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第1章 東京浅草、魔王降臨す

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 ただでさえ厳しい家庭環境なのに、異世界の魔王を住まわせる余裕なんてある訳がない。

 そこでふと俺は、先程目の当たりにした魔王の力を思い出した。

(……いや、もしかするとこの状況……使いようによっては美味しいかも知れないぞ?)

 俺はそう思い直すと、膝を叩いて立ち上がった。

「よし、分かった。じゃあ俺の願いが決まる間、アンタがここで暮らす事を許可します……だが、条件がある」

「ほう……条件?」

 魔王は興味深そうに片眉を上げた。

「アンタらの契約と同じさ、つまりアンタがうちで暮らしたいなら、相応の対価が必要って訳」

「ふむ、どんな願いを叶えれば良いのだ?」

「願いっていうか……人間界で生きていくために自分で働いて、お金を稼いでください。もちろん、人間の姿でですよ?」

「人間界で……働く? 私が?」

 魔王は切れ長の瞳をまんまるにした。双子は俺達のやり取りを不思議そうに眺めている。

「うちはただでさえ生活苦しいんだから、毎月ちゃんと家賃入れて貰うって事です!」

「やちん?」

「ここに住む対価、お金の事です!」

 俺が言い切ると、魔王はしばらく不思議そうな顔をしていたが、やがてふと笑みをこぼした。

「ふふ、私が人間の姿で人間界で働き、お前達と一緒に暮らすのか……面白そうだ。良いだろう。その契約、交渉成立だ」

「マオ、うちにすむの?」

「えー、すごーい!」

 双子は両手を上げて喜んだ。子どもに好かれる魔王というのも珍しいのではないだろうか。知らんけど。

(家に入るお金が少しでも増えれば、その分貯金に回せるしな……)

 こうして俺達家族は、この浅草の下町で異世界の魔王と一つ屋根の下に暮らす契約を結んだのだった。
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