護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので

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第3章 幽体離脱警官と妖怪の子

2.奇妙な少年

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 少年は既に、駅前のロータリーを過ぎて脇道へ曲がる所だった。俺は走って追いかける。足の速さには自信があった。

 風が肌を滑り抜ける。六月とはいえ夜は少し肌寒い。
 脇道へ入って行くと、周囲は畑で明かりはさらに少なくなった。

『おーい! 君!』

 夜の闇に溶けつつあった少年の背中に、俺は呼びかけた。
 彼は、ぴくりと肩を上げると、立ち止まってゆっくりと振り返った。

 黒いTシャツに迷彩柄の短パン、肩から白いスポーツバックを下げている。猫の逆毛のようにツンツンと立たせた髪をして、大きな猫目は見開かれ驚いた表情をしていた。

(見つかるとマズイ事でもしたのか?)

 俺はポケットから警察手帳を出して、彼に見せながら話しかけた。

『お兄さんは警察だ、安心して。君、こんな時間に一人で何してるんだ?』

『アンタ……、俺が見えるのか?』

 少年は安心するどころか、まだ意外そうな顔で意味不明な事を言う。

(なんだ、なんだ、厨二病か?)

『見えるって、そりゃ当たり前……』

 言いかけて、よく見ると少年の身体越しに、何だか畑が見える気がした。

(え、透けてる……?)

 俺は乱視も少しあるが、ちゃんとコンタクトはしている。そういえば、ツーウィークだけど、三週間目に突入してしまっていたかもしれない。

 だからと言って、急に人が透けて見えるようなヤバイ事にはならないだろう。

 俺は目を擦って、もう一度少年を見た。やっぱり少し透けているような、

『……!』

 その時、少年が意味あり気に辺りを見回した。

『なんか嫌な気配がする……。兄ちゃんも此処を離れた方がいい』

(はぁ? やっぱり厨二病か……?)

 そんな事を思ったその時、

 少年の視線を辿った先、畑の中央の辺りが妙に暗く、何というか闇が凝ったような塊が浮かんでいた。

『見ちゃダメだ! 気付かれる前に行こう!』

 少年はそう言うと、急に駆け出した。

『えっ!? ちょっと待て……!』

 俺は仕方なく彼の後を追って走った。振り返ると、畑の中の黒いものは、ゆっくりと通りの方まで移動して来ているようだ。

(何なんだありゃ?)

 俺は不思議に思いながらも、少年を追う事を優先した。少年は道を逸れて、林に入って行く。

『おい! んなとこ入るな! あぶねーだろ!』

 タダでさえ暗いのに、林に足を踏み入れると、辺りは益々見えづらくなった。湿度の高い、濃厚な草木の香りが立ち込めている。

(ちっくしょ、見失った……)

 とはいえ、まだそう遠くまでは行っていないはずだ。
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