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第2章 となりの女神と狐様
19.試食会
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豊月は珍しそうにキョロキョロと周囲を見回しながら感嘆した。
『へぇ……随分長い事生きてるけど、霊界なんて初めて来たわ』
翌日、俺達は豊月を迎えに稲荷神社へと向かった。彼女は死霊ではないので、朝日では霊界に行けない為、事前に蓮雫に頼んで、戻り用のゲートを開いて貰っていた。
実家に寄って神様にも声を掛ける。四人で光の輪を潜り、再び目を開けると俺達は霊界の門に戻って来ていた。
人間界から霊界に転送されると、必ずこの門の前に移動して来る。
振り返ると、門の内側に蓮雫が立っているのが見えた。
『ようこそ霊界へ。私はこの魂達の管理をしております、蓮雫と申します』
一応、神界からの使いを迎える形になるので、蓮雫も気を使って挨拶に出て来たようだ。
『あら、いい男♡』
一方、豊月の反応は分かり易い。
『御協力感謝致します。早速、食堂へ案内致しましょう』
蓮雫はにこやかに我々を迎えると、豊月を連れて先を歩いた。
『……なあ、霊界より神界の方が立場が上なのか?』
蓮雫の様子を見て、俺は神様に小声で尋ねた。
『ふむ、霊界は中間地点じゃから、統治する領域や神の数で比べれば神界の方が多いがの。特に優劣は無い。地獄や冥界との繋がりも深いから、そこ迄含めるとまた変わってくるしの』
『鬼って言うと、乱暴で横柄な感じを想像してたが、食堂の奴らも素直だし、蓮雫の旦那は俺らに対しても丁寧だよな』
横を歩いていた西原も会話に加わる。西原は食堂で働く鬼達に、蒸し芋とスープの作り方を指導していたが、
反発もなく皆真面目に取り組んでいた。
『地獄の獄卒と比べるとまた違うじゃろうがの。ただ、アイツも鬼を束ねる立場の者じゃ。普段はあんな感じじゃが、相当な力を持っておるぞ』
『いつも穏やかな奴の方がキレると怖いって言うしな……』
そんな事を話しながら歩いていると、すぐに食堂に着いた。豊月の相手は蓮雫と神様に任せて、俺と西原は厨房へ向かう。
『じゃあ、始めますか!』
数分後、西原は料理を盆に乗せて厨房を出ると、食堂の席に座っていた豊月達の前に進み出た。
『あら、早いわね!』
『汁と具材は、昨日から仕込んでおいたんでね』
豊月の前に置かれた器からは、白い湯気が立ち、鰹出汁の良い香りが辺りに広がる。黄金色の汁に、ふっくらと煮込まれた分厚い揚げ、緑が鮮やかな小ねぎが浮かんでいた。
熱々のきつねうどんだ。
月並みかもしれないが、狐と言って思い浮かぶのはやはり油揚げだった。
彼女の好みについて情報が得られなかった俺達は、それぞれ油揚げを使ったレシピを考える事にしたのだ。
『箸は使えるか?』
西原が彼女に箸を手渡す。
『何年人間に化けてきたと思ってるのよ? 箸ぐらい使えるわよ』
豊月はそう言うと、西原から箸を取り上げ、器用にうどんを食べ始めた。
つるつるとうどんを頬張ると、彼女は大きな眼をさらに見開き、しばらく無言でうどんをすすった。
続いて、たっぷりと出汁の染みたお揚げを持ち上げて噛り付く。じわっと汁が溢れて滴る。
(旨そうだな……)
思わず俺まで食べたくなってしまった。西原の取った出汁なら間違いなく絶品だろう。
『へぇ……随分長い事生きてるけど、霊界なんて初めて来たわ』
翌日、俺達は豊月を迎えに稲荷神社へと向かった。彼女は死霊ではないので、朝日では霊界に行けない為、事前に蓮雫に頼んで、戻り用のゲートを開いて貰っていた。
実家に寄って神様にも声を掛ける。四人で光の輪を潜り、再び目を開けると俺達は霊界の門に戻って来ていた。
人間界から霊界に転送されると、必ずこの門の前に移動して来る。
振り返ると、門の内側に蓮雫が立っているのが見えた。
『ようこそ霊界へ。私はこの魂達の管理をしております、蓮雫と申します』
一応、神界からの使いを迎える形になるので、蓮雫も気を使って挨拶に出て来たようだ。
『あら、いい男♡』
一方、豊月の反応は分かり易い。
『御協力感謝致します。早速、食堂へ案内致しましょう』
蓮雫はにこやかに我々を迎えると、豊月を連れて先を歩いた。
『……なあ、霊界より神界の方が立場が上なのか?』
蓮雫の様子を見て、俺は神様に小声で尋ねた。
『ふむ、霊界は中間地点じゃから、統治する領域や神の数で比べれば神界の方が多いがの。特に優劣は無い。地獄や冥界との繋がりも深いから、そこ迄含めるとまた変わってくるしの』
『鬼って言うと、乱暴で横柄な感じを想像してたが、食堂の奴らも素直だし、蓮雫の旦那は俺らに対しても丁寧だよな』
横を歩いていた西原も会話に加わる。西原は食堂で働く鬼達に、蒸し芋とスープの作り方を指導していたが、
反発もなく皆真面目に取り組んでいた。
『地獄の獄卒と比べるとまた違うじゃろうがの。ただ、アイツも鬼を束ねる立場の者じゃ。普段はあんな感じじゃが、相当な力を持っておるぞ』
『いつも穏やかな奴の方がキレると怖いって言うしな……』
そんな事を話しながら歩いていると、すぐに食堂に着いた。豊月の相手は蓮雫と神様に任せて、俺と西原は厨房へ向かう。
『じゃあ、始めますか!』
数分後、西原は料理を盆に乗せて厨房を出ると、食堂の席に座っていた豊月達の前に進み出た。
『あら、早いわね!』
『汁と具材は、昨日から仕込んでおいたんでね』
豊月の前に置かれた器からは、白い湯気が立ち、鰹出汁の良い香りが辺りに広がる。黄金色の汁に、ふっくらと煮込まれた分厚い揚げ、緑が鮮やかな小ねぎが浮かんでいた。
熱々のきつねうどんだ。
月並みかもしれないが、狐と言って思い浮かぶのはやはり油揚げだった。
彼女の好みについて情報が得られなかった俺達は、それぞれ油揚げを使ったレシピを考える事にしたのだ。
『箸は使えるか?』
西原が彼女に箸を手渡す。
『何年人間に化けてきたと思ってるのよ? 箸ぐらい使えるわよ』
豊月はそう言うと、西原から箸を取り上げ、器用にうどんを食べ始めた。
つるつるとうどんを頬張ると、彼女は大きな眼をさらに見開き、しばらく無言でうどんをすすった。
続いて、たっぷりと出汁の染みたお揚げを持ち上げて噛り付く。じわっと汁が溢れて滴る。
(旨そうだな……)
思わず俺まで食べたくなってしまった。西原の取った出汁なら間違いなく絶品だろう。
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