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第6章 言葉たちを沈めて

5.シュンの思い

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『んーやっぱ、カッコいいからだよ。制服とか、あといつか白バイ乗りてーし!』

『……ぷ、あははは!』

 すると、隣でシュンが急に腹を抱えて笑い転げた。

『なんだよー! 笑うなっつの!』

 俺は隣で転げ回るシュンを取り押さえた。シュンは涙目になりながら言う。

『だって天太ってもういい大人でしょ? 子どもみたいな事言うんだもん』

『む……いいだろー別に。俺はね、ずっと正義のヒーローになるのが夢だったの!』

 俺はシュンをじっと見つめて、結構真剣に言った。
 年の離れた弟みたいなコイツの前では、何だか素直になれる気がした。小学生かって、また笑われそうだが。

『あのさ、天太……』

 シュンの大きな猫目が、俺をじっと見つめている。

『初めて会った時さ、俺の事、助けてくれて……ありがと』

 俺は面食らって、思わず身を起こした。シュンもゆっくり起き上がって座り直す。

『あの時、アイツに魂奪われてたら、俺ここで暮らしてなかった。夏也にも会えなかった……俺さ、また一緒に暮らしたいって思える人が出来たんだ……だから、』

 シュンは俯向いていた顔を上げて、真っ直ぐに俺を見た。

『月神の術が上手くいってもいかなくても、守り続けるよ。俺、守りたい家があるんだ』

 大切なものが出来たら、誰だってそれを守りたくなる。妖怪も人間も神様も関係ねえ。

『ああ、俺もそーする!』

 俺がシュンの肩を叩くと、シュンは嬉しそうに笑った。

(……友和だってそうだったはずだ)

 アイツが遺跡に向かったのも、月神に会ってまで黒い怪物に執着したのも、何かそういう大切なものを守りたい気持ちが後押ししていたんじゃないかと俺は思う。

 過去に蛮神を目覚めさせるきっかけを作ってしまったのかもしれないが、奴に襲われた俺を助けてくれたのは友和だった。

(まったく、早く元気出せよな……)

 俺は心の中で呟いた。

 それから週末にまた、俺は護堂家の近くを通った。今日は当直の日だったので、自転車で巡回中にちょっと寄ってみたのだ。

(今日は肉体ごと来てるから、家の中には入れないけど……)

 そんな事を考えつつ、そっと近づくと玄関先にシュンが立っていた。他に人の姿は無かったので、ちょっと声を掛けてみる。

『シュン、お前家の外に出て大丈夫なのか?』

『あ、天太! 今日さ、俺お花見に行くんだ。夏也と神様と一緒に! 近所だから試しに外に出てみようって!』

 余程嬉しいのか、シュンが弾んだ声で答えた。

『そうか、良かったな。確かに家に戻って来さえすれば大丈夫かもしれねーし、黒い霧も出なくなったから試してみるのもいいかもな』

 すると、向こうで扉が開く音がしたので、俺は慌ててその場を離れる。シュンと話せる人間というだけで、夏也に怪しまれるには十分過ぎた。

『じゃーな、楽しんで来いよ!』

 春の柔らかな日差しの中を、俺は自転車で下っていく。

 人間と妖怪と神様でも、仲良く暮らせば家族になれる。アイツらは俺にそう思わせてくれた。
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