護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので

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第4章 河童の里と黒い怪物

21.決意

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『駄目だ……アイツを何とかしないと……』

 俺は顔を上げずに、床を見つめたまま呟く。すると豊月が呆れたように言った。

『なんでそんなにこだわるのよ? 神界が片付けると言ってるんだから、もう任せればいいじゃない?』

『そうじゃぞ友和。お前さんはもう霊界食堂の事だけ考えれば良いのじゃ。西原と美味いレシピを沢山考えるのじゃよ』

『……』

 正直、俺にも理由はよく分かっていなかった。
 護堂友和としての魂が終わってしまう前に、この世に残していく者達の役に立ちたかったとか、最後まで自分の手で解決してみせたかったとか、理由を頭で作ろうとすれば出来る。

 でも、そんな事だけではない気がした。

(来ては駄目……)

 夢で聞いた声が、頭の中でこだまする。

『……違う』

(……来ては駄目……友和……)

 儚げな女性の声だ。俺はこの声を知っていた。一体、誰の声なんだ。

(貴方は……私が護る……)

 今は思い出す事ができないが、一つだけ確かな事があった。

『……俺は、行かなきゃいけないんだ……』

『はあ? 行くって何処へ……?』

『……多分、星呼山遺跡に……』

『だから、わざわざ敵の巣に入って行ってどーすんのよ! 人間霊の力じゃ到底勝てないんだってば!』

 豊月は声を荒げる。すると、それまで黙っていたサザナミが突然口を開いた。

『あの……再来月、集まりがありますよね。年に一度の神々の集まる会議……』

 急に何を言い出すのかと、俺は顔を上げた。皆もきょとんとしている。

『その会議までに、堕ちた神の問題が解決に向かっていなければ、当然議題に上がるんじゃないかしら?』

『でも、神界内でも秘密裏に進められてきた事案よ? 今更表に出てくるかしら?』

『勿論、全員参加の場でなくとも、神階の上位者の会議では取り上げられるかな……と。少なくとも、この地域に住む神々は既に事件について感づいていますし、神界として何も答えない訳にはいかないと思うんです。だから友和さん、そこで聞いてきた話を私から後日お伝え……』

『神界へ乗り込もう』

『え?』

 俺はサザナミが話終わる前に、そう言い放った。三者は目を丸くして俺を見ている。

『そんな……人間霊が神に呼ばれた訳でも無いのに、神界に入り込むなんて不可能だわ!』

 豊月がかぶりを振りながら否定する。尻尾までぶんぶんと揺れる。

『ああ。だから、呼ばれればいいんだ』

『はあー? だからそれは一体どーやって?』

『お地蔵様が言っていたが、会議の後には宴会が行われるんだろう?』

 それまで洒落が通じずへこんでいたのか、沈んだ表情をしていた神様の顔がピクリと動いた。
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