護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので

文字の大きさ
上 下
72 / 131
第4章 河童の里と黒い怪物

16.憂鬱な帰り道

しおりを挟む
 死神が行なう空間移送を、彼等に借りた鎌を使う事で、俺も自由に出来るようになっていた。

『蓮雫は先に霊界に戻っていてくれ。俺は、今夜はこっちで神様と少し話したい事がある』

『……分かった』

 調査の任が解かれた以上、俺も直ぐに霊界に帰らなければならないのだろうが、蓮雫は何も聞かずに承諾してくれた。
彼はエンロウに一礼すると、光の輪に身を投じて消えていった。

『クプー?』

 光が消えた直後、玄関の方から果物を沢山抱えたサブローが入って来た。

『蓮雫様は、今し方お帰りになられたよ』

 エンロウが伝えると、サブローはショックを受けたような顔をして、悲しそうに下を向いたが、今度は神様の着物を掴んで何かを訴えた。

『クプー……。クプクプ!』

『ふむ。回復祝いがしたかったのじゃな? 今夜はご馳走を用意しとるから、ゆっくりしていって欲しいと言うとるの』

 神様が通訳すると、サブローは分かっているのかいないのか、コクコクと力強く頷いた。

『そうか、気持ちはありがたいが、おれも今日は遠慮しておくよ。神様はゆっくりしていけばいい……俺は先に家に戻っているよ』

『そうかのぅ……。サブローが寂しがるぞ?』

『悪いなサブロー……』

 俺は彼の肩に手を置くと、鎌を背負って家を出た。

 危険で面倒な任務から解放されたのだと思えば、良い話と捉える事も出来るだろう。
 だけど、俺の心はどこかもやもやとして晴れなかった。

(人間霊の手に負える次元の話ではないのだ……それは分かっているが……)

 ぼんやりとしながらバスに乗り、駅前まで戻って来た時には、22時を過ぎていた。

(天太は交番に居るだろうか……)

 覗いてみようかとも思ったが、同僚の前で幽霊と会話するのは難しいだろう。俺はそのまま家に向かった。

(また皆で集まって、調査が中止になった事を伝えないとな……)

 商店街の店は既に閉まっており、アーケードの明かりも消灯していた。星明かりが遮られ、闇に沈む商店街は昼間の和やかさから一転、暗く不気味な印象であった。
 だが、今の自分にはぴったりな景色だ。

 どんよりとした気持ちで足取り重く歩いていると、俺は突然呼び止められた。

『君、君! こんな時間に一人で何しているの?』

 俺は思わず振り返った。しかし同時に、今の俺の姿が見える者はあまりいない筈だと気付く。
 後ろに立っていた女は、しっかりと俺の顔を見つめていた。その顔に見覚えは無い。

(人間……のようだな)

『んー、西森中の生徒では無さそうだけど、どこかで見たような……?』

 しげしげと前のめりにこちらの顔を覗き込んでくる彼女は、二十代位の黒髪ロングヘア、ぱっちりと大きな瞳でかなりの美人だ。白いスーツ姿で、肩からハンドバッグを下げている。

 一応、今俺は怒られているらしいが、彼女の表情はどこか幼く、寧ろ可愛らしい印象であった。

『アンタは……?』

 俺が尋ねると、彼女は姿勢を戻して言った。

『私は西森中学校で教師をしている神岡かみおかよ。教師として、深夜に一人で歩いている中学生は見過ごせないわね』

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鎮魂の絵師

霞花怜
キャラ文芸
絵師・栄松斎長喜は、蔦屋重三郎が営む耕書堂に居住する絵師だ。ある春の日に、斎藤十郎兵衛と名乗る男が連れてきた「喜乃」という名の少女とで出会う。五歳の娘とは思えぬ美貌を持ちながら、周囲の人間に異常な敵愾心を抱く喜乃に興味を引かれる。耕書堂に居住で丁稚を始めた喜乃に懐かれ、共に過ごすようになる。長喜の真似をして絵を描き始めた喜乃に、自分の師匠である鳥山石燕を紹介する長喜。石燕の暮らす吾柳庵には、二人の妖怪が居住し、石燕の世話をしていた。妖怪とも仲良くなり、石燕の指導の下、絵の才覚を現していく喜乃。「絵師にはしてやれねぇ」という蔦重の真意がわからぬまま、喜乃を見守り続ける。ある日、喜乃にずっとついて回る黒い影に気が付いて、嫌な予感を覚える長喜。どう考えても訳ありな身の上である喜乃を気に掛ける長喜に「深入りするな」と忠言する京伝。様々な人々に囲まれながらも、どこか独りぼっちな喜乃を長喜は放っておけなかった。娘を育てるような気持で喜乃に接する長喜だが、師匠の石燕もまた、孫に接するように喜乃に接する。そんなある日、石燕から「俺の似絵を描いてくれ」と頼まれる。長喜が書いた似絵は、魂を冥府に誘う道標になる。それを知る石燕からの依頼であった。 【カクヨム・小説家になろう・アルファポリスに同作品掲載中】 ※各話の最後に小噺を載せているのはアルファポリスさんだけです。(カクヨムは第1章だけ載ってますが需要ないのでやめました)

魔法少女☆優希♡レジイナ♪

蓮實長治
キャラ文芸
九州は阿蘇に住む田中優希は魔法少女である!! 彼女に魔法の力を与えたスーちゃんは中生代から来た獣脚類の妖怪である!!(妖精かも知れないが似たようなモノだ) 田中優希は肉食恐竜「ガジくん」に変身し、人類との共存を目論む悪のレプタリアンと、父親が育てている褐牛(あかうし)を頭からガジガジと貪り食うのだ!! ←えっ?? 刮目せよ!! 暴君(T-REX)をも超えし女王(レジイナ)が築く屍山血河に!! 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(GALLERIAは掲載が後になります)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。【完結】

双葉
キャラ文芸
【本作のキーワード】 ・幽霊カフェでお仕事 ・イケメン店主に翻弄される恋 ・岐阜県~愛知県が舞台 ・数々の人間ドラマ ・紅茶/除霊/西洋絵画 +++  人生に疲れ果てた璃乃が辿り着いたのは、幽霊の浄化を目的としたカフェだった。  カフェを運営するのは(見た目だけなら王子様の)蒼唯&(不器用だけど優しい)朔也。そんな特殊カフェで、璃乃のアルバイト生活が始まる――。  舞台は岐阜県の田舎町。  様々な出会いと別れを描くヒューマンドラマ。 ※実在の地名・施設などが登場しますが、本作の内容はフィクションです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

処理中です...