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第5章 神々の宴

19.奥社への潜入

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 とは言え、実際に調理に当たるのは各地方の腕利き達なので、宴の当日は予定通りに準備が進んでいるか、見回るくらいで良かった。
 後は、宴会中どの料理が一番先に無くなったかの確認と、人気投票の管理集計作業だ。

 つまり「宴会が始まる前」でも調理場を抜け出す時間が出来る。

『月神は、宴には出て来ないわよ』 

 昨晩、宴会場ですれ違った豊月が、目立たないように俺に耳打ちした。

『知り合いの式神に、ここ数日の月神の動きについて確認して貰ったけど、彼は上位神の会議が終わったら直ぐに専用の控えの間に戻って閉じ籠ってしまうみたい。確かに宴会とか苦手そーだしね……』

(となると、会議から控え室に戻るまでの間しか月神にお目にかかる機会は無いという訳か……)

 この数日間は、宴の準備が整うまで調理場を離れる事が出来なかった。

『月神の控えの間は何処にあるんだ?』

『大体の場所は分かったんだけど、かなり奥の方よ。途中にも位の高い神々の部屋があるし、アンタみたいな人間霊がウロウロしてたら一発で摘み出されるわね……』

『奴が通る道の途中で、上手く捕まえるしか無いが、見つかれば不審者扱いされちまうって事か……。でも今はそれしか手が無いな……』

 その夜は月神が控え室に戻る道順を確認してから、明日の宴会準備をして俺は霊界へと戻った。

(いよいよ勝負の時間だな……)

 翌日の会場はいつにも増して活気付いていた。それぞれの地域毎に、おかずを並べる屋台を組み立て、料理の準備に取り掛かっている。なんだか学生時代に経験した文化祭の記憶が蘇った。
 調理場には既に良い香りが漂っている。

『各代表者への確認は済んだ。料理の原料も屋台の資材も、問題なく搬入されている。準備はどこも順調みたいだ』

 俺は受付に戻ると、投票に使う巻き物の確認をしている西原に報告した。
 霊界食堂は、宴会場の隅で当日のトラブル対応受付を構えて待機していた。

『……予定通り、俺は月神の会議が終わる刻限の少し前に抜けさせて貰う』

『混乱も無さそうだし、こっちは大丈夫だ。お前が納得出来るまで話して来いよ』

 頼もしい相棒が居て本当に良かった。日が沈み、各地域の料理の準備が出来た頃、俺はそっと受付を離れて豊月に聞いた奥社へと向かった。

 神々は統括地域や位によって別々の会議を行なっているようだ。月神が参加している会議は、宴会場から最も遠い部屋で行われていた。
 月神が通るであろう、会議場から控え室までの導線も押さえている。

(皆が会議に入っていて、誰も来ない内に、社の奥の方まで入り込んでおかなくては……)

 俺は周囲を気にしつつ、早足で廊下を進んで行く。御使達は宴会準備で出払っており、神々は会議中とあって、奥社は静まり返っていた。

 しかし、唐突に廊下の先で襖が開閉する音がして、何者かが出てくる気配がした。身を潜められそうな場所はもう少し先だったので、俺は思わず廊下の真ん中で立ち止まってしまった。

(会議が終わったのか? 予定より随分早いが……)

 隠れる場所も無く、一旦戻るか迷っていると、正面から知った顔が近づいて来た。彼女はこちらに気付くと、駆け寄るように近付いて来る。

(……駄目だ、逃げられない!)
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