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第3章 幽体離脱警官と妖怪の子
9.呼び出し
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『ごちそーさまでした!』
お腹も心も満たされて、幸せな気持ちで俺は蕎麦屋を出た。
(さ~て、今日は何しようかな? 合コンも同期飲みの予定もねーし……)
昨夜の話も気になったが、住民には最近変わった事がなかったか、明後日の定期巡回の時にでも聴き込んでみるつもりでいた。
明日は休みだし、DVDでも借りて帰ろうかと思っていると、携帯が鳴り出した。ちょっと嫌な予感がする。
スマホを取り出すと、予想通り画面に出ている名前は、鏑木巡査部長だった。俺は渋々応答する。
『はい、日野です』
『日野、悪いが事件だ。初動の頭数が足りない。今から言う住所に向かってくれ』
『はい!』
嫌な予感は大当たり。束の間の幸福感は、すぐに緊張感へと変わってしまった。
(普段は平和そのものといった町だったのに、昨日から一体どうしちまったんだ?)
俺は寮に戻って着替えてから、先輩に言われた住所へと急行した。
俺が自転車に乗って現場に着いた時には、まだ刑事課も到着していなかった。
駅前から、歩けば30分位の川沿いにある土手。川面は降り注ぐ日光がキラキラと輝き、気持ちの良い風が草葉を揺らす。そんなのどかな雰囲気とは裏腹に、そこで見つかったのは若い男の変死体だった。
遺体と対面する現場は初めてでは無いが、やはり気持ちの良いものではない。
第一発見者は、犬の散歩をしていた近所に住む70代男性で、草むらに人が倒れていると昼頃に通報があった。
俺は鏑木巡査部長と合流し、直ちに現場確保を手伝った。鑑識が到着するまで、野次馬を追い払ったりしている間、頭を過るのは蕎麦屋で聞いた話だ。
(棟梁の日雇いバイトをバックれた奴ってもしかして……)
後から合流したので、害者は遠目にしか見ていないが、体格の良い若い男だった。血痕や外傷等もぱっと見だが見当たらない。
(まさか……いや、まさかなぁ……)
俺はブルーシートを貼りながら、昨夜の黒い霧の事を考えていた。
『アー、ホント出た。デタヨこれ……またデスよ。困っチャウなあ、ホントに……』
その時、俺の背後から、聞き慣れないイントネーションで独りごちる声が聞こえた。
振り返ってギョッとした。既に規制線を張って立ち入り禁止にしたはずなのに、害者の隣に黒いフード付きマントを羽織った見るからに怪しい奴が立っていたのだ。
周囲には他の警官も何人か居るのに、誰も止めようとしていない。
(なんだコイツ? とりあえず関係者では絶対にないよな?)
『ちょっと貴方、困るのはこっちですよ! 規制線の外に出てください!』
俺が近づくと、そいつは振り返った。フードに隠れて表情は見えないが、こちらを見るなり露骨に大きな溜息を吐く。
『アー、モウ、見えるヤツいるし、メンドクサー』
(お前が勝手に入って来た癖に面倒臭いとはなんだ。逮捕したろか)
しかし、「見えるヤツ」という言葉には引っかかった。昨夜の妖怪少年にも同じような事を言われたのだ。
(もしかするとコイツは……)
『おい日野! 何ぼーっとしてんだ! こっち来て手伝え!』
『え? いや、でもコイツ……』
鏑木さんに怒鳴られた。俺が反応に困りながら黒マントを指差すと、
『害者はもういい! 鑑識が来るまでほっとけ! 触んなよ!』
(ウッソだろぉ……)
やっぱり、見えていないようだ。
お腹も心も満たされて、幸せな気持ちで俺は蕎麦屋を出た。
(さ~て、今日は何しようかな? 合コンも同期飲みの予定もねーし……)
昨夜の話も気になったが、住民には最近変わった事がなかったか、明後日の定期巡回の時にでも聴き込んでみるつもりでいた。
明日は休みだし、DVDでも借りて帰ろうかと思っていると、携帯が鳴り出した。ちょっと嫌な予感がする。
スマホを取り出すと、予想通り画面に出ている名前は、鏑木巡査部長だった。俺は渋々応答する。
『はい、日野です』
『日野、悪いが事件だ。初動の頭数が足りない。今から言う住所に向かってくれ』
『はい!』
嫌な予感は大当たり。束の間の幸福感は、すぐに緊張感へと変わってしまった。
(普段は平和そのものといった町だったのに、昨日から一体どうしちまったんだ?)
俺は寮に戻って着替えてから、先輩に言われた住所へと急行した。
俺が自転車に乗って現場に着いた時には、まだ刑事課も到着していなかった。
駅前から、歩けば30分位の川沿いにある土手。川面は降り注ぐ日光がキラキラと輝き、気持ちの良い風が草葉を揺らす。そんなのどかな雰囲気とは裏腹に、そこで見つかったのは若い男の変死体だった。
遺体と対面する現場は初めてでは無いが、やはり気持ちの良いものではない。
第一発見者は、犬の散歩をしていた近所に住む70代男性で、草むらに人が倒れていると昼頃に通報があった。
俺は鏑木巡査部長と合流し、直ちに現場確保を手伝った。鑑識が到着するまで、野次馬を追い払ったりしている間、頭を過るのは蕎麦屋で聞いた話だ。
(棟梁の日雇いバイトをバックれた奴ってもしかして……)
後から合流したので、害者は遠目にしか見ていないが、体格の良い若い男だった。血痕や外傷等もぱっと見だが見当たらない。
(まさか……いや、まさかなぁ……)
俺はブルーシートを貼りながら、昨夜の黒い霧の事を考えていた。
『アー、ホント出た。デタヨこれ……またデスよ。困っチャウなあ、ホントに……』
その時、俺の背後から、聞き慣れないイントネーションで独りごちる声が聞こえた。
振り返ってギョッとした。既に規制線を張って立ち入り禁止にしたはずなのに、害者の隣に黒いフード付きマントを羽織った見るからに怪しい奴が立っていたのだ。
周囲には他の警官も何人か居るのに、誰も止めようとしていない。
(なんだコイツ? とりあえず関係者では絶対にないよな?)
『ちょっと貴方、困るのはこっちですよ! 規制線の外に出てください!』
俺が近づくと、そいつは振り返った。フードに隠れて表情は見えないが、こちらを見るなり露骨に大きな溜息を吐く。
『アー、モウ、見えるヤツいるし、メンドクサー』
(お前が勝手に入って来た癖に面倒臭いとはなんだ。逮捕したろか)
しかし、「見えるヤツ」という言葉には引っかかった。昨夜の妖怪少年にも同じような事を言われたのだ。
(もしかするとコイツは……)
『おい日野! 何ぼーっとしてんだ! こっち来て手伝え!』
『え? いや、でもコイツ……』
鏑木さんに怒鳴られた。俺が反応に困りながら黒マントを指差すと、
『害者はもういい! 鑑識が来るまでほっとけ! 触んなよ!』
(ウッソだろぉ……)
やっぱり、見えていないようだ。
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