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第5章 神々の宴

1.宇迦之御魂神

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『わーっ! ここが霊界食堂? 何かもう良い香りがするー! 素敵ね豊月ちゃん!』

『お、鬼達の目もありますから、もう少しお静かに……』

 珍しく豊月が焦っている。弁財天で集まってから数日後、彼女が神界から霊界食堂に連れてきたのは、小柄で可愛らしい声をした女性だった。

 ただ、何故かピンク色の作業着姿で頭にタオルを巻き、サングラスをしていた。

『だいじょーぶよ! わざわざ人間を装ったお忍びスタイルで来たんだもの! 誰も私が宇迦之御魂神だなんて気付かないわよ!』

『しぃーーーっ!!!』

 白狐とピンクの作業着姿の女性が騒いでいる様子は明らかに目立っており、食堂で休憩していた獄卒達も含め全員が今の会話を聞いていただろう。

 そして全員が思ったはずだ。

(何であの宇迦之御魂神が、訳の分からない作業着姿でこんな所に居るんだろう……)

と。

『ようこそお越しくださいました。……やはり、別室をご用意した方が良かったのではないでしょうか』

 蓮雫は二人に挨拶すると、小声で女神に囁いた。

 あれから、俺は一応蓮雫に神界の宴で料理を出したいと相談していた。彼はかなり驚いていたが、止められる事は無かった。

『いえいえ! 視察なんですもの。現場を確認しなくっちゃ! ね、豊月?』

『……はい。でも、もう殆どバレてしまったようです。早く召し上がっていただいて、早々に立ち去った方が良いかと……』

『えーっ!? 変装してるのに何で分かるのよー?』

 俺は彼女達を横目に、食堂のテーブルに熱いお茶を並べた。かの有名な食神がこんなにもゆるい女性だとは想像していなかったが、豊月はあの後すぐに宇迦様に話をしてくれていた。

 来月の神々の宴で、全部ではなくても霊界食堂からも何点か料理をお出ししたいという話だ。
 普段神界から神饌を分けて貰っている繋がりもある。霊界食堂の存在は、既に宇迦様も認知していた。

『宴で出すなら、私の目と舌でちゃんと腕前を確認させて貰わないとね!』

 そう言って宇迦様は席に着いた。

『普段通りで構わないって仰ってたんで、特別なものは御用意してませんが、これが今日のメニューです……』

 西原が少し緊張した様子で、宇迦様にメニューを渡した。

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