19 / 92
第2章 魔王様バイトをはじめる
17
しおりを挟む
「……はあ、福引きで温泉旅行に?」
翌朝、着替えて顔を洗ったところで、古本屋のご主人から電話があった。
「いやー、昨日言い忘れとっての。倉庫整理の続きは留守中に勝手に進めてくれて構わんのでな。店に入らんでも、脇から裏に抜けられるから好きに出入りしとくれ。明後日には帰るわ」
「……はい、分かりました」
「扉もいかれとるようだし、なにせ建屋が古いから気を付けてな。この暑い中、昨日みたいに閉じ込められたら敵わんじゃろ……いや~本の整理が終わったら、あのオンボロ物置も取り壊さねばならんのう……じゃあ、宜しくな!」
「ええ、そちらもお気をつけて」
随分突然だが、ご主人は今日から温泉旅行に出掛けるらしい。
露天風呂で温泉成分をしっかり染み込ませているしわしわのご主人を想像しかけたところで、俺は魔王に話し掛けられた。
「幸也……」
「ああ、おはよ。良く寝れた?」
「……ああ。何度か子どもらに乗り上げられたが……問題ない」
魔王は昨晩、俺の貸与したジャージを着て、俺と双子と川の字で眠ったのだった。
「お前の着替えはそこに置いてあるから、俺のサイズ大丈夫そうだし貸してやるよ。また、ペアルックされるのも困るしな……」
俺は椅子の上に置いたTシャツとズボンを示した。
「うむ」
「ゆきにい、マオ、おはよ!」
「おはよー!」
双子も布団から出て来たようだ。
「さて、こっからが忙しいぞ。俺は朝飯の支度をするから、マオはそいつらが着替えるの手伝ってやって!」
「うん?」
「あ、ちなみにこれは願い事じゃなくて指示だから。この家の家長は俺なんで、ここに住む間は家族として協力して貰うからな。アンタがいくら悪魔の王様だって敬語ももう使わないぜ?」
「ふ、そういうものか?」
これから一緒に暮らす中で、彼の不思議な力に屈せず、対等な立場になれるよう牽制したつもりだったが、魔王は特に抗う様子も無く笑っている。
「まーお、てつだって!」
「これだよー」
双子達は保育園のスモッグを持って、マオの足元にしがみついた。
「水色のローブか……何も感じないが、魔法効果は付与されているのか?」
「え、魔法?」
「ふん……何もないのか。よし、特別に物理防御魔法を付与しておいてやろう」
「ぶつりぼうぎょ?」
魔王はスモッグを二着手にすると、目を閉じて何事かぶつぶつと唱え始めた。
「マオどしたの? あれ?」
「およふく、ひかてる!」
光り輝きながら、一瞬ふわりと風に靡くように翻ったスモッグは、すぐにまた元通り魔王の腕に落ち着いた。
「何かのまじないか?」
驚きながら俺が尋ねると、彼は口の端を上げながら頷いた。
「まあ、そんなところだ。さあ子ども達、私の足から離れてくれ。着替えをしよう」
「きらきらおよふく!」
「そらもきるー!」
よく分からないが、保育園に行く時間も迫ってきている。悪いものでも無さそうだし、俺は双子を魔王に任せて朝食の準備を進める事にした。
「えーっと、昨日買ったパンと牛乳と……」
今日はマオのおかげで少し手が空いたので、目玉焼きも焼いてみた。
(ちょっと焦がしちゃったけど……)
毎日練習していけば、少しずつまともな朝食が出来るようになるかもしれない。
俺は早速、マオを住まわせた効果を感じて嬉しくなった。
翌朝、着替えて顔を洗ったところで、古本屋のご主人から電話があった。
「いやー、昨日言い忘れとっての。倉庫整理の続きは留守中に勝手に進めてくれて構わんのでな。店に入らんでも、脇から裏に抜けられるから好きに出入りしとくれ。明後日には帰るわ」
「……はい、分かりました」
「扉もいかれとるようだし、なにせ建屋が古いから気を付けてな。この暑い中、昨日みたいに閉じ込められたら敵わんじゃろ……いや~本の整理が終わったら、あのオンボロ物置も取り壊さねばならんのう……じゃあ、宜しくな!」
「ええ、そちらもお気をつけて」
随分突然だが、ご主人は今日から温泉旅行に出掛けるらしい。
露天風呂で温泉成分をしっかり染み込ませているしわしわのご主人を想像しかけたところで、俺は魔王に話し掛けられた。
「幸也……」
「ああ、おはよ。良く寝れた?」
「……ああ。何度か子どもらに乗り上げられたが……問題ない」
魔王は昨晩、俺の貸与したジャージを着て、俺と双子と川の字で眠ったのだった。
「お前の着替えはそこに置いてあるから、俺のサイズ大丈夫そうだし貸してやるよ。また、ペアルックされるのも困るしな……」
俺は椅子の上に置いたTシャツとズボンを示した。
「うむ」
「ゆきにい、マオ、おはよ!」
「おはよー!」
双子も布団から出て来たようだ。
「さて、こっからが忙しいぞ。俺は朝飯の支度をするから、マオはそいつらが着替えるの手伝ってやって!」
「うん?」
「あ、ちなみにこれは願い事じゃなくて指示だから。この家の家長は俺なんで、ここに住む間は家族として協力して貰うからな。アンタがいくら悪魔の王様だって敬語ももう使わないぜ?」
「ふ、そういうものか?」
これから一緒に暮らす中で、彼の不思議な力に屈せず、対等な立場になれるよう牽制したつもりだったが、魔王は特に抗う様子も無く笑っている。
「まーお、てつだって!」
「これだよー」
双子達は保育園のスモッグを持って、マオの足元にしがみついた。
