上 下
50 / 92
第3章 魔王の参謀と花火大会

48

しおりを挟む
「なんだ? 煙?」

「おれも、まほつかえるんだ!」

 そらは嬉しそうに煙を出し続けた。

「ほう、人間の子どもでも魔法が身につくのか?」

 まさかとは思ったが、魔王様はすっかり騙されて感心している。

 うみもこっそりそらの背後に近づいて、後ろ手に隠している厚紙に指を擦り付けた。

「わたしもできるよー!」

 そしてマオの前に顔を出すと、うみもにこにこと煙を出し始めた。
 サマエルは後ろで苦笑している。

「おお……まだ幼いというのに凄いな。もう少し修行すれば、火くらい出せるようになるかもしれんぞ」

 ここまで素直な魔王様で、魔界を治められるのか逆に心配になってくる。

「はいはい、二人ともあんまりマオをからかわないの」

「からかう?」

 不思議そうな顔をしているマオに、俺はそらが選んだスーパーのお土産を突き出した。

「それより俺達、炎なら修行しなくても出せるんだぜ?」

 それは手持ち花火のセットだった。

「はなびー!」

「マオ、いっしょにやろーっ!」

「花火……とは、昨日の?」

「あんなでっかい奴じゃなくて、家庭用の小さい奴だけどな」

 俺は棚からライターと蝋燭を取り出しながら説明した。

「お、去年の残りもあったぞ……しけっちまってるかな? さあ、バケツ持って外行こうぜ!」

 マオはまだきょとんとしていたが、はしゃぐ双子にシャツを引っ張られて立ち上がった。

 家の前にバケツを置いて、蝋燭に火を付ける。幸い風は強くない。

「ほい、好きなの取りな」

 俺は花火セットを開けて双子に選ばせた。二人はひねったキャンディ包みのような花火を手に取る。

「ほれ、マオも」

「……ああ」

 マオはシンプルな棒状の花火を、サマエルは縞々模様の花火を選んだ。

 俺も一本取って早速火を点ける。リボンのような紙が燃えて、火薬の先端から赤色の炎が音を立てて勢い良く吹き出した。

「おお」

「ゆきにあかいろ!」

 マオは驚きの声を上げ、双子は手を叩いて喜んだ。

「ほれ、気を付けて点けてみ。人の居る方に向けるなよ」

 双子も順番に蝋燭に花火をかざす。すぐに先端から綺麗な色の花火が吹き出してきた。

「みて! おれ、あおいろ!」

「うみはみどりだよー!」

「マオもやりなよー!」

 そらに急かされて、マオもそっと蝋燭の火に自分の花火を差し出した。

 先端の火薬がじんわり燃え出すと、パチパチと火の粉が飛び出し始める。

「おお……」

「マオのはパチパチだねー!」

「パチパチー!」

 金色の炎が、大きなタンポポの綿毛のようにパチパチと丸く爆ぜている。
 マオは瞳に金色の粒を浮かばせながら、真剣に花火を眺めていた。

「私のは途中で色が変わりましたよ」

 サマエルも楽しそうに、双子に自分の花火を見せていた。

「こっちは点くかなー?」

 俺は棚で見つけた花火を袋から取り出した。

「うみの好きな奴だろ? ちょっと持っててみ?」

「うん!」

 それは長い棒の先端に紐をくくりつけて遊ぶ花火で、紐の先には小さい箱のような物がぶら下がっている。
 俺は導火線にライターで火を点けようとしたが、やはりしけってしるのか上手く点かない。

「やっぱダメかー」

 するとサマエルが近づいてきて、箱を両手で包み込んだ。
 少し目を閉じた後、そっと手を離してサマエルは俺に頷き掛ける。

(もう大丈夫……て事か?)

 俺はもう一度ライターの火をかざしてみた。

「点いた!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ワケあり異類婚御夫婦様、憩いの住まいはこちらでございます。

蒼真まこ
キャラ文芸
異類婚夫婦の入居を歓迎する『みなも荘』。姿かたちは違えども、そこには確かに愛がある─。  幼い頃に両親を亡くした秋山楓は、孤独感を抱えながら必死に生きてきた。幼い頃の記憶を頼りに懐かしい湖へ向かうと、銀色の髪をした不思議な男性と出会う。それは楓にとって生涯の伴侶となる男性だった。しかし彼はただの人ではなく……。 困難を乗り越えて夫婦となったふたりは、『ワケあり異類婚夫婦』の住む、みなも荘を管理していくことになる。 様々な異類婚夫婦たちが紡ぐ、ほっこり日常、夫婦愛、家族の物語。 第一章は物語の始まり。楓と信の出会いと再会。 シリアスな部分も含みます。 第二章より様々な異類婚夫婦たちが登場します。 場面によっては、シリアスで切ない展開も含みます。 よろしくお願い致します。 ☆旧題『いるいこん! ~あやかし長屋夫婦ものがたり~』 を改稿改題した作品となります。 放置したままとなっておりましたので、タイトルや表紙などを変更させていただきました。 話の流れなどが少し変わっていますが、設定などに大きな変更はありませんのでよろしくお願い致します。 ☆すてきな表紙絵はhake様に描いていただきました。

〜鎌倉あやかし奇譚〜 龍神様の許嫁にされてしまいました

五徳ゆう
キャラ文芸
「俺の嫁になれ。そうすれば、お前を災いから守ってやろう」 あやかしに追い詰められ、龍神である「レン」に契約を迫られて 絶体絶命のピンチに陥った高校生の藤村みなみ。 あやかしが見えてしまう体質のみなみの周りには 「訳アリ」のあやかしが集うことになってしまって……!? 江ノ島の老舗旅館「たつみ屋」を舞台に、 あやかしが見えてしまう女子高生と俺様系イケメン龍神との ちょっとほっこりするハートフルストーリー。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ブラックベリーの霊能学

猫宮乾
キャラ文芸
 新南津市には、古くから名門とされる霊能力者の一族がいる。それが、玲瓏院一族で、その次男である大学生の僕(紬)は、「さすがは名だたる天才だ。除霊も完璧」と言われている、というお話。※周囲には天才霊能力者と誤解されている大学生の日常。

腐れヤクザの育成論〜私が育てました〜

古亜
キャラ文芸
たまたま出会ったヤクザをモデルにBL漫画を描いたら、本人に読まれた。 「これ描いたの、お前か?」 呼び出された先でそう問いただされ、怒られるか、あるいは消される……そう思ったのに、事態は斜め上に転がっていった。 腐(オタ)文化に疎いヤクザの組長が、立派に腐っていく話。 内容は完全に思い付き。なんでも許せる方向け。 なお作者は雑食です。誤字脱字、その他誤りがあればこっそり教えていただけると嬉しいです。 全20話くらいの予定です。毎日(1-2日おき)を目標に投稿しますが、ストックが切れたらすみません…… 相変わらずヤクザさんものですが、シリアスなシリアルが最後にあるくらいなのでクスッとほっこり?いただければなと思います。 「ほっこり」枠でほっこり・じんわり大賞にエントリーしており、結果はたくさんの作品の中20位でした!応援ありがとうございました!

処理中です...