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第5章 神々の宴
20.導き
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『アンタ、大事な宴会を前に会場抜け出して何処へ行くつもり?』
身を強張らせて突っ立っていると、彼女は語気を強めて言い放った。少女のような見た目だが、その威圧感は凄まじい。
『宇迦様……』
何と答えれば良いか浮かんで来ず、冷や汗ばかり出てくる。廊下の奥では、彼女に続いて何人かが部屋から出て来たようだった。
『宇迦殿、其奴は人間霊の様じゃが知り合いか?』
後ろから長い髭の上品そうな男神が話し掛けてきた。
(ここまでか……これが最後のチャンスだというのに……)
絶望感に胸が押し潰されそうになる。
しかし、摘み出される事を覚悟して拳を握りしめていた俺の耳に聞こえてきたのは、予想外に明るい声だった。
『彼は今日の宴会の取り纏めをしてくれている霊界の代表者なの。今夜はいつもと違う演出だから楽しみにしててね♪ さあ、最終打ち合わせの予定だったわね。私の控えの間はこっちよ!』
そう言うと宇迦様は、俺を他の神々から引き離す様にして、廊下の奥へと引っ張って行く。
『……どうして?』
俺の問いかけには答えず、宇迦様はずんずんと廊下を進んだ。我々の後ろは誰もついて来ていない。やがて彼女は廊下の途中で立ち止まると、さらに奥の方を指差して言った。
『あっちよ』
『え?』
『月神の部屋。彼はまだ会議室から出てきていなかったから、一番奥の部屋の前で待っていれば現れるわ。西側の社は月神の部屋が一番奥だから、部屋の前で立っていても彼以外は誰も来ないと思うわ』
俺が呆気に取られていると、彼女は呆れたように肩をすくめた。
『アンタの目的は、豊月からちゃんと聞いてるわよ』
『じゃあ、始めから……?』
『勘違いしないでよね! 霊界食堂のご飯が不味かったり、提案された案が面白く無かったら、私は容赦無く断っていたわ』
そう言って彼女は、目の前の襖を開くと部屋に入って行った。どうやらここが彼女の控えの間のようだ。
『それから』
彼女は振り返った。
『どんな理由であれ、自分達が仕掛けた祭りを途中で投げ出す事は許さないわよ。話が済んだら、ちゃんと会場に戻って貴方自身もしっかり楽しみなさい!』
それだけ言うと、宇迦様はぴしゃりと襖を閉めた。
予想外の事が起こりすぎて、俺はまたぼーっとその場に立っていたが、廊下の向こうから誰かがやって来る気配がしたので、慌てて奥に向かった。
突き当たりに、大きな襖があった。派手さは無く落ち着いた白い襖であったが、よく見ると細かな美しい紋様が施されている。辺りには何だか高貴な香りも漂っていた。
俺が暫くその襖を眺めていると、
『僕の部屋に、何か御用かな?』
怖いくらいに静かで穏やかな声が、肩越しに響いた。ハッとして振り向くと、いつの間にか背後に、若い男神が立っていた。
身を強張らせて突っ立っていると、彼女は語気を強めて言い放った。少女のような見た目だが、その威圧感は凄まじい。
『宇迦様……』
何と答えれば良いか浮かんで来ず、冷や汗ばかり出てくる。廊下の奥では、彼女に続いて何人かが部屋から出て来たようだった。
『宇迦殿、其奴は人間霊の様じゃが知り合いか?』
後ろから長い髭の上品そうな男神が話し掛けてきた。
(ここまでか……これが最後のチャンスだというのに……)
絶望感に胸が押し潰されそうになる。
しかし、摘み出される事を覚悟して拳を握りしめていた俺の耳に聞こえてきたのは、予想外に明るい声だった。
『彼は今日の宴会の取り纏めをしてくれている霊界の代表者なの。今夜はいつもと違う演出だから楽しみにしててね♪ さあ、最終打ち合わせの予定だったわね。私の控えの間はこっちよ!』
そう言うと宇迦様は、俺を他の神々から引き離す様にして、廊下の奥へと引っ張って行く。
『……どうして?』
俺の問いかけには答えず、宇迦様はずんずんと廊下を進んだ。我々の後ろは誰もついて来ていない。やがて彼女は廊下の途中で立ち止まると、さらに奥の方を指差して言った。
『あっちよ』
『え?』
『月神の部屋。彼はまだ会議室から出てきていなかったから、一番奥の部屋の前で待っていれば現れるわ。西側の社は月神の部屋が一番奥だから、部屋の前で立っていても彼以外は誰も来ないと思うわ』
俺が呆気に取られていると、彼女は呆れたように肩をすくめた。
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『じゃあ、始めから……?』
『勘違いしないでよね! 霊界食堂のご飯が不味かったり、提案された案が面白く無かったら、私は容赦無く断っていたわ』
そう言って彼女は、目の前の襖を開くと部屋に入って行った。どうやらここが彼女の控えの間のようだ。
『それから』
彼女は振り返った。
『どんな理由であれ、自分達が仕掛けた祭りを途中で投げ出す事は許さないわよ。話が済んだら、ちゃんと会場に戻って貴方自身もしっかり楽しみなさい!』
それだけ言うと、宇迦様はぴしゃりと襖を閉めた。
予想外の事が起こりすぎて、俺はまたぼーっとその場に立っていたが、廊下の向こうから誰かがやって来る気配がしたので、慌てて奥に向かった。
突き当たりに、大きな襖があった。派手さは無く落ち着いた白い襖であったが、よく見ると細かな美しい紋様が施されている。辺りには何だか高貴な香りも漂っていた。
俺が暫くその襖を眺めていると、
『僕の部屋に、何か御用かな?』
怖いくらいに静かで穏やかな声が、肩越しに響いた。ハッとして振り向くと、いつの間にか背後に、若い男神が立っていた。
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