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第4章 河童の里と黒い怪物
5.手土産
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俺は不思議に思ったが、次の質問をする前に神様が口を開いた。
『ふむ。まずはその場所を案内して貰おうかの。じゃがその前に、お前さん方に土産があるんじゃ』
そう言ってこちらに視線を向ける。すっかり忘れていた。俺はシュンが持たせてくれたタッパーを取り出して、皆の前で蓋を取った。
『これは……?』
『胡瓜の梅和えと、こっちは唐辛子と一緒に漬けたピリ辛胡瓜だ』
西原の奥さんに大量に胡瓜を貰った夏也が、俺の手帳のレシピを見ながら作り置いていたらしい。簡単に出来て、箸休めや酒のつまみにもなるので、俺も良く作っていた料理だ。
シュンが河童に喜んでもらえそうだからと、この胡瓜の幽霊を詰めて持たせてくれたのだった。
『クプ?』
河童達は慎重に、お互い顔を見合わせながら手を伸ばした。そんな中、やんちゃなサブローはぐいと身を乗り出すと、梅和えを摘んでぽいと頬張る。
『クプー!』
酸っぱかったのか、サブローは顔の具材をぎゅうと中心に集めたが、少しするとぱっと笑顔になり、再び胡瓜に手を伸ばした。気に入って貰えたようだ。
他の河童達もざわざわとしてきたが、皆一様に笑顔なのでどうやら喜んで貰えたらしい。
(妖怪にも反応が良いな。今度、霊界食堂でも出してみるか……)
そんな事を考えていると、端に座っていた河童が何やら瓶を抱えて来た。
俺と神様は杯をぐいと渡されて、そこへ瓶の中の液体が注がれる。
(こいつはひょっとすると……)
口をつけてみると、キリッと冷えた辛口の日本酒だ。かなり強い。
(さてはここの河童達は酒飲みが多いな……)
見渡すと、体の大きな河童は皆杯を手に楽しそうに胡瓜を摘んでいる。隣ではちゃっかり神様も酒のお代わりをしていた。
『これからまた霧に遭遇するかもしれないんだから、あまり調子に乗るなよ……?』
神様というものが酒に酔うのかは知らないが、俺は彼に釘を刺した。
『河童達が歓迎してくれとるんじゃ、飲まなきゃ失礼じゃぞ。わしが酒に強いのは知っとるじゃろう?』
神様はそう言って早々と二杯目を空ける。確かに、俺の生前うちで晩酌に付き合って貰った際、彼が酔った姿は見たことがない。
(とはいえ、この緊張感の無さときたら……)
俺は呆れながらピリ辛の方の胡瓜を摘んだ。懐かしい味が口に広がる。
(夏也、ちゃんと俺の味を再現してくれているんだな……。まあ、これは再現も何もない簡単な料理だが……)
俺達は少しの間、河童達の歓迎を受けた後、サブローを連れてドンが拐われた場所へ案内して貰う事にした。
奴がまた現れる可能性もあるので、サブローを連れて行くのは不安もあったが、彼はどうしても自分が行きたいと言って聞かなかった。
『少しでも怪しい気配を感じたら、俺か神様の後ろに隠れるんだぞ?』
俺が忠告すると、サブローはコクコクと頷いた。
彼からあまり離れないように気を付けながら、河童の里を出て元来た道を戻って行く。果たして本当にさっき歩いた道なのか判然としない所もあったが、暫く歩くと何となく見慣れた道に出た。
今までの獣道とは異なり、割と最近も人が使っている形跡がある道だ。しかし、
(違う……ここはさっき歩いたから覚えているんじゃない。俺は既に何度も、この道を歩いている……)
大分暗さに目が慣れてきていた。俺が道の先を見遣ると、そこには立ち入り禁止のロープが張られていた。
『ここは……星呼山遺跡の入り口だ……』
『ふむ。まずはその場所を案内して貰おうかの。じゃがその前に、お前さん方に土産があるんじゃ』
そう言ってこちらに視線を向ける。すっかり忘れていた。俺はシュンが持たせてくれたタッパーを取り出して、皆の前で蓋を取った。
『これは……?』
『胡瓜の梅和えと、こっちは唐辛子と一緒に漬けたピリ辛胡瓜だ』
西原の奥さんに大量に胡瓜を貰った夏也が、俺の手帳のレシピを見ながら作り置いていたらしい。簡単に出来て、箸休めや酒のつまみにもなるので、俺も良く作っていた料理だ。
シュンが河童に喜んでもらえそうだからと、この胡瓜の幽霊を詰めて持たせてくれたのだった。
『クプ?』
河童達は慎重に、お互い顔を見合わせながら手を伸ばした。そんな中、やんちゃなサブローはぐいと身を乗り出すと、梅和えを摘んでぽいと頬張る。
『クプー!』
酸っぱかったのか、サブローは顔の具材をぎゅうと中心に集めたが、少しするとぱっと笑顔になり、再び胡瓜に手を伸ばした。気に入って貰えたようだ。
他の河童達もざわざわとしてきたが、皆一様に笑顔なのでどうやら喜んで貰えたらしい。
(妖怪にも反応が良いな。今度、霊界食堂でも出してみるか……)
そんな事を考えていると、端に座っていた河童が何やら瓶を抱えて来た。
俺と神様は杯をぐいと渡されて、そこへ瓶の中の液体が注がれる。
(こいつはひょっとすると……)
口をつけてみると、キリッと冷えた辛口の日本酒だ。かなり強い。
(さてはここの河童達は酒飲みが多いな……)
見渡すと、体の大きな河童は皆杯を手に楽しそうに胡瓜を摘んでいる。隣ではちゃっかり神様も酒のお代わりをしていた。
『これからまた霧に遭遇するかもしれないんだから、あまり調子に乗るなよ……?』
神様というものが酒に酔うのかは知らないが、俺は彼に釘を刺した。
『河童達が歓迎してくれとるんじゃ、飲まなきゃ失礼じゃぞ。わしが酒に強いのは知っとるじゃろう?』
神様はそう言って早々と二杯目を空ける。確かに、俺の生前うちで晩酌に付き合って貰った際、彼が酔った姿は見たことがない。
(とはいえ、この緊張感の無さときたら……)
俺は呆れながらピリ辛の方の胡瓜を摘んだ。懐かしい味が口に広がる。
(夏也、ちゃんと俺の味を再現してくれているんだな……。まあ、これは再現も何もない簡単な料理だが……)
俺達は少しの間、河童達の歓迎を受けた後、サブローを連れてドンが拐われた場所へ案内して貰う事にした。
奴がまた現れる可能性もあるので、サブローを連れて行くのは不安もあったが、彼はどうしても自分が行きたいと言って聞かなかった。
『少しでも怪しい気配を感じたら、俺か神様の後ろに隠れるんだぞ?』
俺が忠告すると、サブローはコクコクと頷いた。
彼からあまり離れないように気を付けながら、河童の里を出て元来た道を戻って行く。果たして本当にさっき歩いた道なのか判然としない所もあったが、暫く歩くと何となく見慣れた道に出た。
今までの獣道とは異なり、割と最近も人が使っている形跡がある道だ。しかし、
(違う……ここはさっき歩いたから覚えているんじゃない。俺は既に何度も、この道を歩いている……)
大分暗さに目が慣れてきていた。俺が道の先を見遣ると、そこには立ち入り禁止のロープが張られていた。
『ここは……星呼山遺跡の入り口だ……』
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