護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので

文字の大きさ
上 下
41 / 131
第3章 幽体離脱警官と妖怪の子

5.奪われた魂

しおりを挟む
 手を握ったり開いたりしてみる。特に違和感は無い。ちゃんと自分の肉体に戻れたようだ。

『その状態でも俺が見えるか?』

 友和が尋ねた。俺は側に立つ彼を見上げて、しげしげと眺める。

『ああ。見えるな。そういや、さっきはそっちの子は少し透けていたみたいだったけど……』

 俺はトゲトゲ頭を振り返る。今度ははっきりと見える。

『あれ、ちゃんと見えるな?』

『元々少し霊感があったのかもな。霊体になりかけて、こっち側に近づいちまったんだろう』

 なんだそれ怖い。

『なあ、兄ちゃんも戻ったみたいだし話を戻すけど、さっきのに殺されたってやつ友和の他にも結構いるの?』

 トゲトゲが大きな猫目を見開いて尋ねる。

『……っていうかその前に、お前も妖怪ってなんなんだ? めっちゃ普通の子どもみたいな格好してるじゃん? 後、名前は?』

『えー、別にいいじゃんそんな事!』

『俺は気になるの! 本当に人間じゃないんだな? 中学生なら家まで送ってやらんと……』

 俺がそう言うと、さっきまでの生意気さが急になくなり、彼は目を伏せて静かになった。

『本当だよ。俺は妖怪。妖怪の子どもさ。俺に……家なんてないよ……』

(……なんか、マズイ事聞いたかな?)

 俺はその様子にちょっと動揺したが、友和は淡々と続けた。

『名前はあるのか?』

(こいつ、結構ドSな性格してんのな……)

『……シュン』

 トゲトゲ頭は下を向いたまま答えた。

『俺は……シュンって呼ばれてた……。さあ、もういいだろ? 次は俺の質問に答える番だぜ!』

(呼ばれてた……?)

 気になる事はまだまだあったが、そう言うとシュンは顔を上げて友和を見つめた。
 友和は思い出すように顎に手を当てると、ゆっくりと自分が死んでから経験した事を話し始めた。

 霊界で出会った閻魔大王と鬼の管理官、旧友、やり残した人生分の修行として食堂のメニュー開発をする事、それと並行して謎の死の原因を解明する手伝いをしている事。

 信じられない話ばかりだが、実際に俺自身も数分前に黒い霧に遭遇したばかりだ。一旦、この自称とっちゃん坊やの話を信じてみよう。

『……そして、最近分かってきた事だが、予定外に死んだ亡者だけでなく、死んでからも魂が霊界に来ていない者が存在すると分かってきた』

『……それって……』

 シュンは緊張しているのか、少し声が震えている。

『……ああ、恐らくアイツは何らかの理由で魂を抜き取り、持ち去っている。俺や西原の様に霊界に辿り着けたのは、一部の者達なのだろう』

『お、俺は死ななかったぜ?』

 それを聞いて俺も不安になり、思わず割って入ってしまった。友和は相変わらず顔色を変えず、冷静に答える。

『そうだな。俺も直接見たのはさっきが初めてで、これも仮説だが、俺達のように魂を持っていかれずに済んでも、さっきの紐の様なものが切れてしまったら、もう肉体には戻れないのかもしれない……』

(めちゃくちゃ危なかったじゃん、さっきの俺……)

『俺も襲われたって事は、魂を奪う相手って人間だけじゃないって事だよね……』

 シュンも続けた。確かに。妖怪も襲うって、あの霧自体妖怪みたいなもんじゃないのだろうか。

 そして、もう一つ確認しておかねばならない事がある。

『じゃーさ、今後もこの町に住む人間や妖怪は、アレに襲われたら死ぬかもしれねーって事だろ?』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

猫の喫茶店『ねこみや』

壬黎ハルキ
キャラ文芸
とあるアラサーのキャリアウーマンは、毎日の仕事で疲れ果てていた。 珍しく早く帰れたその日、ある住宅街の喫茶店を発見。 そこは、彼女と同い年くらいの青年が一人で仕切っていた。そしてそこには看板猫が存在していた。 猫の可愛さと青年の心優しさに癒される彼女は、店の常連になるつもりでいた。 やがて彼女は、一匹の白い子猫を保護する。 その子猫との出会いが、彼女の人生を大きく変えていくことになるのだった。 ※4話と5話は12/30に更新します。 ※6話以降は連日1話ずつ(毎朝8:00)更新していきます。 ※第4回キャラ文芸大賞にエントリーしました。よろしくお願いします<(_ _)>

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

覚醒呪伝-カクセイジュデン-

星来香文子
キャラ文芸
あの夏の日、空から落ちてきたのは人間の顔だった———— 見えてはいけないソレは、人間の姿を装った、怪異。ものの怪。妖怪。 祖母の死により、その右目にかけられた呪いが覚醒した時、少年は“呪受者”と呼ばれ、妖怪たちから追われる事となる。 呪いを解くには、千年前、先祖に呪いをかけた“呪掛者”を完全に滅するしか、方法はないらしい————

処理中です...