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第5章 神々の宴
21.対面
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落ち着いた雰囲気でありながら、溢れる気品と優美さを感じる。一瞥しただけで、これまで見てきた神々とは、明らかに別格の存在であると思い知らされた。
『……アンタが、月神……』
『護堂友和……葉月が言っていた、霊界側で蛮神の調査に当たっていたという人間霊だね』
葉月とは、確か一ノ瀬の名前だ。やはり奴は月神の手先だったのだ。
月神は首を傾げて、長い銀髪を頬に溢しながら、柔らかく微笑んだ。
『話が聞きたいんだろう? どうぞ、入って』
月神がそう言うと、背後の襖が音もなくひとりでに開いた。部屋の中から白檀のような香りが一層濃く流れ出す。
俺は警戒しながらも、部屋の中に足を踏み入れた。室内はシンプルな和室で、壁に沿って周囲に白い垂れ幕が張り巡らされていた。
『さて、何から話そうか?』
彼は横から俺を追い抜いて、部屋の奥にあった椅子に腰掛けた。
『バンシンというのは、あの黒い怪物の事か? あれは一体何なんだ?』
俺は部屋の奥まで進むと、立ったまま尋ねた。月神は穏やかに説明する。
『歴史に名を残す事なく、太古の昔に追放された神さ。遺跡の奥で眠らせていたんだけど、起きちゃったみたいでね……』
月神は困った様に笑う。
『その蛮神はアンタが封じていたのか? 今回はどうして直ぐに眠らせないんだ?』
『そうか、君もアレの犠牲者だったね。遅くなってしまったのは申し訳ない。蛮神の復活は僕達の予定には無かった。奴の影響で命を落とす人間など、居る予定じゃ無かったんだけど……』
『だから俺達の名前は、死神のリストに無かった?』
『直ぐに奴を封じられない理由は二つある。アレが魂を食い、以前より力を増している事と、封じ込めの術を編むのには時間がかかるという事だ。アレが前回目覚めたのは、三十年程前の事……その時は地元の神が立ち向かってくれたのだけどね』
『サザナミの前任の事か?』
俺が尋ねると、月神は少し眉を上げて感心したように言った。
『そこまで知っているのか……彼女はアセビと言う名の女神だった。氏子を深く思い遣る、明るく真面目な子だったよ』
その名を聞いて、突然俺の頭の中に弁天様の境内が浮かんだ。近くでは西原が友人とキャッチボールをしている。俺は少し離れた木の根元で本を読んでいた。
西原の見た目からすると、俺達がまだ中学生くらいだった頃。
『三十年前……そのアセビはどうなったんだ?』
『……彼女は術に失敗し、奴に飲み込まれた』
冷たい水を思い切り被ったような衝撃が襲った。
(貴方はお友達と遊ばないの?)
頭の中に、あの声が響いてくる。
木の後ろから、黒い髪を先の方で結び、人懐こい目をした十七、八歳位の少女が顔を覗かせていた。
『……興味がない』
俺はぶっきらぼうに答えた。少女はクスクス笑うと、俺の隣に座って本を覗き込んでくる。
木陰から出てきた少女は着物姿だった。祭りの季節でもないのに、変わっているなとは思ったが、俺は気にしなかった。
『何を読んでいるの?』
『……何でもいいだろ』
突き放すように返答したが、彼女は気を悪くした様子もなく、にこにこと楽しそうに笑った。
『友和君は本が好きだもんね』
『……何で俺の名前を知っているんだ?』
『知っているわよ。この辺りに住む人の子達の事は、みんな……』
彼女は何かを愛おしむように、優しい目をして呟いた。
その後も俺は、神社で読書をする度に彼女と言葉を交わしていた。家に帰って読めばいいのに、わざわざ神社に通っていたのは、西原達との付き合いが理由というよりも、やはり彼女に会いたかったのだと思う。
(でも何で、今まで忘れていたんだろう……)
『……アンタが、月神……』
『護堂友和……葉月が言っていた、霊界側で蛮神の調査に当たっていたという人間霊だね』
葉月とは、確か一ノ瀬の名前だ。やはり奴は月神の手先だったのだ。
月神は首を傾げて、長い銀髪を頬に溢しながら、柔らかく微笑んだ。
『話が聞きたいんだろう? どうぞ、入って』
月神がそう言うと、背後の襖が音もなくひとりでに開いた。部屋の中から白檀のような香りが一層濃く流れ出す。
俺は警戒しながらも、部屋の中に足を踏み入れた。室内はシンプルな和室で、壁に沿って周囲に白い垂れ幕が張り巡らされていた。
『さて、何から話そうか?』
彼は横から俺を追い抜いて、部屋の奥にあった椅子に腰掛けた。
『バンシンというのは、あの黒い怪物の事か? あれは一体何なんだ?』
俺は部屋の奥まで進むと、立ったまま尋ねた。月神は穏やかに説明する。
『歴史に名を残す事なく、太古の昔に追放された神さ。遺跡の奥で眠らせていたんだけど、起きちゃったみたいでね……』
月神は困った様に笑う。
『その蛮神はアンタが封じていたのか? 今回はどうして直ぐに眠らせないんだ?』
『そうか、君もアレの犠牲者だったね。遅くなってしまったのは申し訳ない。蛮神の復活は僕達の予定には無かった。奴の影響で命を落とす人間など、居る予定じゃ無かったんだけど……』
『だから俺達の名前は、死神のリストに無かった?』
『直ぐに奴を封じられない理由は二つある。アレが魂を食い、以前より力を増している事と、封じ込めの術を編むのには時間がかかるという事だ。アレが前回目覚めたのは、三十年程前の事……その時は地元の神が立ち向かってくれたのだけどね』
『サザナミの前任の事か?』
俺が尋ねると、月神は少し眉を上げて感心したように言った。
『そこまで知っているのか……彼女はアセビと言う名の女神だった。氏子を深く思い遣る、明るく真面目な子だったよ』
その名を聞いて、突然俺の頭の中に弁天様の境内が浮かんだ。近くでは西原が友人とキャッチボールをしている。俺は少し離れた木の根元で本を読んでいた。
西原の見た目からすると、俺達がまだ中学生くらいだった頃。
『三十年前……そのアセビはどうなったんだ?』
『……彼女は術に失敗し、奴に飲み込まれた』
冷たい水を思い切り被ったような衝撃が襲った。
(貴方はお友達と遊ばないの?)
頭の中に、あの声が響いてくる。
木の後ろから、黒い髪を先の方で結び、人懐こい目をした十七、八歳位の少女が顔を覗かせていた。
『……興味がない』
俺はぶっきらぼうに答えた。少女はクスクス笑うと、俺の隣に座って本を覗き込んでくる。
木陰から出てきた少女は着物姿だった。祭りの季節でもないのに、変わっているなとは思ったが、俺は気にしなかった。
『何を読んでいるの?』
『……何でもいいだろ』
突き放すように返答したが、彼女は気を悪くした様子もなく、にこにこと楽しそうに笑った。
『友和君は本が好きだもんね』
『……何で俺の名前を知っているんだ?』
『知っているわよ。この辺りに住む人の子達の事は、みんな……』
彼女は何かを愛おしむように、優しい目をして呟いた。
その後も俺は、神社で読書をする度に彼女と言葉を交わしていた。家に帰って読めばいいのに、わざわざ神社に通っていたのは、西原達との付き合いが理由というよりも、やはり彼女に会いたかったのだと思う。
(でも何で、今まで忘れていたんだろう……)
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この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
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