護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので

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終章 さよならは春の日に

17.幸せのかたち

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『では、わしらはこの辺で失礼させていただきます』

『クププー!』

 二人は俺に一礼すると、そのまま元来た坂道を下っていく。

 俺がそのまま呆然としていると、サブローが突然くるりと振り返って手を上げた。

『……ア……リガ、ト!』

 そう言って、ぴょんと跳ねながらもう一度手を振ると、彼は元気良く駆け出して行った。

 後、何十年かしたら、彼もエンロウのように流暢に話せるようになるのだろうか。

 俺は先程のエンロウの話を、一人心の中で反芻する。

 これから先、きっと夏也の方が先にこの世を去る時がくる。その時、神様やシュンは何を思うのだろう。
 アセビは俺の記憶を奪った。もう会えない者の事など、忘れてしまった方が幸せだとでも言うかのように。

 長く生きる者程、その苦しみは良く知っているのだろう。

(去って行く者は、残していく者を苦しませないよう、自分の存在を忘れて貰うべきなのか? 遺された側は、逝ってしまった者を忘れた方が幸せになれるのか?)

 その時、神様もシュンも同じように考えるだろうか。夏也を忘れてしまいたいだなんて思うのだろうか。

 俺がアセビを覚えていたら、会えない寂しさに苦しんだろうか。



(……違う、俺が忘れたくないんだ)

 だから俺は今も、それを追いかけようとしている。

 既に死んだ身で思い出に追いすがるなんて、まるで未練たらしい悪霊のようだが。

 俺は今、ちょうど真ん中に立っているのだ。もう生きてもいないし、己が完全に消滅した訳でもない。

(俺自身は、やっぱり皆に覚えていて欲しいのかな……?)

 誰かの記憶に留まり続けたいという願いは、傲慢なものだろうか。

(……いや、神様や妖怪だって人間に忘れられたら力を失ってしまうんだ。人間だって同じだろう)

 繋がりは力にも、足枷にもなる。

(いつか自分の存在を完全に忘れられてしまったら……それは仕方のない事だが……俺はやっぱり、少し寂しいと思うのだろうな)
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