか? もし魔王じゃなかったら、本当はどんな事がしたいって思ってるんだ?」
「私が魔王じゃなかったら……?」
マオは不意を突かれて驚いている。
「そーだよ。環境や立場に縛られてるってんなら、お前の方がそうなんじゃねぇのか? 執務室出入りする時はいつも死にそうな顔してるしよ。本当は魔王なんかやりたくねーんだろ?」
俺が意地悪く問い質すと、マオは俯向いてしまった。どうやら図星だったらしい。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される
茶柱まちこ
キャラ文芸
雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。
ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。
呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。
神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。
(旧題:『大神様のお気に入り』)
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
【あらすじ動画あり / 室町和風歴史ファンタジー】『花鬼花伝~世阿弥、花の都で鬼退治!?~』
郁嵐(いくらん)
キャラ文芸
お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
【ストーリーあらすじ】
■■室町、花の都で世阿弥が舞いで怪異を鎮める室町歴史和風ファンタジー■■
■■ブロマンス風、男男女の三人コンビ■■
室町時代、申楽――後の能楽――の役者の子として生まれた鬼夜叉(おにやしゃ)。
ある日、美しい鬼の少女との出会いをきっかけにして、
鬼夜叉は自分の舞いには荒ぶった魂を鎮める力があることを知る。
時は流れ、鬼夜叉たち一座は新熊野神社で申楽を演じる機会を得る。
一座とともに都に渡った鬼夜叉は、
そこで室町幕府三代将軍 足利義満(あしかが よしみつ)と出会う。
一座のため、申楽のため、義満についた怨霊を調査することになった鬼夜叉。
これは後に能楽の大成者と呼ばれた世阿弥と、彼の支援者である義満、
そして物語に書かれた美しい鬼「花鬼」たちの物語。
【その他、作品】
浅草を舞台にした和風歴史ファンタジー小説も書いていますので
興味がありましたらどうぞ~!(ブロマンス風、男男女の三人コンビ)
■あらすじ動画(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
■あらすじ動画(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる