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第4章 河童の里と黒い怪物
12.閻魔との面会
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『被害者が自ら捜査しているとは妙なものだな。それで何か分かった事はあったのか?』
『俺達の情報を共有しても、生きている人間に対処出来る事は無い』
俺は言い放ったが、一ノ瀬の視線は「ではそれは何のために居るのか?」とでも言いたげに天太を見た。天太は明後日の方を向いている。
『まあいい。くれぐれも余計な事に首を突っ込んで魂を無駄にしない事だ。日野、お前もだ』
(……やはりコイツはかなり詳しいところまで知っているようだ)
俺は一か八か、カマをかけてみる事にした。
『まあ、人間を超えた力で解決出来るなら、アンタ達に任せるがね?』
一ノ瀬は無表情のまま、それには何も答えず、俺達に背を向けて坂道を下って行った。
『……アイツは人間なんだよな?』
『態度は悪魔じみてますけど、これまでのキャリアや所属ははっきりしてますね……。署内でも有名人ですし、突然降って湧いた妖怪とかではないっすよ……』
天太は彼の背中から目を離さずに言った。何故か俺にまで敬語になってしまっている事に、一ノ瀬への畏怖の大きさを感じる。
『お前からの連絡を待っていたって言ってなかったか?』
『……っあ、相談出来てなかったけど、俺前に不審死事件の現場で、魂抜けちゃったとこ一ノ瀬さんに見られたんだよね……』
『それで探りを入れられていると……』
ただ霊が見えるだけの人間にしては、色々と知りすぎている感じがした。彼の事は少し気に留めていた方が良いかもしれない。
『今後アイツに何か聞かれても、余計な事は伝えるなよ?』
『……頑張ってみます……』
俺は天太に念押ししてから、日の光を浴びて霊界へと戻った。
『まさかそんな事が起きていたとはな……』
俺は霊界に戻って直ぐに、閻魔大王への謁見を願い出た。毎日眠る間もなく死者の裁判を続けている彼は、当然多忙であり自由な時間等無かったが、蓮雫の事も伝えると、裁判の合間に少しだけ時間を取ってくれた。
『儂らは少し蓮雫に頼り過ぎておった様だ。お前にも無理をさせたな……』
大王は黒い顎髭をふさふさと撫でつけながら、申し訳なさそうに言った。
恐ろしいと言われる事の多い彼だが、裁判において厳粛で見た目が威圧的なだけで、思慮深い人物のように俺は感じていた。
『神界との交渉は頼めそうか?』
『直ぐ確認してみよう。お前達は暫く霊界で待機していてくれ。傷が癒えたら、蓮雫の様子も見に行ってやって欲しい』
『分かった』
俺が返答すると、垂幕の裏から鬼達が沢山の巻物を抱えて入ってくる。どうやらもうタイムアップらしい。
俺は一礼して閻魔大王の間を出ると、食堂へ向かった。
(神界が協力してくれるか分からないが、今は返事を待つしか無いな……)
食堂の入り口に近づくと、良い香りがしてくる。丁度、厨房担当の獄卒達が夕飯の支度をしているところであった。
『よう、閻魔様には会えたか?』
厨房を覗くと、西原が団扇で魚を煽ぎながらこちらに顔を向けた。
『ああ。神界に連絡を取って貰えるようだ。暫く待ちだな。お、秋刀魚か。どうりでいい香りがする訳だ』
『季節だからな、美味いぞー! やる事終わったんなら、食っていったらどうだ?』
『そうするか』
俺は空いている席に座って、秋刀魚定食を頼んだ。もう人間界では秋なのだなと思うと、時の流れがあっという間に感じた。
『俺達の情報を共有しても、生きている人間に対処出来る事は無い』
俺は言い放ったが、一ノ瀬の視線は「ではそれは何のために居るのか?」とでも言いたげに天太を見た。天太は明後日の方を向いている。
『まあいい。くれぐれも余計な事に首を突っ込んで魂を無駄にしない事だ。日野、お前もだ』
(……やはりコイツはかなり詳しいところまで知っているようだ)
俺は一か八か、カマをかけてみる事にした。
『まあ、人間を超えた力で解決出来るなら、アンタ達に任せるがね?』
一ノ瀬は無表情のまま、それには何も答えず、俺達に背を向けて坂道を下って行った。
『……アイツは人間なんだよな?』
『態度は悪魔じみてますけど、これまでのキャリアや所属ははっきりしてますね……。署内でも有名人ですし、突然降って湧いた妖怪とかではないっすよ……』
天太は彼の背中から目を離さずに言った。何故か俺にまで敬語になってしまっている事に、一ノ瀬への畏怖の大きさを感じる。
『お前からの連絡を待っていたって言ってなかったか?』
『……っあ、相談出来てなかったけど、俺前に不審死事件の現場で、魂抜けちゃったとこ一ノ瀬さんに見られたんだよね……』
『それで探りを入れられていると……』
ただ霊が見えるだけの人間にしては、色々と知りすぎている感じがした。彼の事は少し気に留めていた方が良いかもしれない。
『今後アイツに何か聞かれても、余計な事は伝えるなよ?』
『……頑張ってみます……』
俺は天太に念押ししてから、日の光を浴びて霊界へと戻った。
『まさかそんな事が起きていたとはな……』
俺は霊界に戻って直ぐに、閻魔大王への謁見を願い出た。毎日眠る間もなく死者の裁判を続けている彼は、当然多忙であり自由な時間等無かったが、蓮雫の事も伝えると、裁判の合間に少しだけ時間を取ってくれた。
『儂らは少し蓮雫に頼り過ぎておった様だ。お前にも無理をさせたな……』
大王は黒い顎髭をふさふさと撫でつけながら、申し訳なさそうに言った。
恐ろしいと言われる事の多い彼だが、裁判において厳粛で見た目が威圧的なだけで、思慮深い人物のように俺は感じていた。
『神界との交渉は頼めそうか?』
『直ぐ確認してみよう。お前達は暫く霊界で待機していてくれ。傷が癒えたら、蓮雫の様子も見に行ってやって欲しい』
『分かった』
俺が返答すると、垂幕の裏から鬼達が沢山の巻物を抱えて入ってくる。どうやらもうタイムアップらしい。
俺は一礼して閻魔大王の間を出ると、食堂へ向かった。
(神界が協力してくれるか分からないが、今は返事を待つしか無いな……)
食堂の入り口に近づくと、良い香りがしてくる。丁度、厨房担当の獄卒達が夕飯の支度をしているところであった。
『よう、閻魔様には会えたか?』
厨房を覗くと、西原が団扇で魚を煽ぎながらこちらに顔を向けた。
『ああ。神界に連絡を取って貰えるようだ。暫く待ちだな。お、秋刀魚か。どうりでいい香りがする訳だ』
『季節だからな、美味いぞー! やる事終わったんなら、食っていったらどうだ?』
『そうするか』
俺は空いている席に座って、秋刀魚定食を頼んだ。もう人間界では秋なのだなと思うと、時の流れがあっという間に感じた。
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