「水色のローブか……何も感じないが、魔法効果は付与されているのか?」
「え、魔法?」
「ふん……何もないのか。よし、特別に物理防御魔法を付与しておいてやろう」
「ぶつりぼうぎょ?」
魔王はスモッグを二着手にすると、目を閉じて何事かぶつぶつと唱え始めた。
「マオどしたの? あれ?」
「およふく、ひかてる!」
光り輝きながら、一瞬ふわりと風に靡くように翻ったスモッグは、すぐにまた元通り魔王の腕に落ち着いた。
「何かのまじないか?」
驚きながら俺が尋ねると、彼は口の端を上げながら頷いた。
「まあ、そんなところだ。さあ子ども達、私の足から離れてくれ。着替えをしよう」
「きらきらおよふく!」
「そらもきるー!」
よく分からないが、保育園に行く時間も迫ってきている。悪いものでも無さそうだし、俺は双子を魔王に任せて朝食の準備を進める事にした。
「えーっと、昨日買ったパンと牛乳と……」
今日はマオのおかげで少し手が空いたので、目玉焼きも焼いてみた。
(ちょっと焦がしちゃったけど……)
毎日練習していけば、少しずつまともな朝食が出来るようになるかもしれない。
俺は早速、マオを住まわせた効果を感じて嬉しくなった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語
六倍酢
ファンタジー
ある朝、ギルドが崩壊していた。
ギルド戦での敗北から3日、アドラーの所属するギルドは崩壊した。
ごたごたの中で団長に就任したアドラーは、ギルドの再建を団の守り神から頼まれる。
団長になったアドラーは自分の力に気付く。
彼のスキルの本質は『指揮下の者だけ能力を倍増させる』ものだった。
守り神の猫娘、居場所のない混血エルフ、引きこもりの魔女、生まれたての竜姫、加勢するかつての仲間。
変わり者ばかりが集まるギルドは、何時しか大陸最強の戦闘集団になる。
ただあなたを守りたかった
冬馬亮
恋愛
ビウンデルム王国の第三王子ベネディクトは、十二歳の時の初めてのお茶会で出会った令嬢のことがずっと忘れられずにいる。
ひと目見て惹かれた。だがその令嬢は、それから間もなく、体調を崩したとかで領地に戻ってしまった。以来、王都には来ていない。
ベネディクトは、出来ることならその令嬢を婚約者にしたいと思う。
両親や兄たちは、ベネディクトは第三王子だから好きな相手を選んでいいと言ってくれた。
その令嬢にとって王族の責務が重圧になるなら、臣籍降下をすればいい。
与える爵位も公爵位から伯爵位までなら選んでいいと。
令嬢は、ライツェンバーグ侯爵家の長女、ティターリエ。
ベネディクトは心を決め、父である国王を通してライツェンバーグ侯爵家に婚約の打診をする。
だが、程なくして衝撃の知らせが王城に届く。
領地にいたティターリエが拐われたというのだ。
どうしてだ。なぜティターリエ嬢が。
婚約はまだ成立しておらず、打診をしただけの状態。
表立って動ける立場にない状況で、ベネディクトは周囲の協力者らの手を借り、密かに調査を進める。
ただティターリエの身を案じて。
そうして明らかになっていく真実とはーーー
※タグを変更しました。
ビターエンド→たぶんハッピーエンド
俺様当主との成り行き婚~二児の継母になりまして
澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
夜、妹のパシリでコンビニでアイスを買った帰り。
花梨は、妖魔討伐中の勇悟と出会う。
そしてその二時間後、彼と結婚をしていた。
勇悟は日光地区の氏人の当主で、一目おかれる存在だ。
さらに彼には、小学一年の娘と二歳の息子がおり、花梨は必然的に二人の母親になる。
昨日までは、両親や妹から虐げられていた花梨だが、一晩にして生活ががらりと変わった。
なぜ勇悟は花梨に結婚を申し込んだのか。
これは、家族から虐げられていた花梨が、火の神当主の勇悟と出会い、子どもたちに囲まれて幸せに暮らす物語。
※3万字程度の短編です。需要があれば長編化します。
公爵令息と悪女と呼ばれた婚約者との、秘密の1週間
みん
恋愛
「どうやら、俺の婚約者は“悪女”なんだそうだ」
その一言から始まった秘密の1週間。
「ネイサン、暫くの間、私の視界に入らないで」
「え?」
「ネイサン……お前はもっと、他人に関心を持つべきだ」
「え?えーっ!?」
幼馴染みでもある王太子妃には睨まれ、幼馴染みである王太子からは───。
ある公爵令息の、やり直し(?)物語。
❋独自設定あり
❋相変わらずの、ゆるふわ設定です
❋他視点の話もあります
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
武田義信に転生したので、父親の武田信玄に殺されないように、努力してみた。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
アルファポリス第2回歴史時代小説大賞・読者賞受賞作
原因不明だが、武田義信に生まれ変わってしまった。血も涙もない父親、武田信玄に殺されるなんて真平御免、深く静かに天下統一を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる