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第2章 となりの女神と狐様

18.新メニュー作戦準備

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『だーいじょーぶじゃよ。ちょっと吸われた位じゃ死にはせん。少し疲れる程度じゃ。それに、わしはお前さん方の腕を信じておるからの』

 神様はキリッとした表情でこちらを見つめる。誤魔化されてたまるか。

『まっかせとけよ! これでもホテルの季節メニューのコンペでは負け知らずだったからな!』

 西原の純粋さは美点なのだが、こういう時は真逆に働く。
 豊月は眉根を寄せて、その美しい顔を曇らせていたが、やがて組んでいた腕を解いた。

『ふーん、そうね……。そういう事ならのってあげてもいいわ。準備が整ったら、また此処を訪ねて来なさい』

 彼女はそう言うと、くるりと踵を返す。再び辺りに甘く香る霧が現れ、彼女の姿を覆っていった。

『久しぶりに美味しいものが頂けるの、楽しみにしてる……』

 艶やかな声だけ残して、彼女は霧の中に消えていった。

(完全に勝つつもりでいやがる……)

 俺は歯噛みしながら、神様と西原を振り返った。

『とにかく今は、他に手が無い。何としても女狐に勝つぞ』

 俺の言葉に、二人は力強く頷いた。

『さて、狐をあっと言わせながら、食堂でも提供し易いメニューといえばなんだろうか……』

 翌朝、俺と西原は朝日を浴びて霊界へと戻り、食堂で打ち合わせしていた。

『狐相手に化かし合いじゃ不利だろう。有無を言わせねぇ位、ストレートに美味いもの作ってやらねぇとな』

 俺は昨夜のパトロールの間、女狐が公正な味の判断をしないのではないかという疑念について、神様に確認しておいた。

『アイツはああ見えて勝負事には真っ直ぐな奴じゃよ。そこは心配しなくて良いじゃろう』

『それなら良いが……。ちなみに好き嫌いはあるのか?』

『さあな……人間が作るもの自体、余り食べた事が無いんじゃないかの? 精気を吸う相手は選んどった様じゃが、料理の好みとは関係無いじゃろう』

 そんな訳で、料理のヒントになりそうな情報は無いのであるが、俺は暫く考えた後、西原と顔を見合わせて言った。

『狐が好きと言ったら……』

『アレ、か……?』

 次の日から、俺達は手分けして食材を集め始めた。俺は神様に特定の料理をねだらせる事で、夏也に食材を買わせ、冷蔵庫から幽霊を抜き取って来た。

 西原の場合はそうもいかないので、とりあえず使えそうなのものを探して、毎日自宅の冷蔵庫を覗いて帰って来る事にしていた。

 俺が食堂の厨房に持って来た食材を並べていると、暫くして西原も戻って来た。

『今日はどうだった?』

『いやー、何とか今日ので俺の方は揃ったぜ。毎日通っても、思い通りの物が揃ってねぇから大変だよ』

 そう言って、西原は担いでいた荷物を調理台へ下ろした。

『これで、いよいよ準備が出来たな。試しにこれから作ってみて、上手くいったら明日には豊月を呼びに行こうぜ』

『ああ、やってやろう!』

 俺は包丁を握りしめた。
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