護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので

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第4章 河童の里と黒い怪物

4.拐われた兄

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『此度は遠方からご足労いただきましてありがとうございます……私、この里の長をしておりますエンロウと申します』

 年嵩に見える髭の生えた河童が、嗄れた声で挨拶した。河童の年齢に関する知識等、当然持ち合わせてはいないが、彼はなんと言うかもう乾燥わかめのような姿なのであった。

『サブローの友人の神じゃ。こっちは人間霊の友和、共に黒い霧退治をしておる』

 俺は軽く会釈して、柔らかな干し草の上に座った。他の河童とサブローは、何やらクプクプという水の泡のような音を立てて会話している。

『この里で人語を操れるのは私だけなのです。ご容赦下さい』

 俺の視線に気が付いたのか、エンロウが説明した。

『わしはどちらも理解出来るから問題ないぞ。それで、里の状況はどんな感じじゃ?』

 神様は既に足を崩して、実家のように寛いでいる。エンロウは萎んだ身体を益々小さくしながら口を開いた。

『既にお聴き及びとは思いますが、あの恐ろしい霧には、この里に棲む者も多数襲われております。一年程前に最初の行方不明者が出てから、次第にその数は増えていきました。先日はこのサブローの兄が、彼の目の前で拐われたのです……』

 さっきまで、外からお客さんが訪ねて来た事に喜んでいたサブローは、当時を思い出してしまったのか、急に悲しそうに俯向いてしまった。

『この河童の集落は、西国に比べれば遙かに小さく住民も少ない。これまで数百年の間、我々は此処で隠れるように暮らしてきました。襲われたのは里の外に出た者ばかりで、始めは何故彼等が戻って来ないのか誰も分かりませんでした』

 エンロウは長い髭をひと撫ですると続けた。

『サブローは悪戯好きで、いつも人里へ遊びに行ってしまう困った子どもなのですが、それがこの間、また里を抜け出しましてね。サブローを連れ帰ろうと、心配して迎えに行った兄のドンが帰り際に襲われてしまったのです……』

(兄貴はジローじゃないんだな……)

 辛い話を伺っているのだが、俺はついそっちが気になってしまった。

『クプ……ククプク…クー』

『一緒に里へ帰ろうと山に戻った所で、最初はサブローが黒い霧に襲われた。ドンがそれを庇ってくれたんじゃな……』

 拳を膝の上で握りしめながら、悔しそうにクプクプ言うサブローの言葉を神様が通訳した。

『体は残されていたのか?』

 俺は横から質問した。それにはエンロウが答えてくれた。

『いや……。これまでは、魂だけ抜き取られ、抜け殻になった遺体が見つかる事が多かった。だが、ドンは黒い手のようなものに包まれて、そのまま連れ去られてしまったのだ』

(それはおかしいな……。いつもなら魂だけ掴んで、一緒に転移しようとするのに……)
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