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第5章 神々の宴
9.手土産と再会
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出雲から帰った俺は、うちの神様に報告がてら実家に戻って来ていた。
光の輪を通って家の前に降り立つと、俺は玄関に向かう前に夜の坂道を下って行った。そして道の脇、小さな祠に佇むお地蔵さんに話しかける。
『こんばんは』
すると、石のお地蔵さんの後ろから、白い髭をたっぷりと生やした小さな翁がひょっこりと顔を出した。
『おや、友和君じゃないか。こんばんは』
『この間教えて貰った出雲蕎麦屋に行って来たんだ。美味かったよ、ありがとう。これ、ちょっとしたもんだが土産なんだ。良かったら』
俺はそう言って、お地蔵さんに菓子包を渡した。出雲から戻る際に、狸の給仕に勧められた神様専用の和菓子屋に寄って購入したものだ。
神様達もお菓子なんて買うのかと驚いたが、昔から神様達に人気の菓子屋らしい。ショーケースには、色とりどりの和菓子が並んでおり、店内では秋の新作に目移りしている女神達がいた。
(うちの神様も手ぶらで帰ったら怒りそうだったしな……)
俺は皆に配れるように、小分けに出来る栗まんじゅうを土産にした。
幽霊の身になってからも、知り合いに土産を用意する機会があるとは思わなかったが。
ちなみにこれも、豊月に買って貰ったのであるが、交換条件として今度霊界食堂で特大パンケーキを焼く約束をしていた。
『ありがとう、わざわざ悪いのう。そう言えばお前さんは小さい頃、良くわしに菓子を供えてくれたのう……』
『そうだったっけか?』
あまり記憶に無いが、この道は幼い頃から何度も通っていたので、そんな事もあったかもしれない。
『お前んとこの夏也君も毎日挨拶してくれるよ。本当に護堂家は素晴らしいねぇ』
翁は細い目を糸のようにして笑う。俺が屈みながらお地蔵様と話していると、背後から知った声が聞こえた。
『叔父様、何されてるんですか?』
振り返ると、美帆が立っていた。俺は驚いて立ち上がる。
『アンタこそ、どうしたんだ? こんな時間にうろついてたら、またアレに襲われるぞ』
俺は慌てて辺りを見回した。今日はまだ奴らの気配は無い。
『すいません、私この間のお礼が言いたくて……また叔父様に会えないかなって思って来たんです。この前は本当にありがとうございました。なんだか最後はバタバタしちゃって……』
『別に気にしてない。霊力のあるアンタがまた狙われる方が心配だ。あまり一人で出歩かない方が……』
俺が言いかけたところで、彼女は俺の目の前に護符のようなものを取り出して見せた。
『これ、一ノ瀬さんが下さったんです。仰る通り、私は狙われやすい体質らしいですね。気を付けるようにと言われたのですが、仕事で遅くなる事もあると言ったら、これを下さいました……』
『そうか……だが、まあ油断しない方がいい』
黒い霧も、あの男も。
俺は心の中で付け加えた。
一ノ瀬は何やらお祓いのような仕草をしていた。魔除けなんかも作れるのだろうか。
俺がそんな事を考えていると、また後ろから知った声に話し掛けられた。
『そんな所で立ち話しとらんで、家に上がっていったらどうじゃ?』
『神様!』
振り向くと、うちの神様がニヤニヤと笑いながら立っていた。
『お前の気配がしたのに、家とは逆方向に行くから、また奴が出たのかと思ったわい』
『お地蔵さんに土産を渡していたんだ。そうしたら、たまたま美帆も来てたみたいでな』
翁が神様に小さく手を振る。美帆は少し動揺した表情を見せると、慌てて言った。
『あ、引き止めてしまってすいません。叔父様に直接お礼も言えたので、私はこれで……』
『夏也には会わないでいいのか?』
『えっ?』
光の輪を通って家の前に降り立つと、俺は玄関に向かう前に夜の坂道を下って行った。そして道の脇、小さな祠に佇むお地蔵さんに話しかける。
『こんばんは』
すると、石のお地蔵さんの後ろから、白い髭をたっぷりと生やした小さな翁がひょっこりと顔を出した。
『おや、友和君じゃないか。こんばんは』
『この間教えて貰った出雲蕎麦屋に行って来たんだ。美味かったよ、ありがとう。これ、ちょっとしたもんだが土産なんだ。良かったら』
俺はそう言って、お地蔵さんに菓子包を渡した。出雲から戻る際に、狸の給仕に勧められた神様専用の和菓子屋に寄って購入したものだ。
神様達もお菓子なんて買うのかと驚いたが、昔から神様達に人気の菓子屋らしい。ショーケースには、色とりどりの和菓子が並んでおり、店内では秋の新作に目移りしている女神達がいた。
(うちの神様も手ぶらで帰ったら怒りそうだったしな……)
俺は皆に配れるように、小分けに出来る栗まんじゅうを土産にした。
幽霊の身になってからも、知り合いに土産を用意する機会があるとは思わなかったが。
ちなみにこれも、豊月に買って貰ったのであるが、交換条件として今度霊界食堂で特大パンケーキを焼く約束をしていた。
『ありがとう、わざわざ悪いのう。そう言えばお前さんは小さい頃、良くわしに菓子を供えてくれたのう……』
『そうだったっけか?』
あまり記憶に無いが、この道は幼い頃から何度も通っていたので、そんな事もあったかもしれない。
『お前んとこの夏也君も毎日挨拶してくれるよ。本当に護堂家は素晴らしいねぇ』
翁は細い目を糸のようにして笑う。俺が屈みながらお地蔵様と話していると、背後から知った声が聞こえた。
『叔父様、何されてるんですか?』
振り返ると、美帆が立っていた。俺は驚いて立ち上がる。
『アンタこそ、どうしたんだ? こんな時間にうろついてたら、またアレに襲われるぞ』
俺は慌てて辺りを見回した。今日はまだ奴らの気配は無い。
『すいません、私この間のお礼が言いたくて……また叔父様に会えないかなって思って来たんです。この前は本当にありがとうございました。なんだか最後はバタバタしちゃって……』
『別に気にしてない。霊力のあるアンタがまた狙われる方が心配だ。あまり一人で出歩かない方が……』
俺が言いかけたところで、彼女は俺の目の前に護符のようなものを取り出して見せた。
『これ、一ノ瀬さんが下さったんです。仰る通り、私は狙われやすい体質らしいですね。気を付けるようにと言われたのですが、仕事で遅くなる事もあると言ったら、これを下さいました……』
『そうか……だが、まあ油断しない方がいい』
黒い霧も、あの男も。
俺は心の中で付け加えた。
一ノ瀬は何やらお祓いのような仕草をしていた。魔除けなんかも作れるのだろうか。
俺がそんな事を考えていると、また後ろから知った声に話し掛けられた。
『そんな所で立ち話しとらんで、家に上がっていったらどうじゃ?』
『神様!』
振り向くと、うちの神様がニヤニヤと笑いながら立っていた。
『お前の気配がしたのに、家とは逆方向に行くから、また奴が出たのかと思ったわい』
『お地蔵さんに土産を渡していたんだ。そうしたら、たまたま美帆も来てたみたいでな』
翁が神様に小さく手を振る。美帆は少し動揺した表情を見せると、慌てて言った。
『あ、引き止めてしまってすいません。叔父様に直接お礼も言えたので、私はこれで……』
『夏也には会わないでいいのか?』
『えっ?』
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