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第5章 神々の宴

3.一次試験終了

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『こりゃいけねぇ、定食も急ぎで準備します!』

『慌てなくてだいじょーぶよ。いつも通りにしてね♪』

 そう言って女神はクリームのたっぷりかかったパスタを巻き取り始めた。
 鮮やかな卵の黄身とベーコンを絡ませながら上品に口に運んでいるが、みるみる内に白い皿が顔を覗かせていく。

『……凄い食べっぷりだな』

『あったり前でしょ? この方を誰だと思ってんのよ!』

 俺が思わず呟くと、豊月が何故か得意げに胸を逸らした。

 女神は続けて、ぶりの照り焼き定食も瞬く間に食べ終えてしまい、俺達はただただ呆然とそれを見守っていた。

(うちの神様より凄い食いっぷりかも知れないな……)

『うん、ご馳走さまでした!』

 女神は笑顔で手を合わせた。神様でも言うんだなと思いつつ、俺と西原は女神の前に並んで立ち、彼女の評価を待った。蓮雫と豊月も静かにその場を見守っている。

『ん~そうね~。手早く大勢の者に振る舞う料理としては、手際も質もかなり良い方だと思うわ』

 宇迦様は腕組みしながら、俺達を見上げて言った。

『……だけど、貴方達が作りたいと言っている料理は、神々が食べる料理。手早く、大量に、より品質の高い料理を作る必要があるわ』

 さっき迄のゆるい雰囲気が消え、彼女の表情と声音は厳しいものに変わった。急な変貌ぶりに、俺と西原は身を硬らせる。

『第一段階としては合格。次は実際に現場を見てもらった方がいいわね』

『……現場って、つまり?』

『本番の宴会会場となる場所、出雲よ!』

『出雲!?』

 俺と西原は声を合わせて聞き返した。女神はニヤリと笑う。

『そうか、神事を行うのは神社の境内……宴会もそこで行うのか?』

『そーよ! まず集会は神楽殿。そこから其々の会議場と宴会会場は別だけど、すぐ近くにあるの。厨は宴会場の隣に併設されているわ。神界で料理を作っていちいち転送していたら間に合わないもの』

(月神にお目にかかるチャンスは当日しか無さそうって事か……)

 宴までの期間でも、あわよくば神界に乗り込めるチャンスが無いかと考えていたが、どうやら難しそうだ。会議に参加するために出て来ている所を捕まえるしかない。

『じゃ、明日日が沈んだら会場前に集合ね! 霊界からも転移は出来るでしょ?』

『転移光の照準を合わせておきます。後程、詳しい位置をお教え下さい』

 女神の問いには蓮雫が答えた。

『よろしくね♪ さ、行こっか豊月!』

『はい』

 女神は席を立ち上がると、俺の横を通り過ぎる際、少し立ち止まって耳打ちした。

『何を企んでいるのか知らないけど、料理に関して中途半端な真似したら、今後霊界食堂への食材調達は廃止するからそのつもりでね?』

『……ああ』

 さすがは神。少女のようなあどけない外見でも、恐ろしい気迫だ。

 俺達は楽しげに手を振る宇迦様を見送った後、人間界で留守番中の神様に事情を伝えてから、明日の準備に取り掛かった。
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