護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので

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第2章 となりの女神と狐様

14.近所の女神様

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 その間、俺達は二階に居たが、夏也は帰ってすぐ食事の支度や風呂など、一階で過ごしていたので、俺達の気配に気付く事はなかった。

『今日はキャベツと豚肉炒めじゃったよ。春のキャベツは歯ざわりが良くて美味いのう。味付けはお前さんのレシピじゃよ』

 西原と話をしながら暫く待っていると、神様が夕飯を済ませてやって来た。

『ちぇ、羨ましいなぁ。いい加減芋とキノコも飽きたぜ』

『夏也の作った料理も、いつか食べてみたいがな……。さあ、まずは仕入れ交渉を成功させよう』

 俺達は神社を目指し、宵闇の中へと繰り出した。道の暗さも、生温い風も我々幽霊にはお誂え向きだ。

 そんな俺達がこれから会いに行くのも神様という人外の存在なのであるが。

 家の前の坂道を下って、左手に道なりに進んで行くと、月影に浮かぶ鳥居と石段が見えてくる。 

『ここも久しぶりだな』

『大人になってからは、年末年始くらいしか来ないからなぁ』

 西原と並んでこの石段を登るのなんて、それこそ子供の時以来ではないだろうか。
 神様とは数年前に一度、彼の帰るべき社を探しに、ここへ来た事があった。その時の俺はまだ生きており、直接ここの神様の姿を見た訳ではなく、うちの神様についての情報も特に掴めなかった。

(幽霊になった今なら、直接話が出来るのだろうか?)

 そんな事を考えながら上まで登りきると、少し開けた場所に出る。木々の間から星明かりが見える他は、奥に佇む拝殿もすっかり闇に沈んでいた。
 生身の人間であったなら、とても長居はしたくない景色である。

『まずは、弁天様に挨拶すべきか?』

『そうじゃな。サザナミの方が 真面まともじゃから、先に聞きたい事が有れば話してみると良い』

『ん? 弁財天様じゃねぇのか?』

 西原が不思議そうに尋ねる。

『そんな位の高い神が、一々こんなど田舎の神社に直接出張って来る訳なかろう。使いの駆け出し女神じゃよ』

 神様が手をはたはたと手を振りながら解説する。

 手水に寄るべきか迷ったが、この身体では汚れもへったくれもなかろう。穢れも払うべきなのだろうが、誤って成仏しても困るので辞めておいた。

 真っ暗な拝殿の前に立ち、手を合わせ柏手をすると、扉の奥にほんのりと橙色の明かりが灯った。

(何度も来た神社だが、神様の姿を直接拝むなんて初めてだ……)

 やがて扉が僅かに開き、隙間から白魚のような手が現れる。俺は思わず息を飲んだ。

 扉は音もなく開かれ、美しい黒髪をさらりと垂らした清楚な雰囲気の美しい女性が進み出て来た。彼女はふわりと微笑むと、涼やかな声で語った。

『今晩は、駆け出し女神のサザナミです』

『しっかり聞こえてんじゃねーか!』

 西原が神様をどつく。なんかもう俺達の神に対する不敬が過ぎる。再審で地獄逝きにならなきゃいいが。

『ふふ、冗談ですよ。護堂さんや西原さんには何度も参拝いただきましたので覚えております。お二人ともまだお若いのに残念な事でした……。それで、神様と幽霊の皆さんで、本日はどういったご用件でしょう?』

『実は、霊界にある食堂用に、食材を届けて欲しくて、お稲荷さんに相談に来たんだ』

『霊界の食堂……?』

 サザナミ様は不思議そうな顔をする。神様であっても、用事が無ければ霊界に行く事など無いのだろう。

『俺達は予定より早く死んじまった分、霊界で働く獄卒用の食事を考える役目を仰せつかったんだが、あっちにはロクな食材が無くって困ってるんですよ。人間界から霊界へ正式に食材を回して貰えるルートを探してるんです』

『そう言う事であれば、確かに稲荷を通じて食物の神と相談してみるのが良いかもしれませんね……』

 西原が事情を説明している間、俺の脳裏にふとある疑問が過る。

『アンタは、俺達が死んだ事を知っていたようだが、何で死んだかは分かるのか……?』

 その場に一瞬緊張した空気が流れた。

『……いいえ。でも、ここ数年でこの辺りに怪しい気配を感じる事は増えました。不審な死が続いている事実も把握はしているのですが、正直こちらも原因が掴めておりません……』

 サザナミ様は溜息を吐いた。

『大切な氏子達を守る事も出来ず、自分の未熟さが呪わしいです……。本当に氏神失格ですね……』

 確かにこの神社は、この辺りの氏神様に当たる。その地域に住まう者達の守護は、氏神の勤めなのだろう。

 どうやらさっきの反応は、冗談というより普段から気にしていた事に触れてしまった事に寄るのだろう。落ち込む女神に俺は問い掛けた。
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