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第4章 河童の里と黒い怪物
16.憂鬱な帰り道
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死神が行なう空間移送を、彼等に借りた鎌を使う事で、俺も自由に出来るようになっていた。
『蓮雫は先に霊界に戻っていてくれ。俺は、今夜はこっちで神様と少し話したい事がある』
『……分かった』
調査の任が解かれた以上、俺も直ぐに霊界に帰らなければならないのだろうが、蓮雫は何も聞かずに承諾してくれた。
彼はエンロウに一礼すると、光の輪に身を投じて消えていった。
『クプー?』
光が消えた直後、玄関の方から果物を沢山抱えたサブローが入って来た。
『蓮雫様は、今し方お帰りになられたよ』
エンロウが伝えると、サブローはショックを受けたような顔をして、悲しそうに下を向いたが、今度は神様の着物を掴んで何かを訴えた。
『クプー……。クプクプ!』
『ふむ。回復祝いがしたかったのじゃな? 今夜はご馳走を用意しとるから、ゆっくりしていって欲しいと言うとるの』
神様が通訳すると、サブローは分かっているのかいないのか、コクコクと力強く頷いた。
『そうか、気持ちはありがたいが、おれも今日は遠慮しておくよ。神様はゆっくりしていけばいい……俺は先に家に戻っているよ』
『そうかのぅ……。サブローが寂しがるぞ?』
『悪いなサブロー……』
俺は彼の肩に手を置くと、鎌を背負って家を出た。
危険で面倒な任務から解放されたのだと思えば、良い話と捉える事も出来るだろう。
だけど、俺の心はどこかもやもやとして晴れなかった。
(人間霊の手に負える次元の話ではないのだ……それは分かっているが……)
ぼんやりとしながらバスに乗り、駅前まで戻って来た時には、22時を過ぎていた。
(天太は交番に居るだろうか……)
覗いてみようかとも思ったが、同僚の前で幽霊と会話するのは難しいだろう。俺はそのまま家に向かった。
(また皆で集まって、調査が中止になった事を伝えないとな……)
商店街の店は既に閉まっており、アーケードの明かりも消灯していた。星明かりが遮られ、闇に沈む商店街は昼間の和やかさから一転、暗く不気味な印象であった。
だが、今の自分にはぴったりな景色だ。
どんよりとした気持ちで足取り重く歩いていると、俺は突然呼び止められた。
『君、君! こんな時間に一人で何しているの?』
俺は思わず振り返った。しかし同時に、今の俺の姿が見える者はあまりいない筈だと気付く。
後ろに立っていた女は、しっかりと俺の顔を見つめていた。その顔に見覚えは無い。
(人間……のようだな)
『んー、西森中の生徒では無さそうだけど、どこかで見たような……?』
しげしげと前のめりにこちらの顔を覗き込んでくる彼女は、二十代位の黒髪ロングヘア、ぱっちりと大きな瞳でかなりの美人だ。白いスーツ姿で、肩からハンドバッグを下げている。
一応、今俺は怒られているらしいが、彼女の表情はどこか幼く、寧ろ可愛らしい印象であった。
『アンタは……?』
俺が尋ねると、彼女は姿勢を戻して言った。
『私は西森中学校で教師をしている神岡よ。教師として、深夜に一人で歩いている中学生は見過ごせないわね』
『蓮雫は先に霊界に戻っていてくれ。俺は、今夜はこっちで神様と少し話したい事がある』
『……分かった』
調査の任が解かれた以上、俺も直ぐに霊界に帰らなければならないのだろうが、蓮雫は何も聞かずに承諾してくれた。
彼はエンロウに一礼すると、光の輪に身を投じて消えていった。
『クプー?』
光が消えた直後、玄関の方から果物を沢山抱えたサブローが入って来た。
『蓮雫様は、今し方お帰りになられたよ』
エンロウが伝えると、サブローはショックを受けたような顔をして、悲しそうに下を向いたが、今度は神様の着物を掴んで何かを訴えた。
『クプー……。クプクプ!』
『ふむ。回復祝いがしたかったのじゃな? 今夜はご馳走を用意しとるから、ゆっくりしていって欲しいと言うとるの』
神様が通訳すると、サブローは分かっているのかいないのか、コクコクと力強く頷いた。
『そうか、気持ちはありがたいが、おれも今日は遠慮しておくよ。神様はゆっくりしていけばいい……俺は先に家に戻っているよ』
『そうかのぅ……。サブローが寂しがるぞ?』
『悪いなサブロー……』
俺は彼の肩に手を置くと、鎌を背負って家を出た。
危険で面倒な任務から解放されたのだと思えば、良い話と捉える事も出来るだろう。
だけど、俺の心はどこかもやもやとして晴れなかった。
(人間霊の手に負える次元の話ではないのだ……それは分かっているが……)
ぼんやりとしながらバスに乗り、駅前まで戻って来た時には、22時を過ぎていた。
(天太は交番に居るだろうか……)
覗いてみようかとも思ったが、同僚の前で幽霊と会話するのは難しいだろう。俺はそのまま家に向かった。
(また皆で集まって、調査が中止になった事を伝えないとな……)
商店街の店は既に閉まっており、アーケードの明かりも消灯していた。星明かりが遮られ、闇に沈む商店街は昼間の和やかさから一転、暗く不気味な印象であった。
だが、今の自分にはぴったりな景色だ。
どんよりとした気持ちで足取り重く歩いていると、俺は突然呼び止められた。
『君、君! こんな時間に一人で何しているの?』
俺は思わず振り返った。しかし同時に、今の俺の姿が見える者はあまりいない筈だと気付く。
後ろに立っていた女は、しっかりと俺の顔を見つめていた。その顔に見覚えは無い。
(人間……のようだな)
『んー、西森中の生徒では無さそうだけど、どこかで見たような……?』
しげしげと前のめりにこちらの顔を覗き込んでくる彼女は、二十代位の黒髪ロングヘア、ぱっちりと大きな瞳でかなりの美人だ。白いスーツ姿で、肩からハンドバッグを下げている。
一応、今俺は怒られているらしいが、彼女の表情はどこか幼く、寧ろ可愛らしい印象であった。
『アンタは……?』
俺が尋ねると、彼女は姿勢を戻して言った。
『私は西森中学校で教師をしている神岡よ。教師として、深夜に一人で歩いている中学生は見過ごせないわね』
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