14 / 92
第1章 東京浅草、魔王降臨す
12
しおりを挟む
願いが三つまでなら、もう少し良く考えたい。
しかし、こんなに虫の良い話がそうあるだろうか。上手い話には大体裏があるものだ。
「あの、本当に願いを叶えてくれるだけなんですか? 例えば、こちらも何か差し出す必要とかあるんじゃないですか?」
俺が尋ねると、魔王は口の端を上げてニヤリと笑った。
「良い事に気が付いたな。そうだ、願いを叶えるには当然対価が必要だ。これは取引だからな?」
やはりそうか。ホラー映画レベルの知識だが、悪魔との契約なんて後々ロクでもない事になる場合が多い。願いが叶っても、魂やら心臓やら持っていかれたのでは敵わない。
「人間達は皆、我々の力を頼って性急に身に余る幸福を望む。故に身を滅ぼす程の対価を要求され、自ら破滅する事になるのだ」
「……じゃあ何も叶えていただかなくて結構です……鞄と瞬間移動の件は何でお返しすれば良いんです?」
「ふん、あの程度の事、造作も無いからな……」
魔王は首を捻りながら考える。本当にこういう事態に慣れていないらしい。
「ゆきに、おなかすいた」
俺はすっかり魔王に気を取られていたが、うみが後ろからズボンの裾を引っ張った。双子は怪しげな客人を不審そうな目で見上げている。
確かにこんな頭から角を生やした黒マントの人物が突然家に現れて、泣き出さない方が珍しいかも知れない。
「ああ、ごめんな二人共……分かった。じゃあ夕飯を奢りますから、さっきの分はそれで勘弁してください!」
俺は魔王に向かってそう言うと、今度こそ財布だけを鞄から取り出した。
ちょっと高くつくがコンビニはすぐ近くにあるので、双子も一緒に連れて行って夕飯を選ばせてやろう。
魔王も俺の提案に首を縦に振った。
「ふん、いいだろう。また何処かへ出掛けるのか?」
「今家に食い物が無いんで、ちょっと買って来るから待っててください。その格好でついてこられても怪しすぎるんで」
「……そうか?」
俺が指摘すると、魔王は自分の黒いマントや長い紫色の爪などを、俺と見比べるように凝視した。
多分頭の上のやつが一番怪しいポイントなのだが。
「では……」
そう呟いて魔王が目を閉じると、突然彼の身体が眩しく光り出した。
「なになにー?」
「まぶしいー!」
驚いた双子が身を寄せてくる。俺は再び二人を抱き抱えた。
(なんなんだ一体……!?)
思わず閉じてしまった目をゆっくりと開けると、目の前には黒Tシャツにチノパン姿の男が腕を組んで立っていた。
「ま、魔王……なのか?」
角も、顔の紋様も消えて、魔王は俺と同い年くらいに見える人間の姿をしていた。
しかも腹立たしい事に顔が良い。
「へんしんした!」
「へんしーん!」
「どうだ? 上手く擬態出来ているだろう?」
魔王は得意げに胸を反らした。
戦隊ものや魔法少女アニメを普段からテレビで見ている双子は、一気に興奮してはしゃぎだす。
「にいちゃ、マオって誰?」
「え?」
自称異世界の魔王という事だったが、改めて聞かれると俺も何と答えて良いのか分からない。
「私は魔王だ。宜しくな子ども達」
「マオは……マオだって!」
「マオ?」
双子は彼がそう言う名前なのだと思っているようだ。
「……まあとにかく、その格好なら多分大丈夫でしょう。じゃあ皆んなでコンビニ行きますよ!」
しかし、こんなに虫の良い話がそうあるだろうか。上手い話には大体裏があるものだ。
「あの、本当に願いを叶えてくれるだけなんですか? 例えば、こちらも何か差し出す必要とかあるんじゃないですか?」
俺が尋ねると、魔王は口の端を上げてニヤリと笑った。
「良い事に気が付いたな。そうだ、願いを叶えるには当然対価が必要だ。これは取引だからな?」
やはりそうか。ホラー映画レベルの知識だが、悪魔との契約なんて後々ロクでもない事になる場合が多い。願いが叶っても、魂やら心臓やら持っていかれたのでは敵わない。
「人間達は皆、我々の力を頼って性急に身に余る幸福を望む。故に身を滅ぼす程の対価を要求され、自ら破滅する事になるのだ」
「……じゃあ何も叶えていただかなくて結構です……鞄と瞬間移動の件は何でお返しすれば良いんです?」
「ふん、あの程度の事、造作も無いからな……」
魔王は首を捻りながら考える。本当にこういう事態に慣れていないらしい。
「ゆきに、おなかすいた」
俺はすっかり魔王に気を取られていたが、うみが後ろからズボンの裾を引っ張った。双子は怪しげな客人を不審そうな目で見上げている。
確かにこんな頭から角を生やした黒マントの人物が突然家に現れて、泣き出さない方が珍しいかも知れない。
「ああ、ごめんな二人共……分かった。じゃあ夕飯を奢りますから、さっきの分はそれで勘弁してください!」
俺は魔王に向かってそう言うと、今度こそ財布だけを鞄から取り出した。
ちょっと高くつくがコンビニはすぐ近くにあるので、双子も一緒に連れて行って夕飯を選ばせてやろう。
魔王も俺の提案に首を縦に振った。
「ふん、いいだろう。また何処かへ出掛けるのか?」
「今家に食い物が無いんで、ちょっと買って来るから待っててください。その格好でついてこられても怪しすぎるんで」
「……そうか?」
俺が指摘すると、魔王は自分の黒いマントや長い紫色の爪などを、俺と見比べるように凝視した。
多分頭の上のやつが一番怪しいポイントなのだが。
「では……」
そう呟いて魔王が目を閉じると、突然彼の身体が眩しく光り出した。
「なになにー?」
「まぶしいー!」
驚いた双子が身を寄せてくる。俺は再び二人を抱き抱えた。
(なんなんだ一体……!?)
思わず閉じてしまった目をゆっくりと開けると、目の前には黒Tシャツにチノパン姿の男が腕を組んで立っていた。
「ま、魔王……なのか?」
角も、顔の紋様も消えて、魔王は俺と同い年くらいに見える人間の姿をしていた。
しかも腹立たしい事に顔が良い。
「へんしんした!」
「へんしーん!」
「どうだ? 上手く擬態出来ているだろう?」
魔王は得意げに胸を反らした。
戦隊ものや魔法少女アニメを普段からテレビで見ている双子は、一気に興奮してはしゃぎだす。
「にいちゃ、マオって誰?」
「え?」
自称異世界の魔王という事だったが、改めて聞かれると俺も何と答えて良いのか分からない。
「私は魔王だ。宜しくな子ども達」
「マオは……マオだって!」
「マオ?」
双子は彼がそう言う名前なのだと思っているようだ。
「……まあとにかく、その格好なら多分大丈夫でしょう。じゃあ皆んなでコンビニ行きますよ!」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
おっ☆パラ
うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!?
新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる