東京浅草、居候は魔王様!

栗槙ひので

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第1章 東京浅草、魔王降臨す

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 願いが三つまでなら、もう少し良く考えたい。

 しかし、こんなに虫の良い話がそうあるだろうか。上手い話には大体裏があるものだ。

「あの、本当に願いを叶えてくれるだけなんですか? 例えば、こちらも何か差し出す必要とかあるんじゃないですか?」

 俺が尋ねると、魔王は口の端を上げてニヤリと笑った。

「良い事に気が付いたな。そうだ、願いを叶えるには当然対価が必要だ。これは取引だからな?」

 やはりそうか。ホラー映画レベルの知識だが、悪魔との契約なんて後々ロクでもない事になる場合が多い。願いが叶っても、魂やら心臓やら持っていかれたのでは敵わない。

「人間達は皆、我々の力を頼って性急に身に余る幸福を望む。故に身を滅ぼす程の対価を要求され、自ら破滅する事になるのだ」

「……じゃあ何も叶えていただかなくて結構です……鞄と瞬間移動の件は何でお返しすれば良いんです?」

「ふん、あの程度の事、造作も無いからな……」

 魔王は首を捻りながら考える。本当にこういう事態に慣れていないらしい。

「ゆきに、おなかすいた」

 俺はすっかり魔王に気を取られていたが、うみが後ろからズボンの裾を引っ張った。双子は怪しげな客人を不審そうな目で見上げている。

 確かにこんな頭から角を生やした黒マントの人物が突然家に現れて、泣き出さない方が珍しいかも知れない。

「ああ、ごめんな二人共……分かった。じゃあ夕飯を奢りますから、さっきの分はそれで勘弁してください!」

 俺は魔王に向かってそう言うと、今度こそ財布だけを鞄から取り出した。

 ちょっと高くつくがコンビニはすぐ近くにあるので、双子も一緒に連れて行って夕飯を選ばせてやろう。
 魔王も俺の提案に首を縦に振った。

「ふん、いいだろう。また何処かへ出掛けるのか?」

「今家に食い物が無いんで、ちょっと買って来るから待っててください。その格好でついてこられても怪しすぎるんで」

「……そうか?」

 俺が指摘すると、魔王は自分の黒いマントや長い紫色の爪などを、俺と見比べるように凝視した。
 多分頭の上のやつが一番怪しいポイントなのだが。

「では……」

 そう呟いて魔王が目を閉じると、突然彼の身体が眩しく光り出した。

「なになにー?」

「まぶしいー!」

 驚いた双子が身を寄せてくる。俺は再び二人を抱き抱えた。

(なんなんだ一体……!?)

 思わず閉じてしまった目をゆっくりと開けると、目の前には黒Tシャツにチノパン姿の男が腕を組んで立っていた。



「ま、魔王……なのか?」

 角も、顔の紋様も消えて、魔王は俺と同い年くらいに見える人間の姿をしていた。

 しかも腹立たしい事に顔が良い。

「へんしんした!」

「へんしーん!」

「どうだ? 上手く擬態出来ているだろう?」

 魔王は得意げに胸を反らした。
 戦隊ものや魔法少女アニメを普段からテレビで見ている双子は、一気に興奮してはしゃぎだす。

「にいちゃ、マオって誰?」

「え?」

 自称異世界の魔王という事だったが、改めて聞かれると俺も何と答えて良いのか分からない。

「私は魔王だ。宜しくな子ども達」

「マオは……マオだって!」

「マオ?」

 双子は彼がそう言う名前なのだと思っているようだ。

「……まあとにかく、その格好なら多分大丈夫でしょう。じゃあ皆んなでコンビニ行きますよ!」
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