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第6章 言葉たちを沈めて
1.西原の思い
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友和の奴は宴会の日以来、すっかり塞ぎ込んじまっていた。
宴は最高に盛り上がって、俺達の企画は大成功だったってのに、ニコリともしやがらねえ。
(事情は聞いたが、遺跡の奥に蛮神とやらが封印されてるなんざ、誰にも分かる訳ねぇし、仕方ねえじゃねぇか……)
だけど確かに、自分の行動が引き金となって沢山の犠牲が出たと分かったら、思い悩むのも無理はねえ。
俺は食堂の仕込みを終えて、閻魔庁の奥にある転送の間に向かった。新しいレシピを考える為に、今日は家に戻ろうと考えていた。
黒い霧に脅かされる事も無くなって、俺達は霊界食堂の仕事に専念していた。
豊月もたまに新メニューの確認にやって来ていた。変装した宇迦様も一緒だ。宴の効果で霊界食堂の存在は神々にも知れ渡り、時折出前の依頼が来る事もあった。
そんなこんなで、調査の仕事が無くなっても食堂の方が忙しく、年が明けてからは時間が経つのもあっという間だった。気がつけば、春がもうそこまで来ている。
廊下を歩いていると、脇道から出てきた友和が、俺の目の前を横切った。こっちには気付きもしねえみたいだ。
『友和!』
声を掛けると、奴はやっぱりどんよりとした暗い顔でこちらを見上げた。
『俺、これからまた料理のネタを探しに実家に行って来るわ! 食堂の方は今日の仕事を獄卒達に引き継いであるから大丈夫だ。お前も一緒に行かねえか? あれから全然帰ってないだろ?』
俺は努めて明るく話したが、奴は首を横に振った。
『俺はいい。今日明日の分は俺の方で回すから、ゆっくりしてこいよ』
そう言うと片手を上げて、広間の方へ歩いて行ってしまった。
(シュンや天太だって心配してるってのに、顔見せてやれよな……。それにサザナミ様にだって……)
そこまで考えて、俺は咄嗟に声を上げた。
『なあ、それじゃサザナミ様の所に行かねえか? アセビ様の事、何か思い出すかもしれねえじゃねえか?』
そう言うと友和はその場に立ち止まった。そして少し間を置いて振り返ると、しかめ面のままゆっくりと頷く。
『よし、決まりだ!』
俺達は転送の間に向かうと、蓮雫に頼んで弁財天に照準を合わせて貰った。
まだ肌寒い三月の境内、俺達は子供の頃遊んだ広場に立っていた。時刻はまだ昼前だったので、日光に当たらないように日陰に隠れている。
『正直言って、俺はそんな女の子の記憶無いんだよなあ……』
『ああ、お前達に話しても全然話が通じなかったのは覚えてる。俺しか見えてないんだと分かって、頭がおかしくなったと思われるのも嫌だから、話すのを辞めてしまったんだ……』
友和は木の根元に腰掛けると、自分の足先を見つめながら呟いた。
宴は最高に盛り上がって、俺達の企画は大成功だったってのに、ニコリともしやがらねえ。
(事情は聞いたが、遺跡の奥に蛮神とやらが封印されてるなんざ、誰にも分かる訳ねぇし、仕方ねえじゃねぇか……)
だけど確かに、自分の行動が引き金となって沢山の犠牲が出たと分かったら、思い悩むのも無理はねえ。
俺は食堂の仕込みを終えて、閻魔庁の奥にある転送の間に向かった。新しいレシピを考える為に、今日は家に戻ろうと考えていた。
黒い霧に脅かされる事も無くなって、俺達は霊界食堂の仕事に専念していた。
豊月もたまに新メニューの確認にやって来ていた。変装した宇迦様も一緒だ。宴の効果で霊界食堂の存在は神々にも知れ渡り、時折出前の依頼が来る事もあった。
そんなこんなで、調査の仕事が無くなっても食堂の方が忙しく、年が明けてからは時間が経つのもあっという間だった。気がつけば、春がもうそこまで来ている。
廊下を歩いていると、脇道から出てきた友和が、俺の目の前を横切った。こっちには気付きもしねえみたいだ。
『友和!』
声を掛けると、奴はやっぱりどんよりとした暗い顔でこちらを見上げた。
『俺、これからまた料理のネタを探しに実家に行って来るわ! 食堂の方は今日の仕事を獄卒達に引き継いであるから大丈夫だ。お前も一緒に行かねえか? あれから全然帰ってないだろ?』
俺は努めて明るく話したが、奴は首を横に振った。
『俺はいい。今日明日の分は俺の方で回すから、ゆっくりしてこいよ』
そう言うと片手を上げて、広間の方へ歩いて行ってしまった。
(シュンや天太だって心配してるってのに、顔見せてやれよな……。それにサザナミ様にだって……)
そこまで考えて、俺は咄嗟に声を上げた。
『なあ、それじゃサザナミ様の所に行かねえか? アセビ様の事、何か思い出すかもしれねえじゃねえか?』
そう言うと友和はその場に立ち止まった。そして少し間を置いて振り返ると、しかめ面のままゆっくりと頷く。
『よし、決まりだ!』
俺達は転送の間に向かうと、蓮雫に頼んで弁財天に照準を合わせて貰った。
まだ肌寒い三月の境内、俺達は子供の頃遊んだ広場に立っていた。時刻はまだ昼前だったので、日光に当たらないように日陰に隠れている。
『正直言って、俺はそんな女の子の記憶無いんだよなあ……』
『ああ、お前達に話しても全然話が通じなかったのは覚えてる。俺しか見えてないんだと分かって、頭がおかしくなったと思われるのも嫌だから、話すのを辞めてしまったんだ……』
友和は木の根元に腰掛けると、自分の足先を見つめながら呟いた。
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