護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので

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第2章 となりの女神と狐様

17.取引き

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『まあ、どうしてもって言うんなら取りなしてあげてもいいけど、その場合のアタシのメリットって何な訳?』

 彼女は髪をかき上げながら言った。しばしの沈黙が辺りを支配する。

『……袖の下寄越せってか?』

(しっかり取引きしてるじゃあないか……)

 突っ込みが喉元まで出かかったが、俺はぐっと堪えた。

『当然でしょ? アタシは神界でも結構顔が効くから、上手く交渉出来ると思うけど、その分ちゃんと頂くものは頂かないとね?』

『何が望みなんだ?』

 俺が尋ねると、彼女は口元に手を当てて考え込んだ。

『そうね~、本当なら若い男の精気が一番なんだけど……』

 言いながら、こちらを睥睨して溜息を吐く。

『アンタ達、見た目は若いけど中身はおっさんだし、そもそも死んでるものね……。そっちのボンクラ神も信仰が少なくなって、殆ど精霊レベルまで力が落ちちゃってるし……』

『この姉ちゃん、神様の使いなんじゃねぇのか? なんか言ってる事が妖怪みたいなんだが……』

 西原が俺にそっと囁いたが、やはりちゃんと聞こえているようで、豊月は益々反り返りながら語り出した。

『そうよ、私は元々この辺りの山で有名な妖狐だったの。今は改心して宇迦様に仕えているけど、それまでは人間の精気や他の妖の妖力を奪って、自身の力を高めていたの。だから今でもあの味が忘れられずにいるのよね……』

 そう言って彼女はペロリと舌舐めずりする。確かに面倒な相手だ。うちの神様も苦手にする意味が分かった。

 すると、それまで黙っていた神様が急に顔を上げた。

『じゃあ、こんなのはどうかね?』

 あまり良い予感がしないが、神様は得意気に説明を続けた。

『此奴らが食堂で出そうとしている料理の試作品を、まずお前さんに試食して貰う。その料理が、お前さんがこれまで食してきたモノより美味ければ、今後その料理の原料を供給して来て貰うという訳じゃ』

『えー、別に人間の作った料理なんか食べたくないわよ。若い男を連れて来なさいよ』

 豊月は口先を尖らせて抗議した。欲望に真っ直ぐ過ぎる。

『また人間に手を出したりしたら、神様の使いをクビになったりしないのか?』

 俺は突っ込んでみた。

『少しなら問題ないわ、コッチだってお役目を全うするにも力を使うんだから。ましてや許可を得てなら、尚更お咎め無しになるでしょ?』

 彼女は勝ち誇ったように微笑む。

『んむぅ~、仕方ないのう。じゃあ料理が不味ければ、ウチにおる若いのをちょっと吸わせてやろう』

『おい! 勝手に俺の甥っ子を差し出すな!』

 俺は慌てて止めに入る。この適当神め、先月守ってやると約束したばかりだろうが。
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