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終章 さよならは春の日に

18.記憶を繋いで

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 古ぼけた我が家を見上げる。いつもと何も変わらない春の庭に、いつもの気の抜けた声が響いた。

『美味そうなもの貰った様じゃの』

『……気付いてたなら、挨拶すればよかったのに』

 新芽を輝かせた庭木の間から、白くふわふわした頭が覗いた。

『夏也とシュンは?』

 俺は貰ったサクラマスを、神様に手渡しながら尋ねた。

『一緒に台所でお花見弁当の準備をしとるよ。随分気合いが入っとるようでな、今から食べるのが楽しみじゃわい』

 本当に、何も変わらなすぎて俺は少し笑ってしまう。

『もう行くのか?』

『ああ、勝手に行っちまったアイツを探しに行かなくちゃな。夏也の事は頼んだぜ』

『何、もう心配要らんよ。記憶は戻らんかもしれんが、お前さんのおかげで夏也の……いやシュンや美帆、わしも含めて、皆の日常を取り戻す事が出来たんじゃ』

 日常。単調で退屈極まりないと思っていた毎日の、変わらないという事が今では愛おしいとすら思えた。

 俺はずっと、自分は孤独で、それが好きなんだと思って生きてきた。少し見渡せば、夏也や西原が手の届く所に居てくれたのに。

 静かだったこの家に転がり込まれ、飯だ飯だと毎日騒がれて、とんだ厄介者を引き受けちまったと思った事もあった。でも、

『……アンタに出会えて良かった』

 俺は詰まりそうになる声を、なんとか絞り出した。

『から揚げ弁当に感謝するんじゃな』

 神様はニヤニヤと笑った。

 死んでからの方が、仲間の存在を強く感じられたのは皮肉な事だ。
 だけど、俺は大切なものをちゃんと遺してくる事が出来た。だから、それだけでいいと思えた。

『今日の弁当は、お前さんのレシピじゃよ』

 永遠なんて無いのかもしれないけど、一度生まれた繋がりは絶えず、様々な形で誰かと誰かを結び続けている。

『皆で一緒に食べるには最高じゃろう』

 そしてまた誰かの新しい思い出と繋がって、どこまでも続いていく。

『じゃあな』

 俺は神様に背を向けた。忘れられる為じゃなくて、忘れたくない人に会いにいく為に。

 いつかまた戻って来たい場所がある。俺は沢山の温かいものを抱えて、新たな一歩を踏み出した。

 山里の春の日差しは柔らかく、風は優しく俺を包んで、ゆっくりと光の中へ溶かしていった。

            完

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感想 1

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みんなの感想(1件)

柚木ゆず
2020.01.07 柚木ゆず

すみません。心配かつ不安になったため、確認をさせていただきます。

以前感想をお送りした者なのですが、もしかして何かお気に障ることを書いてしまったのでしょうか……?
もしもそうでしたら、すみません。
そして何かしらのトラブルで届いていないのでしたら、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

栗槙ひので
2020.01.07 栗槙ひので

なんと!感想いただいていたのですか!!
通知のようなものは見当たらなかったので
恐らく届いていなかったのだと思いますが…
アルファポリスさん使いはじめたばかりで、私の誤操作等でしたら大変申し訳ございません!

そんなありがたいものいただけたら
泣いて喜びますー!!

解除

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